ぎんぐの紅茶

紅茶初心者の奮闘記

キッチン (吉本ばなな)

2005年01月14日 | お茶が出てくる本&紅茶関係の本レビュー
紅茶が出てくる本ではないけど、紅茶を入れるたびに思い出す話ということで。

この本を読んだのは10年以上前だ。
ストーリー自体はもう覚えていないが、強烈に印象に残ったシーンがある。

主人公はプロの料理人だ。
小説では、彼女が料理人になる過程が描かれているのだが
それは「料理を作っては失敗し、また作り直しては失敗しを繰り返す」というものだ。
いつも料理のことを考え、挑戦し続ける毎日。いつも持ち歩いてぼろぼろになった食品成分表。
端から見ると、修行のようなかなり過酷な日々ではないかと思うのだが、彼女は言う。
「次の日の朝が来るのが楽しみで仕方ない。なぜならまた新しく料理を作ることができるからだ」

当時、「そんなのは嘘だ!」と思った。
作家の頭の中だけで作られたシーンなのだろうとも考えた。
私にとって好きなことをするということは、ゆったり楽しむことであり
修行のような日々を楽しいと言えるのはありえないことだった。
だが、それがものすごく羨ましいと思ったことも事実である。
次の日の朝が来るのが楽しみな趣味を持ってみたかった。
そんな趣味はありえないと思っていたけれど。

だが今、紅茶を入れるのがものすごく楽しい。
体調と時間さえ許すならば、一日中だって紅茶を入れていたい。
その紅茶にあった入れ方を追求したい。
低血圧気味で朝が来るのが憂鬱だった私が
次の日の朝が来るのがすごく楽しみだ。
また紅茶を入れることができるから。

このシーンは作者の想像の産物だと思っていたが、
今は、作者がプロの作家になる過程がこうだったのだろうと考えている。
小説を書くのが楽しくて仕方なかったのだろう。
毎日ボツを繰り返し続け、それでも次の日が来るのが楽しみなほどに。

毎日紅茶を入れながら、このシーンを思い出し、かつての私に語りかけている。
そういう趣味ってあるんだよ~、と。


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