「旅の坊主」の道中記:常葉大学社会環境学部・小村隆史の防災・危機管理ブログ

日本唯一の防災学部はなくなっても、DIGと防災・危機管理を伝える旅は今日も続いています。

【NHKスペシャルでの仮設住宅を巡る問題提起&災害救助法理解は正しいか(その3)】

2017-03-14 13:36:59 | 東日本大震災(東北地方太平洋沖地震)
番組後半のテーマ、首都直下地震発生時の仮設住宅対策についても疑問の山また山。

6.
仮設住宅が必要になる、イコール、住んでいた家が地震で潰れ住む所を失ってしまったということ。
もちろん時間的には地震で家が潰れるのが先。
機会があれば担当者氏に問うてみたいのは、
「家が潰れた時、そこに(住んで)いた人がどうなるのか」についての言及がない理由。
(議論がぼやける、あるいは過去の議論を繰り返す必要はない、等々と考えたのだろうか……。)

震度6弱の揺れなら、よほど酷い作りの家であっても死者が出ることは稀であろう。
新築物件であれば木造・非木造問わず震度7でも倒壊には至るまい。
議論されるべきは旧基準木造に震度6強の揺れが襲いかかる時の話。
もちろんこれらは地震防災の「イロハのイ」。

熊本地震での対応のように建ててしまった仮設住宅に空きが出たので半壊でも入居を認める、
というようなことは、首都直下の場合は考えられない。そんな余裕があるとはとても思えない。
(ちなみに、熊本地震でのこのような処置は大変大きな間違いであったと私は考えているが、それは別の話。)

仮設住宅必要戸数のすべてが自宅全壊による、とするならば、
それだけの仮設住宅の確保が本当に可能なの?を検討することはもちろんあってしかるべきだが、
ただ、モノの順序として、家が全壊するような揺れが起きたら「何が」「どのくらい」生じるか、について、
先に議論されるべきであろうし、そしてこの論点についての議論がされ尽くしたとはまったく思っていない。

家に潰されることで生じる絶望的な数の死者をどう減らすか。

かの「宮本フォーマット」に当てはめて考えるならば、こんな感じになる。

(1)震度6強なら、概ね「全壊家屋10戸に対して倒壊家屋が1戸」発生する。
首都直下地震で全壊家屋を61万戸と見積もるならば、単純計算で倒壊家屋は6万1千戸。
倒壊となれば、人の生き死にに直結する被害となる。
家屋倒壊の瞬間1階に何人いるかは発生時間によって大きく異なるが、
単純に1戸に1人として6万1千人の生き埋め・閉じ込めが発生する。

(2)生き埋め・閉じ込めの半数が重傷者になると考えれば約3万人の重傷者が発生する。

(3)重傷者数のうち1/3が死亡すると考えれば約1万人の死者が発生する。

家が潰れるような揺れでも無事(無傷)で済むだろうから、という前提でもない限り、
仮住まいの確保の前に議論すべき課題をすっ飛ばして構わない、という話にはならないと思う。

(付け加えるならば、町中に溢れるガレキをどうするかについても語ってほしかった。
都内の空き地という空き地は、当然仮設住宅適地ではあるが、ガレキの中間保管場所適地でもある。
今回のNスぺ、首都直下地震における「空き地の奪い合い(=限られたオープンスペースの時間別機能別マネジメント)」
のテーマとして掘り下げたならば、Nスぺに相応しいものになったと思うのだが……。)

7:
で、このように考える時、首都直下地震での仮設住宅対策の本質は一つしかない。
というか、それ以外はあり得ない。

そしてそのことは、この地震による死者をどう減らすかのテーマとそっくりそのまま重なるものでもある。
しかし、そのような図式での番組構成になっていた、とは私には思われなかった。