6時起床。この旅行中、早寝早起きを徹底している。朝食のバイキングは、さすがに3日目となるともなると飽きるかと思っていたのだが、案外そうでもなかった。何しろ種類が豊富なものだから、食べられなかったものもあるくらいだ。旅の朝の基本はしっかり食べておくことだ。
出発の準備をして、到着時に迎えてくださったガイドさんと待ち合わせ。スーツケースを曳いて歩いて駅まで向かう。列車を待っている間、いろいろとおしゃべりをする。そのうちにいろいろと列車が入線してきた。こちらの列車は流線型が基本である。
何しろローカル列車でさえこんなにカッコいい。
国際列車が到着する。オーストリア連邦鉄道(ÖBB)の誇る「Railjet」だ。連結作業が行われるので見物に行く。日本のものと比べるとかなりシンプルな造りである。
ミュンヘン発ブダペスト行きの「Railjet RJ61」列車を見送ると、間もなくしてわれわれの乗る「Eurocity OEC861」列車が入線してきた。「Railjet」より遅いものの、機関車重連の客車列車は堂々たる雰囲気をまとっている。
2等車のコンパートメントに乗る。6人がけの広々とした座席。大きなトランクもゆったりと置ける。検札に来た車掌さんは陽気なおじさんで、しかも日本にも行ったことがあるらしく、「水道橋」なんていう地名まで出てきた。震災のこと、とくに福島のことを心配していた。記念写真にも快く応じてくれた。
コンパートメントには途中3人ほど出入りがあったが、いずれも短い区間の乗車で降りていった。それにしても乗り心地が素晴らしい。標準軌ということもあるが、ほとんど揺れない。滑らかに、滑るように駆け抜けていく。そして車窓に広がるのは広大な田園風景である。真っ青な空の下、3時間あまり、これまでの汽車旅のなかでも至高のひとときとなった。
ウィーン西駅にはほぼ定刻に到着。ホームに下りると今度はウィーンの現地ガイドの方が待っていてくださった。乗っていた車両の位置も伝わっていたようで、探す手間もいらなかった。
ガイドさんの案内でホテルにチェックインする。こちらでもウィーン滞在中の注意事項についてレクチャーを受けた後、ホテルのフロントでウィーンカードを購入し、早速街へと繰り出すことにした。
ウィーン市内は至るところに路面電車が走っている。近代的な車両と古びた車両とが混ざって走っているのでたまらない。ウィーンカードがあれば市内交通は乗り放題ときている。ますますたまらない。
地下鉄3号線に乗って中心部へと移動する。改札口はなくて、最初に乗車する際に日付をカードに刻印するのみ。車両はこちらも新旧混ざっていて、ドアを手動で開けるものとボタンで開けるものとがある。プラスチックのボックスシートが並んでいる。急発進急停車といった感じで走る。
ウィーンの真ん真ん中、シュテファンプラッツで下車する。まずは「シュターツオーパー」(国立オペラ座)を見に行くことにした。真っ直ぐ進めばすぐにたどり着くはずなのだが、うっかり右に曲がってしまって遠回りをする形になった。
人通りの多い中を「ペスト記念柱」の脇を抜けて歩き出す。
さらに突き当たりを左に曲がったら、「デーメル」の前を通り、「ホーフブルク宮」の前に出た。トラクターや農具を持った人びとが集まっている。何かのお祭りだろうか。
「シュターツオーパー」の裏手に出た。まずはウィーンでの最初の目的地、「ホテル・ザッハー」に到着。旅行プランに「カフェ・ザッハー」のクーポン券が付いているのである。ガイドブックには行列必至と書いてあったが、少し待つと座ることができた。
こちらに来たら何といってもザッハー・トルテを食さねばならない。「デーメル」のものはザルツブルクでいただいたので、ウィーンでは「ザッハー」を食べる。オーダーをして待つ間は、辺りをきょろきょろと見回す。調度品からして素晴らしく凝っている。
メランジェとザッハー・トルテがやってきた。こちらは「デーメル」とは違って生クリームが添えてある。
やっぱり、非常に甘い。「デーメル」のものよりもアプリコットジャムの酸味が効いている。そして甘みのない生クリームと一緒に食べるとちょうどいい味加減になる。うーん、贅沢だ。
再び「シュテファン寺院」に戻る。あらためて大寺院を見上げる。大きい。そして高い。戦禍にも遭っているこの建物は、その煤けた色合いからして独特のオーラをまとっているような感じがする。
「モーツァルトハウス・ウィーン」へ。オペラ「フィガロの結婚」を作曲した家とのことで、かつては「フィガロハウス」と呼ばれていたそうだ。日本語のガイドを聞きながら見学する。
