読後感

歴史小説、ホラー、エッセイ、競馬本…。いろんなジャンルで、「書評」までいかない読後感を綴ってみます。

2007年02月28日 | ホラー
       スティーブン・キング   『闇の展覧会・霧』ハヤカワ文庫NV所収

 やられた…。キングのストーリー・テリング(何と訳すんだ?)能力に。読み出したらページを繰る手が止まらない。一晩で読んでしまった。何が面白いかは読んでもらうしかないが、一応ストーリーを。
 謎の濃い霧と、その中に潜むモンスターに、スーパーマーケットに追い詰められた人々の葛藤と戦い…って話なんだけど、そのモンスターたるや、巨大触手といい蜘蛛もどきといい、20年前のB級ホラーも真っ青のベタなしろもの。こんな」ネタを使ってこんな面白い話を書くとは、コンビニの素材で一品作る料理人みたい。
 人物描写がいいとの声もあるが、主人公を含めた数人の知的で行動力ある人々と、単細胞のカウボーイ気取り、理屈ばかりの弁護士ってキャラはアメリカンの定番。ちなみにアメリカのホラーで犠牲になるのは(本書には出ないが)太っちょと弁護士が多い。前者は逃げ足が遅く、後者は嫌われ者?保身第一で危機管理放棄の店主と、何故か一部主婦にカリスマ人気のオカルトかぶれの老婦人は、むしろ日本にいそう。
 ここのモンスターは「人類には到底歯が立たない」ものではなく、銃や炎、殺虫剤すらある程度効き目がある。それだけに、霧の深さが希望と絶望の揺れを演出する。モダンホラー解説書に「本書を気に入る人はキングを気に入る」と書いてあったが、私はやっぱりキング好き?

サイコメトリック・キラー

2007年02月16日 | ホラー
                 D.グラウシス&J.スターリン    早川書房

 主人公デヴィッド・ヴァンデンマークは、瀕死の重症を負った際に身につけたテレパシー&物に残る残留思念を読み取る能力(「テレビのちから」で知られるようになった)を駆使して、妻子を殺した連続殺人鬼に復讐し、その勢いで(おいおい)全米の異常殺人鬼を警察に先んじて見つけて処刑してまわる。前半は、デヴィッドの過去と、彼を追い続けたFBI捜査官アイラ・レヴィッドとの攻防。後半は、あまりに強大な敵に遭遇したデヴィッドが、宿敵アイラと手を組んで立ち向かうアクション。
 もっと陰惨な感じかと思っていたが、そうでもなく、すごくテンポがよくてすんなり読めた。一味のシュリー医師をテレパシーで追い詰めるシーンは、少し残酷ながら痛快。不満は、主要人物のはずのアイラがさっぱり活躍しないこと(撃たれて寝てただけじゃ…)。ヒロインのピンチに秒単位で間に合うのは…、アメリカンな作品にそこはツッこむなってことですか。
 ネットで文庫版が手に入らずハードカヴァー版が来たのだが、あとがきに「スピルバーグで映画化決定!」とある。その後何事もないのをみると流れたのか。まぁ、本単独で十分面白いのだが。

黒衣の女

2007年02月09日 | ホラー
                   スーザン・ヒル   ハヤカワ文庫NV

 これは怖い。サイコ・ホラーもサイエンス・ホラーもスプラッタものもそれぞれに好きだけど、こういう幽霊ものもやっぱり凄いなと思う。
 前半は、沼沢地方の美しい自然描写が見事で、亡霊かなって思える黒衣の女もひっそり静かで、しんみりした民話風の話かな?って思う。ところが、夜になって雰囲気は一変!夜中に沼地にさまよい出た(こいつはアホか!)主人公が聞く、馬車が流砂に飲まれる音、ポニーのいななき、子供の悲鳴。閉じられた子供部屋から聞こえる謎の音…。
 そしてクライマックス。ついに開かれた子供部屋、愛犬を沼にいざなう口笛。再登場した黒衣の女は、恐るべき怨念のかたまり。さらに怖い後日譚。若き主人公は婚約者に振られたものとばかり思ってたが(これ以上はネタばれ)。
 本書は映画ではなく演劇として、その後も親しまれたという。たぶん正解。ホラーものの映画化は、監督や俳優がよほど緻密に作りこむか(サイコ、たたり、シャイニングなど)、開き直ってドタバタB級ホラーにするか(こっちが打率高し)のがいいかも。
 

深夜勤務

2007年02月05日 | ホラー
                   スティーブン・キング  扶桑社ミステリー

 モダン・ホラーの巨匠にして稀代のストーリー・テラー、スティーブン・キングの短編集。怖い、不気味な作品も多数あるのだが、私が驚き、惹かれたのは、激烈おバカホラーともいうべき一群の作品。キングにこういう一面があったのか。
 腐ったビールを飲んで怪物と化した父親(このあらすじだけで雰囲気が伝わろう)の恐怖を描いた「灰色のかたまり」。血の味を覚えたクリーニング工場の機械が人間を襲い、果ては町に繰り出す「人間圧搾機」。悪魔祓いを仕掛けようとする主人公たちを迎え撃つ準備ができた圧搾機が、自らに気合を入れる場面が最高。
 トラックたちが人間に反旗を翻し、バスやブルドーザーを抱き込んでドライブインの客と従業員を追い詰める「トラック」。脅されて給油をしていた主人公が、「もうガソリンスタンドは空っぽだ」というところに、「いんや、続きだ」とばかりにガソリン満タンのタンクローリーがやってくる。最初怖いと思って読んだ「地下室の悪夢」にしても、振り返ってみると、ずっと手をつけていない物置や押入れの奥(うちにもある)を掃除する時の恐怖を描いている気がする。
 なんとも楽しくて怖い本でした。