常識について思うこと

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達人が見せる早業

2008年05月30日 | 人生

スキーをされる方はご存知かもしれませんが、ある程度スキーを滑れるようになると、ターンの間隔を短くできるようになってきます。最近では、ターンの間隔が短い小回りの滑り方を指して、「ウェーデルン」という言葉をあまり使わなくなったようですが、一般的にそうした小回りターンは、より上級者向けの技術とされています。

ずいぶん昔の話になりますが、モーグルの元トップ選手の方が普通のゲレンデで滑っている姿を見たことがあります。このときの衝撃は、今も忘れません。まったくターンをしていないように見えるのです。つまり直滑降。正確に言うと直滑降ではなく、細かく手だけがストックを突いており、速度が一定のまま、真直ぐ下に向かって降りているのです。私は、このとき思いました。

「なるほど、これが究極の小回りターンなんだ!」

つまり、ターンとターンの間隔が短すぎて(小回りすぎて)、ターンをしていないように見えるのです。一直線に真下に向かって降りているように見えるけれども、実際には細かく左右に振動するように雪を切っていて、速度を一定に保ちながら、滑っているというわけです。足だけを見ていてはほとんど動いているのかどうか分からないのですが、その振動に合わせて、手がストックを雪面に突いているため、直滑降をしながら、手だけがチャカチャカ動いているのが分かります。通常、直滑降というのは、どんどん速度が増していくものですが、この「直滑降のようなもの」は、一見直滑降ながら、常に適度な速度に調整されているため「制御された直滑降」とでも言うべきものかもしれません。これこそ達人の究極の早業だと思いました。

私は、まったく同じようなことが、人生においても言えるのではないかと思っています。

悲しいことや辛いことがあったとき、人はそれに傷つき、ときに打ちひしがれ、ネガティブな思考に陥ったりします。しかし、いつまでもくよくよしていても仕方ありません。前向きに考えようと努力し、悲しいことや辛いことを克服して、生きていこうとするものです。また、その逆も然りです。嬉しいことや楽しいことがあったとき、人はそれを喜びとしますが、それに浮かれてばかりもいられません。現実に目を向け、やるべきことを見出し、嬉しいこと楽しいことの過去にしがみつくのではなく、新しい現実に向かって、ひたむきに生きていこうとするものです。

人生におけるこの気持ちの切り替えこそが、スキーで喩えるところのターンであると思います。つまり、スキーの上級者であればあるほど、小回りターンができるのと同じように、人生における達人であればあるほど、こうした気持ちの切り替えが早いのではないかと思うわけです。そしてまた、この人生の達人のレベルが「究極の域」に達すると、傍目ではもはや切り替えをしていることすら分からないほど、素早い切り替えができるようになるのではないかと思うのです。

少々、話が横道に逸れますが、仏像の表情は、そうした人生の「究極の達人」の姿を表していると考えます。仏像の穏やかな表情(あるいは無表情?)のなかに、喜怒哀楽をも包含しているような豊かさがあるのは、まさにスキーで言うところの「直滑降(無表情・穏やかな表情)」に見えつつも、正確には直滑降ではなく、細かくターンをしている「制御された直滑降(喜怒哀楽を内包しつつ制御している)」の姿を表しているからでないかと思うのです(「感情の主人たれ」参照)。

ところで、この人生の達人の所作は、それなりの人物でないと見極めることすらできません。「バカと天才は紙一重」などと言いますが、人生の達人の所作は、それなりの人物が見れば、それがものすごいことであることが分かりますが、見る目がない人間からすれば、何も考えていないバカに映ります。

例えば、どんなに辛いことや悲しいことがあっても、何事もなかったかのように平然と笑っていられる人を見て、あなたが何を感じるかということです。実際には、その人が「辛い」、「悲しい」と感じながらも、それを極めて瞬間的にポジティブに転換させて、平然と笑っていることを見逃さないだけの眼力が、あなたにあるかという問題です。そしてまた、その眼力に、あなた自身が絶対的な自信を持っているかという問題でもあります。

「制御された直滑降(達人の所作)」を見て、「単なる直滑降(素人)」に見える人は、そう見える人が素人であり、「究極の小回りターン(達人)」と見る人は、そう見る人がそれなりの達人であるということです(「他人は自分の鏡」、「使える人と使えない人」等参照)。

自分の理解を超えている人々に対して、それらを自分が知っている単語やカテゴリーのなかだけで安易に整理するのではなく、自分の眼力不足を疑ってみるという謙虚さも必要でないかと思います(「師匠の姿から学ぶこと」参照)。

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