「旅の坊主」の道中記:常葉大学社会環境学部・小村隆史の防災・危機管理ブログ

日本唯一の防災学部はなくなっても、DIGと防災・危機管理を伝える旅は今日も続いています。

静岡市清水区の病院と市庁舎の移転問題を考えるための視点(その3)

2017-03-22 23:02:17 | 駿河トラフ・南海トラフ巨大地震津波対策
引き続き、大規模災害時でも機能する医療機関建設にあたって考慮すべき点について。
手元の『津浪と村』を読み直しつつ、考えをまとめているところ。

地震・津波防災の原理原則と方向性は明確なのに、それに反する傾向を押しとどめようという動きが小さいのは、
一体、何に起因するものなのだろう。

もう決まってしまったから?実態としてはまだ何も決まっていないようなものだろうに……。

7:
ライフラインの2番目としての電力供給について

東日本大震災の教訓を踏まえた上で、大規模災害時でも機能する医療機関を建てようというのだから、
商業電源については、複数の送電系統から引っ張ってくるようにすること、
コンセントは3種類(通常のもの、無停電装置をかませてあるもの、非常用電源につなげてあるもの)、
これらはデファクトであろうし、このレベルの議論はわざわざ言うまでもなかろう。

送電線用の鉄塔や電柱が津波で押し倒された事例もある訳だから、
津波浸水想定区域については、電線の地中化も当然のこととなる。
地下埋設の電線が津波にどのくらい強いか弱いかの議論は、私の手に余るが、
海底ケーブルが当たり前に存在している世の中ゆえ、誰かしらの専門家はいるだろう。

問題は、非常用電源、正しくは非常用電源用の燃料の確保、ということになろう。
重油か軽油かLPか、あるいはそれ以外か。それらの選択はその道のプロに任せるとして、
問題は、南海トラフ地震のような大規模災害時には補充が出来ない、ということ。
石油精製施設の被害とLNG陸揚げ施設の被害は、当然覚悟しておくべきこととなる。
個別施設の地震・津波リスクについては手元にないが、業界はしっかり考えていてくれているのだろうか。
さらに、それらを分配するタンクローリー等の輸送車両の数の確保も厳しくなる。
加えて、道路交通網の被害もしっかり織り込んでおかなくてはならない。

商業電力がまともに発電を続けていてくれる保証があるならば、そんなに心配しなくて済む。
だが、伊勢湾岸の埋め立て地に集中する中部電力の火力発電所は、
地震の揺れと液状化、津波被害のトリプルパンチに見舞われても、
しっかり機能し続けてくれるのだろうか。

特に液状化によりタービンと発電機の水平安定性が失われるのでは、との懸念について、
誰一人、正面から答えてくれる人がいない。これが怖い。
計画停電ではない、計画給電を、本気で覚悟しなくてはならないのではないか、と思うのだが、
それをカバーし得るだけの自家発の燃料の継続補給が可能な状況とは、どうしても思えない。
となれば……。
不安定さは覚悟の上で、太陽光発電や風力発電を大胆に盛り込み、
かつ、月単位での燃料貯蔵と相まってのコジェネによる発電(&熱源確保)を加えるのだろうか。
そうそう、もちろん自家発の設置場所は上層階になるし、当然空冷式にするのだろうが、
重量物を上層階に設置するためには、建屋そのものを堅牢にしなくてはならず、
当然建築費は増加してしまうだろうなぁ……。
(まぁ、医療機関の場合は、建築費よりもMEの費用が大きくなるのが常と聞く。
そう思えば、建築費の増加は、病院経営にとっては大きな問題ではないのかもしれないが……。)

(3月27日 記す)