読後感

歴史小説、ホラー、エッセイ、競馬本…。いろんなジャンルで、「書評」までいかない読後感を綴ってみます。

フフフの歩

2006年05月26日 | エッセイ
                       先崎学   講談社文庫

 口八丁手八丁(?)で知られる現役将棋プロ、先崎8段が絶妙の語り口で将棋指しの日常を綴った本。もちろん先崎さんの日常も楽しいが、この本の影の主役は、新4段の近藤正和さんではなかろうか。
 奨励会を抜けて、プロの4段になれるかどうかの日、大阪の競争相手の結果を待つ時の周章狼狽ぶりが可笑しい。そりゃあ人生がかかっているんだから、「内心」動揺するのは当然だが、正直すぎるのだ。いつもの通り各々が関心のある将棋の棋譜を並べている先輩たちに、「よくこんな時に(可愛い後輩の人生がかかっている時に)棋譜なんて並べていられますね!」だもんね。
 無給の奨励会員からプロになった時の「お金が天から降ってくるようだ」って表現も楽しいし(危うく年間最高勝率を更新するほど勝ちまくった)、連勝を実力者の佐藤9段に止められた将棋を、PL学園と柏崎(出身らしい)高校との試合に例え、最後にかけられるだけかけた王手を「甲子園の思い出作りの代打攻勢」に例えるのも最高。他には勝浦9段の「20年たったらわかる」が面白い。
現在大揺れの将棋界だが、ファンが楽しめるよう収まってほしい。

尼子経久

2006年05月16日 | 歴史小説
                       中村整史朗  PHP文庫

 PHP文庫の戦国大名書き下ろしシリーズは、小説の主人公にあまりなっていない武将のファンには有難い存在である。他に「榊原康政」、「直江兼次」、「真田幸隆」などもある。実は若き日の経久を描いた『竜の夢』という小説はあるのだが、やはり晩年の毛利とのからみが見たい。
 渋いことに、私の一番好きな戦国大名が経久なのである。っていうか、大河ドラマで緒方拳さんが演じた経久のイメージの影響大(^^; 冷徹さと男気をあわせ持った魅力ある人物だなあ。戦国の口火を切ったのは北条早雲(人の国を奪った)ではなく経久(守護から自立した。ただし自分の城を奪い返した)という説もある。
 鉢屋党の助力を得て奇襲に成功した月山富田城奪還戦、三国志の「苦肉の計」にならった(ホントかな)三沢氏攻略、猪突猛進の孫・詮久がやらかした郡山城攻略大失敗など、戦いの場面も迫力満点。

魔女の家の夢

2006年05月13日 | ホラー
          H.P.ラブクラフト ラブクラフト全集5収録 創元推理文庫

 クトゥルー神話もの(だよね?グレイゾーンかな?)の中でもおぞましい作品。「魔女の家」と呼ばれる屋敷にあえて部屋を借り、秘法の研究をしていた若者が、魔女とねずみのような怪物(名前が「ブラウン・ジェンキン」だって)に異次元いざなわれて、生贄の儀式に付き合わされるという話。
 生贄…にされるのも嫌だけど、つき合わされるのもやだなぁ。何十年も塞がれていた屋根裏の一角から、新しい骨が出てくるのが怖い。文庫の解説に「十字架におびえる魔女は陳腐」とあるが、キリスト教国ではそうなんだって。

球界地図を変えた男・根本陸夫

2006年05月03日 | その他
                    田坂貢二    日本経済新聞

 選手としては二流、監督をしてもBクラスばかり。ところがフロントに入ってチーム作りに入るや、広島カープ、西武ライオンズ、そして「我が」福岡ソフトバンクの黄金時代の基礎を築いた男のドキュメンタリー。監督やコーチは現役時代の成績のご褒美、フロントは親会社の意向、といった日本球界にあって、チームづくりのプロとして認識された稀有の存在。
 その温厚にしてしたたかな眼差しは、戦国武将(の名家老)もかくや、と思われる。可笑しいのは、広島時代にコーチとして採用し(あれほどの人だから誰かが見い出したとは思うが)、西武を日本一にした広岡達朗さんとの親交と葛藤。野球に対するとんでもない知見と情熱を有しながら、その激しい性格ゆえにまわりとのトラブルが絶えなかった広岡さんは、根本さんとのコンビゆえに力を発揮できたと思うがいかがだろうか。
 根本さんが生きていれば、楽天の基盤づくりに働いたかも。