97点(100点満点)
映画やテレビで宇宙っていいなと思ったことのある人たちは見なくてはならない映画。宇宙映画のフォーマットは更新された。
ネタバレ注意
すげー映画。
特撮映画やSF作品を新しいステージに引っ張り上げてきた偉大な作品たちが、その偉大さや個人的な愛は決して揺らがないのだけど、それでも過去のものになったと感じた。
スター・ウォーズや、スター・トレックや、ガンダムなんかのことである。(スタトレはちょい贔屓入ってることを認めよう)
少なくともこれから作られる宇宙を舞台にした映画は、すべて「ゼロ・グラビティ」を意識して作られるような気がする。いや、意識するべきだ。
これまでにも無重力を金や技術や情熱で描いてきた作品は色々あった。
「2001年宇宙の旅」は揺らぐことなく名作であり続けるだろうが、あの映画は今観ても映画としてぶっ飛びすぎてて誰も真似しなかった。唯一無二すぎてフォーマット更新はしなかった。
「スペースキャンプ」とかあったっけ。子供向けのイベントムービーだった。
「アポロ13」はリアルに無重力状態作って撮影してたっけ。そう何度もできるわけない。
「ミッション・トゥ・マーズ」の無重力表現は素晴らしかったけど、色んな意味でデ・パルマすぎた。
そうした映画を観てもなお、僕らは上下感覚があって、床の上をスタスタ歩いて、ロケットやビームの音が響き渡る宇宙映画が好きだった。
これからだって好きだろう。
でも「ゼロ・グラビティ」以降の新作宇宙映画がそれでいいのだろうか。
映画はついに宇宙を手に入れた。
もう宇宙は特別じゃない。ファンタジーでも未来でもない。異星人とか怪物とかロボットとかいない。いてもいいけど。現実にそこにある宇宙とそこに生きる人たちを描いていく段階に映画は進んだ。進むべきだ。
この映画の宇宙疑似体験感覚は脚本と演出と技術によって支えられている。
この映画の上映時間は90分弱と短めだが、物語の進行と現実の時間がほぼ同じである。
そしてハサミの入らない長ーいワンカット映像。
これらによって劇中に登場する宇宙飛行士たちと同じ時間を共有することができる。
真空状態、無重力状態、無限に続く闇、上下感覚も方向感覚も失われた恐怖を観客は一緒に体感できる。
ワンカット映像といえば、アルフォンソ・キュアロン監督の出世作「トゥモローワールド」でも印象的だった。いくつかのシーンで使われていたが、本当にワンシーンワンカットで撮っているのではなく、別々に撮ったカットをデジタル加工で繋げてワンシーンワンカットのように見せている。
それは衝撃的でかっこいい撮り方だったが、そのように撮る必然性がある場面でもなく、技術との戯れという印象だった。そうした戯れこそ映画であり、大好きだけど。
対して「ゼロ・グラビティ」のワンカット映像は技術と戯れつつも、きちんと必然のある演出となって映画を活かしている。キュアロン監督の映画作家としての円熟を感じる。
そしてもっと素晴らしいのが台詞に頼らないストーリーテリング。説明台詞の横行する日本の泣かせ系映画では味わえない映画の根源的な強さを感じる。
宇宙に投げ出された宇宙飛行士が生還するまでを描いたきわめてシンプルな話だが、「生きる」という強い意志に満ち溢れている。
地球にある意味未練などないくらい辛い過去をもった女性がそれでも生きて帰ることを選び闘う姿は凡百の泣かせ系映画よりはるかに涙を誘う。
ああ、そしてラスト!
重力を主人公とともに全身で感じるようなラスト!
泥の岸辺で二本の足でしっかと大地を踏みしめ歩いていくヒロインの美しさ、凛々しさ、力強さ。
サンドラ・ブロックの素晴らしい演技もまた本作の魅力をアップしている。
はじまりからラストまで隙間なく映画的興奮に埋め尽くされたまさに大傑作。
生きているうちにこんな宇宙映画と出会えて、俺は幸せだよ。
少なくとも、かつて宇宙に憧れたことのある人たちは観るべき映画だ。
--追記--
不満は音楽。せっかく真空、無重力、闇という極限空間を作ったのに音楽のために無音の恐怖が薄れた気がする。音楽の力などなくても恐怖もスリルも十分に表現できた。キュアロン監督はまだ「映画」の力を信頼しきっていなかったのかもしれない。
ただし、ラストの音楽はかなり心を熱くさせてくれた名曲だったことは間違いない。
--追々記--
地球の管制室からの声を演じているのがエド・ハリスだった。「アポロ13」へのオマージュか?
