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【映評】GODZILLA ゴジラ [監督:ギャレス・エドワーズ]

2014-11-26 00:02:18 | 映評 2013~
76点(100点満点)
2014年8月15日、シネマサンシャイン池袋にて鑑賞

思い返せば84年版『ゴジラ』以来、VSビオランテを除いて全てのゴジラ映画を映画館で観ている。自分で思っている以上に敬虔なゴジラ信者だった僕。そのくせ作品的に満足感じたの2~3しかないのだ。何度裏切られようとも街をぶっ壊す怪獣は僕を引きつけて離さない。
さてハリウッド完全新撮による二回目の映画化の本作はこれまでの本家製ゴジラに感じていた映像的不満を吹き飛ばすような快心の作品である反面で、ゴジラの根幹を揺るがす解釈改憲への不満と怒りも覚える、本年度のベストにもワーストにも両方入れたくなるような作品であった。

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最初にそれだけは絶対やっちゃダメだろって思ったことから書く。

ゴジラは核兵器の実験によって生まれた(あるいは復活した、あるいは怪獣化した)というのはゴジラ映画の絶対ポリシーであって、僕らはゴジラが暴れる姿に、それが人間の敵として暴れる場合であっても人間の味方として暴れる場合であっても、核兵器への恐怖と怒りを重ねてみていたのだ。
同時にそれは水爆国家アメリカへの批判となっていた。
ローランド・エメリッヒ版ゴジラではフランスの核実験のせいにと責任のすり替えは行われたものの、人間の作った核兵器によって生まれたという設定は継承された。
テクノロジーで自然を駆逐しようと驕りたかぶる人類への警鐘がゴジラの咆哮なのだ。

しかしこのギャレス・エドワーズ版『ゴジラ』でついに禁忌に手をつけてしまった。
それはあの2014年7月1日に安倍晋三首相率いる自民党公明党連立政権が行った卑劣な憲法解釈変更による集団的自衛権行使容認の閣議決定と同じくらい許すことのできない、ゴジラ解釈の大転換だった。
この映画ではゴジラは核実験とは無関係に生まれ、これまでアメリカが太平洋で行ってきた全ての核実験は、実は実験ではなくゴジラを倒すための実戦だったと言うのだ!!
核兵器批判どころか全肯定。これは許すまじ!
しかも日本国内の原発が原因で新怪獣ムートーが目覚めるのだ。アメリカの核実験のせいで東京がゴジラに蹂躙された映画は、日本の原発のせいでサンフランシスコが怪獣に蹂躙される映画へと生まれ変わる。若干の屈辱感。

しかし今回の『ゴジラ』で訴えたかったことを考えるとこの設定変更もわからなくはない。
多分…今作では核よりも強大な力を持つ地球を描きたかったのではないか?
核兵器ごときで地球を征服できると思うな、人間が核を作れば地球はそれ以上の力で逆襲してくるぞ、とそんなことを訴えたかったのかもしれない。
だからこその原発の爆発とかハワイでの津波のシーンなど日本人のトラウマシーンを描いて自然の脅威を想起させたかったとも考えられる。
そしてゴジラとムートー2頭の怪獣対決を黙って見ているだけの人間たち。核兵器を持ち出し解決を図るも何の役にも立たず無駄に爆発するラストの虚しさも心にしみる。

ゴジラはガイア説的な地球の守護神として登場。人類の味方ではなく地球の味方であるから都市を破壊し人間を踏み潰すことも躊躇しない。
そして地球の脅威である怪獣ムートーを倒すことのみがゴジラの目的だ。
…似たような話を僕らジャパンの怪獣好きはよく知っている。
そう、『ガメラ 大怪獣空中決戦』に始まる平成ガメラシリーズである。
ゴジラのキャラクター、人類と地球とゴジラと敵対怪獣との関係とかそっくりだ。テレパシーでゴジラと通じ合う女の子が出ないくらいだ。いっそガメラの藤谷文子ちゃんに対抗してセガールを出して欲しいくらいだ。渡辺謙の役をセガールにして核を使うというデビッド・ストラザーンの司令官に「なにしてまんねん」とか言って欲しかった。
話を戻すと、監督はむしろ平成ガメラシリーズのリメイクがしたかったのかもしれない。
そう考えると新怪獣ムートーの頭部のデザインもなんとなくギャオスに似ている気もする。飛行怪獣である点も。繁殖しようとするところも。超音波メスは吐かなかったけど。
平成のゴジラとガメラを比べたらガメラの方が800倍くらい面白いのでそっちを意識するのも仕方ないかもしれない。
ギャオス
ムートー(小さいのオス、大きいのメス)

