【読書】『戦時少年佐々淳行 父と母と伊藤先生』について
佐々淳行『戦時少年佐々淳行 父と母と伊藤先生』(2003年 文春文庫)を読んだ。
読書期間:2005/02/28-2005/03/02
採点:★★★★☆(4点/5点)
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内容紹介:
「昭和二十五年五月五日の正午。戦争を生き延びたら、必ずみんな西郷さんの銅像の下に集まろう」。それが卒業式で伊藤先生と交わした“男の約束”だった…。佐々成政の血を引く硬派の厳しい父と、武家ながら風流な母に育てられた昭和一桁生れの著者が、艱難辛苦の戦時少年時代と昭和初期の東京の風物詩を描く。
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最近は歯ごたえ強い書籍が続き、一冊に10日前後費やす日々となっていたが、こちらは気軽に読めて、すぐに読了。もともと、著者の作品には傾倒しているから、その分考え方、性格、その後の人生などを知っていて、本文を理解しやすかった側面もある。
さて、内容についてだが、著者のいつものパターンで危機管理読本、というわけではない。佐々淳行氏の作品では出色といっても差し支えないかもしれない。いつもの自慢モードも今回はおさえぎみ。「ぼく」という一人称にも非常に違和感がある。
著者の少年時代を描いたこの作品、少年時代のいたずらの数々の中に、彼を育んだ両親、恩師の人物描写が繰り広げられる。また、いわゆる昭和一桁が見た戦前戦中の時代の空気や東京の様子を丹念に描き出す。
これは、昭和一桁の体験談としての史料価値というのが第一義にあげられる一作だと思う。
軍国主義に疑いなく染まる時代の雰囲気を背景として感じさせ、その中で、戦争に疑問をもつ青年の意識。貧困窮乏にあえぐ中での生活の成り立たせ方。空襲を、焼け跡の生身の体験。
教科書には出てこない。副教材にも出てこない。田舎の育ちなので、空襲体験を語る家族も僕にはいなかった。15年くらい前までは、毎年NHKの朝の連続テレビ小説で必ず描かれた空襲の様子だが、あれを見ていても、上っ面しかわかることはないのだというのが、よくわかった。
すなわち、非常時には違法行為をして生きていくのだと。
ただ、この本で描かれるのは悲壮なものではない。空気銃でスズメなどの小鳥を撃ち、それを家族の夕食のおかずにしていたとか。配給でもらうタバコを、空腹をまぎらわすために吸っていたとか。これは配るほうがわるいだろう。。。当時の子どもはほとんどスモーカーだったらしい。。
おいおいと思ったのは、戦場の兵隊に届ける慰問袋のエピソード。慰問袋とは、手ぬぐい、靴下、石鹸、マッチ、包帯、ようかん、コンペイ糖入りのカンパンなどに小学生が慰問文を挿入して届けるものだったらしい。佐々氏含む当時の悪ガキ数名は、この中のようかんやコンペイ糖を内緒でくすねていたそうだ!
