読後感

歴史小説、ホラー、エッセイ、競馬本…。いろんなジャンルで、「書評」までいかない読後感を綴ってみます。

中性子星

2012年01月20日 | SF
                     ラリイ・ニーヴン        ハヤカワ文庫

 名作「リングワールド」の著者、ラリイ・ニーヴンが、「リングワールド」直前にまとめた短編集。アマゾンで入手。
 93年を最後に重版されていなかったのであまり期待していなかったが、抜群に面白かった。何といっても、これを読むと「リングワールド」が、2倍面白く読めます。ネサスがクジン人の船長をけ飛ばした話が出てくる他、「リングワールド」でチラチラ触れられていた、アウトサイダー人やバンダースナッチ、グロッグといった生き物が主役級で登場します(語り手は地球人ですが)。クジン人も、しっかり人類の強敵として登場します。“痕跡”だけ登場するスレイヴァー人やトゥヌクティプ人の存在感も半端じゃありません。
 個人的に気に入った短編が「恵まれざる者」。語り手の地球人は、手のない巨大生物バンダースナッチのような知的生物に、手に代わるものを売っている商人。対価としてバンダースナッチが支払っているのが、6:4の確率で人間に部のある“バンダースナッチ狩り”の標的になること!
 彼がダウン星で出会ったのは、モジャモジャの毛の生えた円錐形で、成長すると全く動かなくなる定着生物グロッグ。ところがこの生物には、何に使うのか不明の巨大な脳が…。やがて明らかになるグロッグの生態、そして商売成立!!このグロッグ、次の短編「グレンデル」では、しっかり地球の宇宙船の客として乗船しています(^.^;

タイムシップ

2010年09月14日 | SF
             スティーヴン・バクスター    ハヤカワ文庫

 H.G.ウェルズの名作「タイムマシン」の、遺族の了解付き続編。「タイムマシン」で野蛮なモーロック族の中に置き去りにしてしまったエロイ族の少女を救うべく、主人公が再び未来への時間旅行に旅立つところから話は始まる。そして、前回とは打って変わって知性的に進化したモーロック族に出会う。
 この本のレビューは、タイムパラドックスがらみが多いんだけど、それ以上に印象が強かったのは、タイムマシンからの車窓風景。「タイムマシン」終盤でも、記述は短いながら、巨大化した太陽と原野にうごめく蟹という風景描写が素晴らしかった。本書でも、「タイムマシン」から数えて2回目の未来への旅で、スタートとともにビルがぼやけ、太陽が次第に動きを止め、やがて闇に閉ざされる(新生モーロック族が地球の自転や太陽を制御したのだ)。
 中盤では、「タイムマシン」終盤でみた風景を、モーロック族の友人ネボジプフェルに詳しくに語って聞かせる。そこではエロイ族は空に逃げて醜い人間の声で鳴く蝶に、モーロック族は人間の目をした蟹に、知性の無い進化を遂げていた。リアルに気持ち悪い。
 その後、いったん19世紀に戻って若き日の自分に出会って戦争に巻き込まれたりするんだけど、いろいろあって6千万年前の暁新世へ。 暁新世に逃れてきたイギリス人とともにファースト・ロンドンという村を築いて、ネボジプフェルとともに出発点の1891年を目指す。そこでの車窓風景がまた秀逸。しばらくして森が開けて、ファースト・ロンドンが巨大都市に成長、月が緑に覆われ、天空に衛星都市が築かれ、宇宙エレベーターが建設される。そうか、6千万年前のイギリスに、村規模とはいえ現代文明が移植されたんで、とてつもなく文明が進んでいる訳ね。
 その後、氷に覆われていく地球で「普遍建設者」なるすごい存在に出会って、時空の果ての旅へ。ここで、タイムパラドックスにそれなりに筋の通った説明がつけられる。時空の究極だけに、主人公がどんどん悟りきったような感じになってつまらない…、と思ったら、ラストでは当初の目的を思い出して、エロイ族の少女を救う旅に。なんかホッとしました。

