読後感

歴史小説、ホラー、エッセイ、競馬本…。いろんなジャンルで、「書評」までいかない読後感を綴ってみます。

異議あり日本史

2006年12月20日 | エッセイ
                   永井路子      文春文庫

 新井白石は名政治家か?春日の局は秀忠夫人おごうと対立したのか?鎌倉幕府の将軍は無力だったか?…等々、作家の永井路子さんが、歴史の常識に意義を申し立てる。
 永井さんは歴史家ではなく、もちろん解読困難な古文書を読みこなしたり、発掘作業で新発見をしたわけではない。それが何故常識を覆せるのか。それは、歴史の「常識」は、後世の本や芝居、伝聞などによって勝手につくられたイメージであることが多いからであろう。
 中でも私が前々からそうじゃないかと思っていて、この本を読んでハタと膝を打ったのは「今川義元は凡将か?」と「義経は悲劇の名将か?」である。それまでの実績をみても、義元が並以上の政治家であったことは明らかなのに、テレビやマンガではヘタレに描かれてきた(大河ドラマ「武田信玄」では、かなりましだった)。
 もっと引っかかっていたのが義経である。戦の天才であることは誰も異論がないが、後白河院の東国武士切り崩しに簡単に引っかかり、兄に甘えて拒絶されると「頼朝討伐の院宣」を受けるなど(この院も院だ)、滅亡の原因は自分にあるのは明らかだ。いや、義経を貶めたいのではない。彼を滅ぼした頼朝や梶原景時が「嫉妬にかられた愚かな奴」と見られるのが、あまりにもひどいと思っていた。
 永井さんは「義経は政治的センスゼロ」と、バッサリ切っている。この本は切るばかりではない。「古代ーそのうさんくささの魅力」など、答えは出せないものの、知的意欲をかきたててくれるエッセイもたくさんある。