食べ物不足の中、少しでも多く分量をもらったりとか食材を得ようとかする工夫の数々は、非常にたくましい。また、佐々氏の「現場での知恵」というのは、こういうところで育まれたのだなということがよくわかる。
伊藤先生など佐々氏の少年時代をとりまく大人たちが、この本の主役なのだろう。しかし、その方たちの人格は感銘するが、印象にはあまり残らなかった。誰もが人生の中で、そうした恩師には出会うだろうし、そうした人々が今の学校現場にいないとは思えない。
前述のように、昭和一桁のありのままの体験談として、是非一読しておきたい一冊のように思う。
■ここにトラバ打ちました
「戦時少年 佐々淳行」(佐々淳行 著) 11冊目【汎著巣読書日記】
戦後60年 日野原重明さん・森英恵さんの証言【NOPOBLOG】
■関連リンク
佐々淳行『戦時少年佐々淳行 父と母と伊藤先生』(2003年 文春文庫)
■関連エントリー
ブログと私(7) 追記・「父の日記」
ブログと私(6) 「父の日記」の持つ可能性
書籍と私(5) 『日本海軍の興亡』
書籍と私(4) 『日露戦争名将伝―人物で読む「激闘の軌跡」』
書籍と私(3) 『瀬島龍三 参謀の昭和史』
書籍と私(1) 『日本陸海軍の生涯』
佐々淳行『戦時少年佐々淳行 父と母と伊藤先生』(2003年 文春文庫)を読んだ。
読書期間:2005/02/28-2005/03/02
採点:★★★★☆(4点/5点)
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内容紹介:
「昭和二十五年五月五日の正午。戦争を生き延びたら、必ずみんな西郷さんの銅像の下に集まろう」。それが卒業式で伊藤先生と交わした“男の約束”だった…。佐々成政の血を引く硬派の厳しい父と、武家ながら風流な母に育てられた昭和一桁生れの著者が、艱難辛苦の戦時少年時代と昭和初期の東京の風物詩を描く。
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最近は歯ごたえ強い書籍が続き、一冊に10日前後費やす日々となっていたが、こちらは気軽に読めて、すぐに読了。もともと、著者の作品には傾倒しているから、その分考え方、性格、その後の人生などを知っていて、本文を理解しやすかった側面もある。
さて、内容についてだが、著者のいつものパターンで危機管理読本、というわけではない。佐々淳行氏の作品では出色といっても差し支えないかもしれない。いつもの自慢モードも今回はおさえぎみ。「ぼく」という一人称にも非常に違和感がある。
著者の少年時代を描いたこの作品、少年時代のいたずらの数々の中に、彼を育んだ両親、恩師の人物描写が繰り広げられる。また、いわゆる昭和一桁が見た戦前戦中の時代の空気や東京の様子を丹念に描き出す。
これは、昭和一桁の体験談としての史料価値というのが第一義にあげられる一作だと思う。
軍国主義に疑いなく染まる時代の雰囲気を背景として感じさせ、その中で、戦争に疑問をもつ青年の意識。貧困窮乏にあえぐ中での生活の成り立たせ方。空襲を、焼け跡の生身の体験。
教科書には出てこない。副教材にも出てこない。田舎の育ちなので、空襲体験を語る家族も僕にはいなかった。15年くらい前までは、毎年NHKの朝の連続テレビ小説で必ず描かれた空襲の様子だが、あれを見ていても、上っ面しかわかることはないのだというのが、よくわかった。
すなわち、非常時には違法行為をして生きていくのだと。
ただ、この本で描かれるのは悲壮なものではない。空気銃でスズメなどの小鳥を撃ち、それを家族の夕食のおかずにしていたとか。配給でもらうタバコを、空腹をまぎらわすために吸っていたとか。これは配るほうがわるいだろう。。。当時の子どもはほとんどスモーカーだったらしい。。
おいおいと思ったのは、戦場の兵隊に届ける慰問袋のエピソード。慰問袋とは、手ぬぐい、靴下、石鹸、マッチ、包帯、ようかん、コンペイ糖入りのカンパンなどに小学生が慰問文を挿入して届けるものだったらしい。佐々氏含む当時の悪ガキ数名は、この中のようかんやコンペイ糖を内緒でくすねていたそうだ!
食べ物不足の中、少しでも多く分量をもらったりとか食材を得ようとかする工夫の数々は、非常にたくましい。また、佐々氏の「現場での知恵」というのは、こういうところで育まれたのだなということがよくわかる。
伊藤先生など佐々氏の少年時代をとりまく大人たちが、この本の主役なのだろう。しかし、その方たちの人格は感銘するが、印象にはあまり残らなかった。誰もが人生の中で、そうした恩師には出会うだろうし、そうした人々が今の学校現場にいないとは思えない。
前述のように、昭和一桁のありのままの体験談として、是非一読しておきたい一冊のように思う。
■ここにトラバ打ちました
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