けれども色々なところで昭和ゴジラへのリスペクトは見て取れる。
渡辺謙の科学者の役名セリザワ・イシロウで、これはは第1作『ゴジラ』でゴジラを倒した芹沢博士と、第1作他多数の東宝特撮でドラマ部を監督した本多猪四郎をかけあわせたものだ。
怪獣同士の戦いをなすすべなく見守る展開は『ゴジラの逆襲』から『三大怪獣地球最大の決戦』くらいまでの東宝特撮のノリだ(大映特撮では人間が色々作戦を立てて怪獣バトルに加担したりする)
平成ガメラにそっくりとは書いたが人間の環境破壊で生まれた怪獣をゴジラが倒しに来る展開は『ゴジラ対ヘドラ』のようでもある。(さあ唄おう「♫水銀コバルトカドミウム鉛硫酸オキシダン」)
ゴジラの造形は我らの慣れ親しんだゴジラとはちょい違うが、ずんぐりムックリした体型とやや愛嬌のある顔は『キングコング対ゴジラ』の時のゴジラのフォルムに似てなくもない。
この度のゴジラ

『キングコング対ゴジラ』のゴジラ、通称キンゴジ。

今回のハリウッドゴジラを「メタボゴジラ」と揶揄する声もあるが、キンゴジもけっこう恰幅よかった。対戦相手のパワーをを考えて階級上げて挑んだのだろう…


そんで何より艦砲射撃にもミサイルにもビクともせず邪魔なビルをバキバキ壊しながら進む怪獣たちの力強さは平成ガメラでもエメリッヒ版ゴジラでもなく東宝ゴジラのノリである。
かつてエメリッヒ版ゴジラが公開されたとき…ハリウッドの最新技術で描かれるゴジラを楽しみにしていたのにトカゲがバタバタ走るジュラシックパークみたいの見せられた悪夢のようなズッコケを帳消しにするくらい、僕らが思い焦がれたゴジラ映像が今回の映画版には確かにあった。

破壊破壊破壊
瓦礫瓦礫瓦礫
崩壊崩壊崩壊
阿鼻叫喚
圧倒的な力の前に壊滅していく都市
沈む軍艦、落ちる戦闘機
それらをミニチュアワークで見せていた和製ゴジラのあの感覚は決して嫌いではないけれど、ハリウッドが本気で作ったゴジラ映像はやはり凄かった。

そして何より和製ゴジラでも1954年版の第1作にだけあった文明崩壊の絶望感を、ついに再現したのも今回の『ゴジラ』だと思う。
自分にとって第1作のイメージは炎上する東京の街を歩くゴジラの姿と、ゴジラによって破壊された東京の街の映像にかぶさる幼児の鳴き声である。
1954年版『ゴジラ』
それ以降の全てのゴジラの都市破壊はスペクタクルでしかなかった(そうしたスペクタクルが好きだったから批判しているわけじゃない)
今回の『ゴジラ』での破壊された都市の救護所や物言わずノロノロと避難する人たちの無力感と希望の無さは、第1作『ゴジラ』に感じたあの感覚をたしかに再現していた。

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俳優について
主演のアーロン・テイラー=ジョンソンっていうかキックアスがすごいたくましい兵士になって、顔はあのとおりナヨッてるんだけど、でもま「男になったな」と言ってあげたい。でもキックアス一作目のナヨナヨしたオタクっぽい時の方がやっぱり好きだな。
とはいえ、ムートーの卵燃やした以外ロクに活躍せず、作戦はことごとく失敗して終わるあたりは、やっぱりヒットガールがいないと何もできないんだなお前は!!と思って楽しかった。

