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【映評】ブルー・ジャスミン[監督: ウディ・アレン]

2014-06-05 20:00:30 | 映評 2013~
88点(100点満点)
2014年5月11日鑑賞

ネタバレ注意


子守を任された主人公ジャスミンが子供とおしゃべりしている時の顔
ウディ・アレンはやっぱり最高。「ブルージャスミン」思い返して笑ってばかりの傑作だったヨ。

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主人公のジャネット、自称ジャスミンが、ラストシーンで聞く思い出の一曲が「ブルームーン」です。
歌詞を思い出せないと言っていたジャスミン。映画内でもそのインスト版しか聴くことはできません。
こんな歌詞です。

"Blue Moon"
Lyrics by Lorenz Hart

Blue Moon you saw me standing alone
Without a dream in my heart
Without a love of my own

Blue Moon you know just what I was there for
You heard me saying a prayer for
Someone I really could care for

And then there suddenly appeared before me
The only one my arms would hold
I heard somebody whisper please adore me
And when I looked to the Moon had turned to gold

Blue Moon now I'm no longer alone
Without a dream in my heart
Without a love of my own

頑張って訳してみます

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ブルームーン
ひとりぼっちでたたずむ私を見ていたのね
夢も持てず、愛する人もいない私を

ブルームーン
わたしがなぜ一人でいたのかわかっていたのね
わたしが祈るのを聞いたのね
心から愛せる人を求める祈りを

そして突然現れたの
ただ一人の愛する人が
愛してくれとささやくのを聞いて
見あげれば金色の月が輝いていた

ブルームーン
もうわたしはひとりぼっちじゃない
夢を持たず愛する人もいなかったわたしじゃない

・・・・
下手な訳ですいません
上手く訳せる方のつっこみ待ってます。

ま、ともかく、元夫と初めて出会った時に店でかかっていた曲。なにか象徴的な歌詞であり、その歌詞を忘れてしまったというところがまたジャスミンの心の傷の深さを物語っているようです。

このブルームーンという曲、私の生涯ベスト級作品の一つ「日の名残り」でも使われました。
執事のスティーブンスが、元女中頭のミズ・ケントンと久しぶりに再会し会話するカフェでかかっていました。
二人が執事と女中として働いていたのは戦前の貴族の屋敷。静かで厳粛なムード。音楽などあまり流れはせずたまに聞こえるのは厳かにクラシック室内音楽の演奏。
スティーブンスにとっての古き良き時代はもう終わったということを印象づけるために映画では二人を流行歌のかかるカフェで再会させたのでしたが、改めて歌詞を考えると、意図的に選んだ曲だったのでしょう。
もう一人じゃないという歌を聞きながら、スティーブンスは一人になるのですから。

「ブルージャスミン」のジャスミンはこの曲を聞きながら素晴らしい未来を夢想し、いまはこの曲を聞きながら何もかも失って、思い出の歌の歌詞さえ失って(忘れて)ひとりぼっちに

毎度毎度、音楽の使い方がオシャレなウディ・アレン。いつも決して押し付けがましい音楽の使い方はしない。音楽で心象を表現なんてもっともバカらしいと思っているにちがいない。だからブルームーンも歌詞をのせずに使う。歌詞がないならなんだってよいだろうにあえてブルームーンなところがアレンのセンスだと思います。

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余談から入ってしまいましたが、やっぱり面白かったアレンの新作でした。
私これまで度々ホンが面白いだけの映画をやや低く評価してきました。だから「運命じゃない人」とか「ディアドクター」とかを充分に楽しんだくせに渋めに評価してきました。
あるいは台詞だけで片付けてしまう場面なんかがあれば批判的なことを言ってきました。
そんな私の映画に対する思い、信念、をぐらつかせるのがウディ・アレンです。ベテランの技ありの一本なんて言葉の似合わない人。ひたすら脚本だけの人。
しかし、面白いのです。
野心的な演出なんてなし。ホンにかいたことそのまま撮るだけ。ヒッチコックとか黒澤とかキューブリックとかスピルバーグ的な意味での映画的技巧なんてまるっきり興味のなさそうな人。
「たかが映画」の巨匠とでも言いましょうか。
監督としての自負も低いんじゃないでしょうか。そういえば脚本家が主人公の映画が多い気もします。
でも、「カイロの紫のバラ」とか「世界中がアイラブユー」とかから映画への愛はものすごく持っていることは明白です。

面白い作品もあれば、つまんない作品もあるんだけど、アレン自身はどの作品も同じくらい軽い気持ちで撮っているのだと思います。

ブルージャスミンはアレン作品の中でも傑作の部類に入るのでしょうけど、私たちがあれはいい、これはつまらないとかそんな意見と関係無くアレンは全ての映画を軽い気持ちで撮っているように思います。

「ブルージャスミン」で、ジャスミンの妹が彼氏を捨てようと思うほど夢中になった男が実は…のくだり。
全部、電話での会話だけのワンカットで説明。説明台詞で説明的なシーンでといつもの私なら批判するシーンですし、実際この映画の中ではあまりいいシーンとも思えないのですが、アレン映画の中だとそういうシーンもハマっちゃうんですね。このユルさがもうアレン節というかなんというか

ホンと登場人物と、そして人間たちへのシニカルな視点(アレンの場合、自分自身に対してすらシニカル)といいますか、自分も含めたあらゆる人間をちょっと小馬鹿にして、人の不幸を俯瞰して笑いのネタにする感覚は、アレンだけのものなんですね。

さて、野心のないアレンとはいえ、今回はちょっとした工夫があります。いつも時系列にそったオーソドックスな物語を書くことの多いアレンですが、今回は現在と過去のエピソードが同時並行で描かれ、そしてきちんとラストで二つのエピソードがつながります。そのへんは普通にホンとして上手いし、そのおかげでケイト・ブランシェット様のバカなセレブっぷりの過去と、セレブに執着するバカっぷりの現在という二つのキャラを同時に楽しめます。どっちもバカなところがさすがアレンです。
にしてもなんにしてもウディ映画のオンナたちはいいですね。
ダイアン・キートン、ミア・ファローとか苦い過去まで遡るまでもなく、最近のスカヨハ、ペネロペ、マリオン様とヨーロッパを渡り歩きながら旬なオンナたちを堪能シリーズに区切りつけてアメリカに戻ってもやっぱり興味はいいオンナ。
女優に代表作を提供することに関しても昔から全く変わっていないすごい映画作家です。

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最後に私が選ぶウディ・アレンのベストテン
順位は関係無く
「ハンナとその姉妹」
「マッチポイント」
「カイロの紫のバラ」
「ミッドナイト・イン・パリ」
「マンハッタン殺人ミステリー」
「インテリア」
「ブロードウエイのダニーローズ」
「ブロードウエイと銃弾」
「ウディ・アレンの誰でも知りたがっているくせにちょっと聞きにくいSEXのすべてについて教えましょう」

これにこないだまでは「世界中がアイラブユー」を入れていたのですが、これからは「ブルージャスミン」とすることにします

ちなみに…
「スターウォーズ」を破ってアカデミー賞をとった代表作ともいえる「アニー・ホール」をアレンのベストテンに入れていないのはですね、別につまんないとか嫌いとかそういうわけでなく、「アニー・ホール」をあえて外す方が通っぽいかな~…なんて思っただけです。「アニー・ホール」はそりゃ大好きですよ。


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自主映画制作団体 ALIQOUI FILM
最新作「チクタクレス」

 小坂本町一丁目映画祭Vol.12 入選
 日本芸術センター映像グランプリ ノミネート

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