--追々々記--
映画秘宝誌で、サンドラ・ブロックとジョージ・クルーニーの「別れ」のシーンが、物理法則的におかしいとの批判があった。しかし、あのシーンは宇宙ステーションが少しでも回転していたなら遠心力によってあのようなことが起こり得ると思うので私は物理的にOKなシーンに認定する。
もう一つ、同じく映画秘宝誌で、宇宙服の中はオムツだ、あんな下着は着ていない、との批判も。
それについては、だって映画だもん、で許される範囲の演出だと思います。
********
自主映画制作団体 ALIQOUI FILM
最新作「チクタクレス」
小坂本町一丁目映画祭Vol.12 入選
日本芸術センター映像グランプリ ノミネート
映画やテレビで宇宙っていいなと思ったことのある人たちは見なくてはならない映画。宇宙映画のフォーマットは更新された。
ネタバレ注意
すげー映画。
特撮映画やSF作品を新しいステージに引っ張り上げてきた偉大な作品たちが、その偉大さや個人的な愛は決して揺らがないのだけど、それでも過去のものになったと感じた。
スター・ウォーズや、スター・トレックや、ガンダムなんかのことである。(スタトレはちょい贔屓入ってることを認めよう)
少なくともこれから作られる宇宙を舞台にした映画は、すべて「ゼロ・グラビティ」を意識して作られるような気がする。いや、意識するべきだ。
これまでにも無重力を金や技術や情熱で描いてきた作品は色々あった。
「2001年宇宙の旅」は揺らぐことなく名作であり続けるだろうが、あの映画は今観ても映画としてぶっ飛びすぎてて誰も真似しなかった。唯一無二すぎてフォーマット更新はしなかった。
「スペースキャンプ」とかあったっけ。子供向けのイベントムービーだった。
「アポロ13」はリアルに無重力状態作って撮影してたっけ。そう何度もできるわけない。
「ミッション・トゥ・マーズ」の無重力表現は素晴らしかったけど、色んな意味でデ・パルマすぎた。
そうした映画を観てもなお、僕らは上下感覚があって、床の上をスタスタ歩いて、ロケットやビームの音が響き渡る宇宙映画が好きだった。
これからだって好きだろう。
でも「ゼロ・グラビティ」以降の新作宇宙映画がそれでいいのだろうか。
映画はついに宇宙を手に入れた。
もう宇宙は特別じゃない。ファンタジーでも未来でもない。異星人とか怪物とかロボットとかいない。いてもいいけど。現実にそこにある宇宙とそこに生きる人たちを描いていく段階に映画は進んだ。進むべきだ。
この映画の宇宙疑似体験感覚は脚本と演出と技術によって支えられている。
この映画の上映時間は90分弱と短めだが、物語の進行と現実の時間がほぼ同じである。
そしてハサミの入らない長ーいワンカット映像。
これらによって劇中に登場する宇宙飛行士たちと同じ時間を共有することができる。
真空状態、無重力状態、無限に続く闇、上下感覚も方向感覚も失われた恐怖を観客は一緒に体感できる。
ワンカット映像といえば、アルフォンソ・キュアロン監督の出世作「トゥモローワールド」でも印象的だった。いくつかのシーンで使われていたが、本当にワンシーンワンカットで撮っているのではなく、別々に撮ったカットをデジタル加工で繋げてワンシーンワンカットのように見せている。
それは衝撃的でかっこいい撮り方だったが、そのように撮る必然性がある場面でもなく、技術との戯れという印象だった。そうした戯れこそ映画であり、大好きだけど。
対して「ゼロ・グラビティ」のワンカット映像は技術と戯れつつも、きちんと必然のある演出となって映画を活かしている。キュアロン監督の映画作家としての円熟を感じる。
そしてもっと素晴らしいのが台詞に頼らないストーリーテリング。説明台詞の横行する日本の泣かせ系映画では味わえない映画の根源的な強さを感じる。
宇宙に投げ出された宇宙飛行士が生還するまでを描いたきわめてシンプルな話だが、「生きる」という強い意志に満ち溢れている。
地球にある意味未練などないくらい辛い過去をもった女性がそれでも生きて帰ることを選び闘う姿は凡百の泣かせ系映画よりはるかに涙を誘う。
ああ、そしてラスト!
重力を主人公とともに全身で感じるようなラスト!
泥の岸辺で二本の足でしっかと大地を踏みしめ歩いていくヒロインの美しさ、凛々しさ、力強さ。
サンドラ・ブロックの素晴らしい演技もまた本作の魅力をアップしている。
はじまりからラストまで隙間なく映画的興奮に埋め尽くされたまさに大傑作。
生きているうちにこんな宇宙映画と出会えて、俺は幸せだよ。
少なくとも、かつて宇宙に憧れたことのある人たちは観るべき映画だ。
--追記--
不満は音楽。せっかく真空、無重力、闇という極限空間を作ったのに音楽のために無音の恐怖が薄れた気がする。音楽の力などなくても恐怖もスリルも十分に表現できた。キュアロン監督はまだ「映画」の力を信頼しきっていなかったのかもしれない。
ただし、ラストの音楽はかなり心を熱くさせてくれた名曲だったことは間違いない。
--追々記--
地球の管制室からの声を演じているのがエド・ハリスだった。「アポロ13」へのオマージュか?
--追々々記--
映画秘宝誌で、サンドラ・ブロックとジョージ・クルーニーの「別れ」のシーンが、物理法則的におかしいとの批判があった。しかし、あのシーンは宇宙ステーションが少しでも回転していたなら遠心力によってあのようなことが起こり得ると思うので私は物理的にOKなシーンに認定する。
もう一つ、同じく映画秘宝誌で、宇宙服の中はオムツだ、あんな下着は着ていない、との批判も。
それについては、だって映画だもん、で許される範囲の演出だと思います。
********
自主映画制作団体 ALIQOUI FILM
最新作「チクタクレス」
小坂本町一丁目映画祭Vol.12 入選
日本芸術センター映像グランプリ ノミネート