天の光はすべて星

2009年03月03日 | SF
           フレドリック・ブラウン     ハヤカワ文庫

 正直、これがブラウン?と思った。奇想天外なスト―リーの短編やショート・ショートでならしたブラウンの、静かな、静かな長編。これもいい。
 57歳の老ロケット乗りが、木星探査計画を公約に掲げる女性議員の立候補を知り、ともに計画実現に向けて動き始める。ひそかな野望や挫折、恋、死を挟みながらも、プロジェクトは現実的に、実に現実的に実現に向けて動き続ける。卓越したロケット技術者でコスト感覚にも優れた主人公は、苦手な分野は人に任せてしまえる度量の広さを持つ。こんな人と仕事ができたらいいね。
 20世紀末、人類は月、火星、金星に降り立ち、宇宙ステーションが存在し、長距離輸送の主役は大型ジェット機だが、大陸間輸送にはロケット(スーペースシャトル型?)も少数使われている。1953年の近未来予想としては立派なもんでしょう。
 何よりタイトルがいい。よくぞこのタイトルに訳した。

地球の長い午後

2007年03月29日 | SF
ブライアン.W.オーディズ ハヤカワ文庫

 片面を太陽に向けたままの地球、「昼」の面は巨大な温室と化し、植物が動物を圧倒する。そこは大陸を覆いつくすベンガルボダイジュの巨木、樹の間を跳梁する移動植物と昆虫、そして僅かに生き残って樹上生活を営む人間たちの世界である。
 ツチスイドリ、ダンマリ、ハネンボウ…、奇怪な植物がとびかう前半部分もいいが、妙に印象に残るのが、終盤で登場する昼夜の境目の世界。薄暗い大地で支配権を争う人間もどきや犬もどきたちの陰惨で猥雑なこと。そして、親(?)である木につながれると安心し、切り離されると自分らをいじめるものにも甘える半人半植物の「ポンポン」たち。ある種の人間の戯画だろう。
 「夜」の面や、ベンガルボダイジュも恐れる海草の支配する海の世界はどうなっているんだろう…なんて考えると楽しい。

造物主の掟

2006年09月10日 | SF
                       J.P.ホーガン   ハヤカワ文庫

 レムの『砂漠の惑星』、セイバーヘーゲン『バーサーカー』シリーズと並んで、「機械が勝手に進化した3大傑作」と、私が勝手に名づけているうちの一冊。
 土星の衛星タイタンに着陸した鉱物採取用の異星人の自動機械がトラブルを起こし、ノイズが入りながら自己修復機能が働くうちに、当初の目的を無視して環境に適応したやつが生き残っていく。そして中世のような社会に達したところで人類に遭遇する。
 3大傑作のうちで一番科学的に怪しいが、それはさておき面白い。機械人間たちが自分のメカニズムを知らないのは奇妙だが、「人類だって、細胞だの遺伝子だの理解したのは最近でねぇか!」という強引な理屈で読者を納得させる。正統派科学者とインチキ心霊学者とのコンビもいい。
 

さよならダイナサウルス

2006年08月17日 | SF
                    ロバート・ソウヤー  ハヤカワ文庫

 タイムトラベル、恐竜絶滅の謎、○○生命体(ネタバレになるんで、伏字にします)と、使い古されたテーマばかりを組み合わせて、よくぞこれだけ面白い話にしたものである。ハヤカワの『SFハンドブック』で狙いをつけて買った本の中でも、「当たり!」って感じ。
 『星を継ぐもの』と同じような(ほめ過ぎか?)、壮大な惑星間興亡史の謎解きミステリーになっているんだな。中でも、火星生物「ハンド」の悲劇は胸を打つ。そしてやっぱり、小惑星帯がキーになってるんだ。なんて言ってたら、新聞に「太陽系の惑星が12個に」ってニュースが…。メディアも、「暗記する星の名前が増える」なんていう、頭の悪い受験生みたいな反応はやめて欲しいな。
 それにしても、作中に登場する「密集星団をつくった連中」は、どうなったんだろう?

