7 国旗・国歌に関する部分の学習指導要領の法的拘束力について
学習指導要領における「公共の利益」の性質について確認・検討します。
文部省が編集した学習指導要領指導書・特別活動編には次の通りです。
『日本人としての自覚を養い、国を愛する心を育てるとともに、生徒が将来、国際社会において尊敬され、信頼される日本人として成長していくためには、国旗および国歌に対して正しい認識をもたせ、それらを尊重する態度を育てることは重要なことである。』
『学校行事においては…(略)…社会・国家など集団への所属感を深める上で、…(略)…良い機会となるものである。』
『このような意義を踏まえ、国旗を掲揚するとともに、国歌を斉唱するよう指導するものとする。」こととしている。』
『入学式や卒業式などにおける国旗及び国歌の指導に当たっては、社会科や音楽科における指導などとの関連を図り、国旗及び国歌に対する正しい認識をもたせ、それらを尊重する態度を育てることが大切である。』
としている。
当該要領の内容は、国旗掲揚・国歌斉唱の具体的な利用方法や実施方法等を規定するものではありませんし、強制力を伴い、画一的指導を求めるような、各学校長らの裁量を侵害するものでもありません。
したがって、当該部分の学習指導要領に関しては、法的拘束力があると考えます。
8 都教委の通達の法的拘束力について
次に、都教委の通達について検討します。
通達の内容は、当然に学習指導要領と同様に、教育基本法第10条の趣旨(不当な支配の排除)に合致するようなものでなければいけないことは自明です。それは、法的拘束力に関しても同様です。
つまり、前記の通説の立場で、助言指導的な基準に止めるべきであると考えます。
9 本件通達について
本件通達の内容は次の通りです。
『入学式、 卒業式等における国旗掲揚及び国歌斉唱の実施について(通達)』
1 学習指導要領に基づき入学式、 卒業式等を適正に実施すること。
2 入学式、 卒業式等の実施に当たっては、 別紙「入学式、 卒業式等における国旗掲揚及び国歌斉唱に関する実施指針」のとおり行うものとすること。
3 国旗掲揚及び国歌斉唱の実施に当たり、 教職員が本通達に基づく校長の職務命令に従わない場合は、 服務上の責任を問われることを、 教職員に周知すること。」
『別紙』
入学式、 卒業式等における国旗掲揚及び国歌斉唱に関する実施指針
1 国旗の掲揚について
入学式、 卒業式における国旗の取扱いは、 次のとおりとする。
(1) 御国旗は式典会場の舞台壇上正面に掲揚する。
(2) 国旗とともに都旗を併せて掲揚する。この場合、 国旗にあっては舞台壇上正面に向かって左、 部族にあっては右に掲揚する。
(3) 屋外における国旗の掲揚については、 掲揚塔、 校門、 玄関等、 国旗の掲揚状況が児糞・生徒、 保護者、 その他来校者が十分認知できる場所に掲揚する。
(4) 国旗を掲揚する時間は、 式典当日の生徒の始業時刻から終業時刻とする。
2 国歌の斉唱
入学式、 卒業式等における国歌の取扱いは、 次のとおりとする。
(1) 式次第には、 「国歌斉唱」と記載する。
(2) 国歌斉唱に当たっては、 式典の司会者が、 「国歌斉唱」と発声し、起立を促す。
(3) 式典会場において、 教職員は、 会場の指定された席で国旗に向かって起立し、 国歌を斉唱する。
(4) 国歌斉唱は、 ピアノ伴奏等により行う
3 会場設営等について
入学式、 卒業式等における会場設営等は、 次のとおりとする。
(1) 卒業式を体育館で実施する場合には、 舞台檀上に濱台を置き、 卒業証書を授与する。
(2) 卒業式をその他の会場で行う場合には、 会場の正面に濱台を置き、卒業証書を授与する。
(3) 入学式、 卒業式等における式典会場は、 生徒が正面を向いて着席するように、設営する。
(4) 入学式、 卒業式等における教職員の服装は、 厳粛かつ清新な雰囲気の中で行われる式典にふさわしいものとする。
通達等に関する裁判所の事実認定は、下記の通り。
①被告都教委は本件通達発令と同時に都立学校の各校長らに対し「適格性に課題のある教育管理職の取扱いに関する要綱」を発表。
②被告都教委は、本件通達発令後、都立学校の各校長に対し、入学式、卒業式等の国歌斉唱の実施方法、教職員に対する職務命令の発令方法、教職員の不起立等の現認方法及び被告都教委への報告方法等について詳細な指示を行う。
③都立学校の各校長は、被告都教委の指示に従って、教職員に対し、入学式、卒業式等の式典において、国歌斉唱の際に起立して国歌を斉唱すること、ピアノ伴奏をするよう職務命令を発した。
④都立学校の各校長は、教職員が上記職務命令に違反した場合、これを服務事故として被告都教委に報告した。
⑤被告都教委は、上記職務命令に違反した教職員に対し、1回目は戒告、2回目及び3回目は減給、4回目は停職との基準で懲戒処分を行うとともに、再発防止研修を受講させた。
⑥被告都教委は、定年退職後に再雇用を希望する教職員について、入学式、卒業式等の式典において国歌斉唱時に起立して国歌を斉唱しないなどの職務命令違反があった場合、再雇用を拒否したことが認められる。
<つづく>