展示は充実、音声ガイドの解説も非常に詳しいのだが、いかんせん長い!途中途中で置いてあるイスに腰掛けたりしながら聞いていたのだが、だんだん疲れてきた。出口までたどり着くとほっとした。「モーツアルト愛」が足りない者にはなかなか大変であった。
ウィーンでの3日間は、いずれも音楽を楽しむことにしている。初日はウィーンミュージカル観劇である。地下鉄3号線から6号線へと乗り継ぐ。6号線の電車は路面電車がそのまま地下鉄になったような、少し小ぶりの車両である。
「ライムント劇場」へ。「Ich war noch niemals in New York」という舞台を観る。10月には帝国劇場で「ニューヨークに行きたい!!」というタイトルで上演される作品である。予めインターネットでチケットを予約しておいたのだが、現地のガイドさんによれば、こちらでは大人気の作品なんだとか。「よくチケットを取れましたね!」と驚かれた。
当日券売り場で予約確認のメールのコピーを示すとチケットを渡された。劇場のエントランスにはもぎりの人はおらず、そのまま階段を登って3階席へ。客席に入るところにもぎりの女性がいる。男性も女性もミュージカルのテーマに合わせて船員の格好をしている。
3階の最前列の席に座る。眺めはこんな感じ。
目の前の手すりが邪魔である。周りの人を見てみると、皆前方に身を乗り出している。日本の劇場だったらきっと注意されるだろうが、こちらでは問題ないようだ。外国人観光客と思しき人はほとんど見当たらない。
ウィーンでのミュージカルだから、当然言語はドイツ語である。だが科白の内容はわからなくても、わかりやすいストーリーと軽快な音楽、アンサンブルの見事なダンスとで十分楽しめる。そして何よりキャストの歌唱力が素晴らしい。主人公リサ役のAnn MANDRELLAさんは、長身でカッコよく、よく通る歌声の持ち主である。相手役のアクセルを演じるKai PETERSONさんも上手だ。日本ではリサを瀬奈じゅんさんが、アクセルを橋本さとしさんがそれぞれ演じることになっている。
初めて聴いたにもかかわらず、とても親しみやすい音楽は、こちらの名歌手ウド・ユルゲンスによるものである。現地のガイドさんは、「わかりやすくいえばオーストリアの北島三郎みたいな人です」とおっしゃっていたが、そうか、どおりで客席が中高年のおじさまおばさまばかりなのか。納得である。
でも決して観客が落ち着いた雰囲気でいるわけではない。国民的歌手のジュークボックス・ミュージカルとあって、お客さんたちは皆口ずさみながら観入っている。だから客席はものすごく熱い。カーテンコールの盛り上がりは「マンマ・ミーア!」さながらである。
これは実に楽しい作品だ。帝劇で上演されると知ったとき、どうもピンとこなかったのだが、これなら絶対に楽しめそうだ(帰国後、CDを買い、公演のチケットもしっかり入手した)。
「ライムント劇場」は、重厚な造りで歴史を感じさせる。天井のあたりの装飾もそうだし、終演後の緞帳も開演前のものとはずいぶん違う。
劇場の外に出る。こんなに歴史ある劇場でも、作品に合わせて船のような格好にしてしまう(屋根の上には赤い煙突まで付いている!)のがお茶目だ。劇場前に横付けされた観光バスには、おじさまおばさまが次々と乗り込んでいった。日本でいうと、かつてのコマ劇場に芝居やショーを観に来るのに近いのかもしれない。
再び中心街へと戻る。昼間見た建物も、夜になるとまた違って見える。
「シュテファン寺院」の内部ではミサが行われていた。詳細はわからなかったが、おそらく「9・11」の追悼が行われていたのだと思う。あの日からちょうど10年である。
「シュターツオーパー」も灯りが点ると黄金に輝いて見える。
劇場入口上のスクリーンには、上演中のオペラが生中継されていて、それを観る人だかりができていた。立ち見の人もいれば、しっかり敷物やイスを用意して観ている人もいる。
さて、さすがにお腹が空いた。ウィーンのカフェは午前0時くらいまで開いているところもあって便利だ。地下鉄もそれくらいまでは動いている。
「ホテル・ザッハー」の建物の一角にあるカフェ「モーツァルト」に入る。辺りは明るいので、外の席に座る。しっかり日本語のメニューまであって親切だ。ウィーンの名物料理、「ヴィーナー・シュニッツェル」を注文した。薄く叩いた子牛のカツレツに、たっぷりとレモンを搾って食べる。揚げ物だけれど、まったくといっていいほどしつっこくない。サクサクした食感がおいしい。
すっかり満腹になって、ホテルに戻る。うん、ウィーンは素晴らしく楽しい。明日以降も楽しみでならない。
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