ハイウェイ惑星

2006年06月01日 | SF
              石原藤夫 筒井康隆編『60年代SFベスト集成』徳間文庫収録

 古本屋で偶然見つけた短編集にのっていた話。その昔、とある惑星に自己修復機能を持つ高速道路を縦横に張り巡らして滅亡した知的生物がいた。原始的な段階にあったその星の生物は「道路があることを前提にして」進化していく。不時着した地球人が出会う「原始車輪」「運搬車輪」「飛行車輪」(立体交差でジャンプしているうちに進化した)など様々な車輪生物が楽しい。
 この本には他に、競馬の血統評論家として名高い山野浩一さんの「X電車で行こう」、おいおい主人公どこに行くって感じのラストの「幹線水路2061年」(光瀬龍)、SFというより一級ホラーの「渡り廊下」(豊田有恒)、編者の筒井さんのユーモアSF「色眼鏡の狂想曲」など好短編多数あり。

竜の卵

2006年04月20日 | SF
                  R.L.フォワード   ハヤカワ文庫

 670億Gの重力を持ち、高速回転する中性子星の上で進化した知的生命体「チーラ」の歴史と、中性子星の観測に宇宙船で接近した地球人とのコンタクトを描いた作品。核反応で動くチーラは、なんと人間の100万倍の速さで生きる。チーラのメッセージを受け取った乗組員が、返事を出すのにかかった1分間がチーラの感覚で2年間だったことを知り、「なんてこった。彼らは待ちくたびれて家に帰っちまったに違いない」ていうのがいい。
 原始的だったチーラの文明は人間との接触をきっかけに急速な進歩を始める。30分余りでチーラの1世代が経過しちゃうんで、ちょっと目を離すと中世から近世になったり、いつの間にかコンピュータを作ってたり…。平べったいチーラは、超重力のため、自分の肩(ないけど)越しに振り返ったり、前方のチーラの背中を見ることができない。女チーラの「私の背中を見るのは恋人と地球人だけ」ってセリフがいい。
 本書の引き合いに必ず出される、メスクリンの『重力の使命』も、ネットの古本で取り寄せて読んでしまった。

星を継ぐもの

2006年04月11日 | SF
                   J.P.ホーガン   創元推理文庫

 太陽系を舞台にした、壮大なSFミステリー。月面で発見された死体は、現代人に間違いないのだが、5万年前に死んでいた。一つの謎の解明が新たな謎を呼んで…。SFでもあり、ミステリーでもある。ただ、最後の謎の答えは確率的に苦しいかも。とにかくラストの1行が素晴らしい。少し頑固な正統派科学者と八方破れのアイディアマンのコンビが、意外な相乗効果と友情を生むってパターンは、『造物主の掟』でも登場する。映画化されたら、コリエルは誰が演る?


〔私の日常から〕
TVで『タイムマシン』の原作者としてH.G.ウェルズが紹介されているのを見た、小学生の娘の一言
「この人もハード・ゲイなの?」

砂漠の惑星

2006年04月04日 | SF
                スタニスワフ・レム    ハヤカワ文庫

 最近亡くなったレムさんの作品では、何といっても『ソラリス』が有名ですが、私はこれも好き。ほっぽらかされた機械が勝手に進化する話では、他にセイバーヘーゲン『バーサーカー』シリーズ、ホーガン『造物主の掟』がある。おお!3つとも大傑作だ。
 大型コンピュータ、ピラミッド型組織の時代に、「中央司令室」なしに集団行動をとる粉末機械を構想したのがすごい。東欧の人だけに、「中央司令室」頼みの組織の限界を知っていたのかも。面白かったのは、生存競争の最後に粉末機会に負けた植物機械。動かないという発想は良かったんだけど。惜しかったね。


※お詫びm(__)m 真田太平記の著者は池波正太郎さんです。ちょうど海音寺作品を読んでいたので脳内が混戦したみたい。年は怖い。