「旅の坊主」の道中記:常葉大学社会環境学部・小村隆史の防災・危機管理ブログ

日本唯一の防災学部はなくなっても、DIGと防災・危機管理を伝える旅は今日も続いています。

東日本大震災を学ぶための本、まずは大学1年生向けに、文庫本から5冊選ぶ(その2)

2015-07-15 21:19:00 | 東日本大震災(東北地方太平洋沖地震)
昨日に引き続き、これから東日本大震災を学ぼうという大学1年生のために選んだ文庫本、
最初の5冊のうちの残り2冊について紹介していきたい。
(2冊目の紹介が長くなってしまった。最後の一冊は改めて。)

3 稲泉連『命をつなげ:東日本大震災、大動脈復旧への戦い』(新潮文庫)
ハードカバーの『命をつないだ道:東北・国道45号線をゆく』で読んでいたが、
新潮文庫の一冊として収録されるにあたり、改題されたもの。

あとがきに、大変印象的な一節がある。

近づけば全体が失われてしまうし、遠ざかれば個々の物語が消えてしまう。……。
三陸沿岸の町と町を数百キロにわたってつなぐ道の物語は、被災地の広さを表すと同時に、
その沿道に無数にあった「個々の物語」を描いていくことでもあった。……。(286頁、288頁)

この震災の全体像を理解しようとすることは本当に難しい。とてもじゃないが追い付かない。
それでも、微力(無力)を顧みず挑戦すること、
全体を失わず、かつ個々の物語も消すことなく、理解しようとする努力は、
決して放棄してはならない、と思っている。

防災関係者では有名になった「くしの歯作戦」だが、東北地方整備局だけがすごかったのではない。
現場で、地整局等の指示を待たず、独断で「道路啓開」を行った企業もあった。

何で金にもならないのに動くんだ、という声は確かにあったよ。
でも、こういうときは金よりもまず動くのが俺たちの使命だろう。(185頁)

現場はがんばる。では、政治的指導者は?

ちなみに。

岩田やすてる『啓け!:被災地へ命の道をつなげ』(コスモの本、2013年)は、
『命をつなげ』と同じ、道路啓開に携わった方々(とリエゾン)テーマで描かれているドキュメンタリーコミック。

4 海堂尊監修『救命:東日本大震災、医師たちの奮闘』(新潮文庫)

少し長くなるのだが、巻末の一節を引用することで、学生諸君に、この本を読むことの意味を伝えたい。

ある高名な医師が米国から帰国後、医療改革に四苦八苦して全敗したと自嘲的に言っていた。
日本のシステムはなっていない、ひどすぎると口を極めて罵るので、
思わず私は「どうして先生は、そんな日本に戻ってこられたのですか」と尋ねてみた。
するとその先生は即答した。
「日本は、官は最低最悪だが、“民(たみ)”がいい。そこが米国とは違う」
この本をお読みいただければ、その先生の言葉が、すとんと腑に落ちることだろう。(353~354頁)

単行本の巻末に書かれていたこの一節の後、以下の標題のついた文庫版後書きが続いている。

ひとの善意を壊すもの-文庫版後書き

文庫化にあたり、単行本の後書きを読み返してみた。後書きを執筆したのは2011年7月で、
世の中が東日本大震災の余波の真っ只中にあった頃だ。
あれから二年半。世の中は変わった。
被災地の頑張りの方向性は一貫しているが、社会のベクトルは大きくぶれ、
被災地をネグレクトする方向に動いてしまった。……。
一点に集中して述べる。それは行政と政治の、被災地、ひいては日本国民全体に対する背信行為である。
(355頁)

2013年。東京オリンピック招致には成功し、
行政と政府を取り巻く小さな世界では浮かれた「ええじゃないか」踊りが展開しているが、
市民の多くはしらけた目で、その様子を冷ややかに見つめている。
オリンピック招致に当たり、「原発事故での放射能の汚染水漏れは制御されている」という、
韜晦に近い言い抜けを時の総理大臣が行ったことは、末永く日本のはじとして記憶されるだろう。
一方で政府と行政は、オリンピックに膨大な予算をつけ、除染や復興の予算は漸減させていくだろう。
こうした行為を、日本の未来を担う子どもたちが見ている。
これでは日本の未来はない。(356頁)

……。民主党政権から自民党政権に、政権交代したにもかかわらず、
そして国民の反対意見も強いにもかかわらず、推進されてしまった事案が三つある。
消費税増税、特定秘密保護法案、そして原発再稼働である。
この三つには共通点がある。官僚機構の権力増進に役立つ、ということだ。
そうして増強された権力が、更に自己肥大の方向に向かう。……。
そして現在の政治も、これに似ている。
国民の付託を得てから、付託と違う、自分たちの欲望を果たす、という構図は、
そのまま復興予算の流用をした官僚機構と瓜二つである。
こうした卑しい精神が、日本の国力を低下させている。
それを、本書にあるような、現場レベルの善意が懸命に押しとどめている。
(358~359頁)

絶望感の中、本書に描かれた人の善意が確かに存在した、ということが、
日本社会の命綱になってしまっている、と感じるのは筆者だけではないだろう(360頁)、

これらの言葉をしっかりと記憶にとめつつ、本書に取り組んでもらえるならば、
現在進行形で起こっている事柄の何が問題なのか、少しはイメージしてもらえるのではないだろうか。


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