読書日記

いろいろな本のレビュー

中国 何清漣×程暁農 ワニブックス新書

2017-07-04 20:11:44 | Weblog
 惹句は「とっくにクライシス、なのに崩壊しない〝紅い帝国〟のカラクリ 在米中国人経済学者の精緻な分析で浮かび上がる」である。二人は共に中国を脱出した経済学者で夫婦関係にある。何氏が妻で程氏が夫である。以前、何氏の『中国の嘘』『中国の闇』を読んで、その捨て身の書きぶりに感動した覚えがある。中国にも勇気のある学者はいるのだなあと。本書は新書だが、最近多い中国批判本とは一線を画している。それは経済学者としての深い研究から発せられる現代中国の問題点を客観的にえぐり出しているからだ。
 著者は言う、中国の共産党政権は毛沢東時代に革命によって築き上げた社会主義経済制度、すなわち全面的な公有制と計画経済を放棄したが、共産党資本主義によって毛沢東が遺した専制的な全体主義制度を強固なものにした。権力者は私有化プロセスで数々の犯罪に手を染めた。「紅い家族」が死に物狂いで富を収奪するありさまは悪しき手本となり、官僚システムひいては国家全体に高度な腐敗をもたらした。こうした腐敗政治は必然的に社会的分配の不公平を生む。富と上昇の機会を社会の上層に独占される時、膨大な社会の底辺層はエリート階層に怨恨の情を持つ。役人を恨み、富める者を恨む感情は社会全体に広がっていると。それでは、この中国で民主化は可能かという点については、次のように言う、すでに資本家になっている紅いエリートたちは頑として民主化を阻むだろう。彼等にとって民主化とは、政治的特権の剥奪だけでなく、彼等の違法蓄財への追及を意味しかねないからだ。この紅い資本家を守ってくれる制度とは市場経済でもなければ法治でもなく、「プロレタリア独裁」なのである。彼らは資源を掌握する権力を握り、一方では市場を通して権力を金に変えるわけである。こうした権力が市場化された状態においては、民主主義国家の企業化よりも楽に金儲けができるだけでなく、高い政治的地位も確保したままでいられる。だから共産党資本主義が自発的に民主的な制度下での資本主義に転換することはありえない。しかし紅い権力者たちも中国モデルが常に社会の底辺層から脅威にさらされていることを明確に知っているので、巨額の個人資産を西側国家に移転させる一方、親族を西側国家に移住させることで、いざとなった時の逃げ道を用意しているのだと。
 まことに正鵠を得た分析だ。地位利用で楽に金儲けができると言うのは私の経験からも納得できる。去年四川省成都に行ったが、町のあらゆるところでドイツ製の高級車を見かけた。日本だと車と乗っている人間の服装とか雰囲気の相関関係があるものだが、中国ではそれがバラバラで、どうやって金稼いでベンツに乗っているのだろうという事例が多々あった。国の資産を不当に食いつぶしている感じがした。さらに著者は、中国共産党はマルクス主義を標榜しているがやっていることは反マルクス主義だというダメだしまでしている。最近の中国に関するニュースはこの文脈で大帝は理解できる。とにかく社会の全てに共産党の利権がらみの指導が入るので、西側諸国から中国で企業活動するには多くの困難が伴う。最近これを嫌ってベトナムに拠点を移す企業が多いと聞く。
 環境汚染も喫緊の課題だが、これも難しいという。なぜなら地方政府の役人にとって地道な環境問題解決よりも、中央政府に覚えめでたい経済発展の方に力を注ぐ方が出世の近道だからだ。その他中国の株式市場のいびつな現状とかいろんな問題点を解説してくれているので、中国の現状を知りたい人には最適の本である。