司令官役(東宝特撮なら藤田進あたりの役どころ)はデビッド・ストラザーン。
僕はなんかこの人が好きだ。いるだけで場が締まる。ずっと見ていたい顔だ。『スニーカーズ』『激流』『LAコンフィデンシャル』『グッドナイト&グッドラック』
もう少し怪獣に対してマシな作戦を立てて欲しかったが。

音楽は今一番キテる作曲家のアレクサンドル・デスプラだが、今回はダメだった。ドンドコ鳴らすだけじゃゴジラ音楽はダメだ。テーマが必要なんだ。
ムートーの巣に降下するときの『2001年宇宙の旅』っぽい音楽(モノリスがそびえ立つ場面とかにかかってた曲っぽいやつ)は、なんか高尚感出したがるデスプラ節だったけど、そこくらい。
伊福部音楽もってくる必要はないけど、印象的な怪獣のテーマは絶対に必要なんだ。

『GODZILLA ゴジラ』
監督:ギャレス・エドワーズ
脚本:マックス・ボレンスタイン
撮影:シーマス・マッガーヴェイ
音楽:アレクサンドル・デスプラ
出演:アーロン・テイラー=ジョンソン、渡辺謙

---以下、鑑賞直後のTwitterフラッシュ映評---
@shinpen: ゴジラ鑑賞中、序盤で後ろの方の席の小さい女の子が「こわーい」と何度か声を出したら、前の方の席の男が大声で「子供うるさいよ!」と叫ぶ。子供の声では乱されなかった場内の空気がその男の発言で張り詰める。いやな野郎だ!!
だいたい怪獣映画なんてな、ガキが騒いでる中で見るのがむしろ健全だ。

@shinpen: 「ゴジラ」予想とは違ったがなかなか面白かった。むしろゴジラ対へドラくらいのゴジラリスペクトか?
博士の名前がセリザワ・イシローとはファン心をくすぐる。

@shinpen: 「ゴジラ」日本の誇るゴジラを描くにあたって、原発爆発、津波、と容赦ないプレゼント。その根性やよし。
まあ9.11的な画もたっぷり、惨禍のサンフランシスコ、容赦なく死ぬ人人人…救護所に溢れかえる被災者。第一作ゴジラにだけあったディストピア感を超拡大して埋め尽くした映像に恍惚

@shinpen: 「ゴジラ」キックアスのあいつ…いつの間にあんな立派な兵士に育ったのか。男の顔になったな…と声をかけたくなった。しかし、なにもできず怪我しただけなあたりはお前らしかったよ。

@shinpen: 「ゴジラ」ヒーローのいない映画だった。人々も技術も兵器も自然の暴威の前に無力。ほぼ傍観者でしかない無力感、好きだ。その辺は「モスラ対ゴジラ」とか「三大怪獣」みたいだ。第一作には芹沢ってヒーローがいたから。
そう思うといろんなゴジラ映画のミックスなんだな。

@shinpen: 「ゴジラ」しかし、どうしても許せないのはアメリカ流歴史改ざん!ゴジラは核実験で産まれたという従来の憲法解釈を変更し、全ての核実験はゴジラを倒すための正義の作戦だったという新解釈。これはハリウッドでデモする必要あり。
そういやエメリッヒ版でもフランスの核実験のせいにしていたっけ

@shinpen: 「ゴジラ」ところで「放射線を食う」という字幕は正しいのか?「食う」なら放射性物質か放射能ではないのか?
もっともウルトラ怪獣には「光を食う」とか「音を食う」とか「電気を食う」とか「心を食う」とかなんでもいたから別にいいんだけど

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自主映画制作団体 ALIQOUI FILM
最新作「チクタクレス」

 小坂本町一丁目映画祭Vol.12 入選
 日本芸術センター映像グランプリ ノミネート

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