82点(100点満点)
2014年8月30日、有楽町ヒューマントラストシネマにて鑑賞
ガッツリ社会派のガッツリ面白い映画。
1988年のチリ。軍事独裁政権を敷いていたピノチェト将軍は自身の政権に対する国内外の批判を封じるため、政権の信認を問う国民投票を行うこととした。民主的な選挙で信認を勝ち得た形が欲しい政権側は、独裁反対派にも選挙キャンペーンのテレビ放送を認める。
とはいえ放送枠は1日のうち夜間の15分のみ。
一方の政権側は国営放送を持っているからいくらでも政治放送ができる。
ただでさえ権力磐石な政権側に対してあまりに不利な選挙戦。真面目な独裁反対派は、せっかくの手に入れた放送枠を使って真面目な(つまらない)政権放送をオンエアするのだが、あきらめムード漂う国内では選挙への関心が上がらない。
そこに主人公の広告屋の登場となる。コマーシャルの手法を使い「NO」というシンプルなキャッチコピーと、印象的な虹色のシンボル(沢山の政党・会派の統合を表している)、そしてユーモアたっぷりのCMで国民の人気を集めていく。
そして絶対勝てないと思われた国民投票を逆転勝利に導いていく。
これだけでも充分に面白く見る価値のありそうな物語だが、この映画の良さはそんなところじゃない。
形勢が悪くなった政権側も相手陣営のやり方にならって広告屋を使い、思わず笑ってしまうようなユーモアたっぷりのプロパガンダCMを放送。
「No」陣営と「Si」陣営の広告合戦の様相を呈した選挙戦を楽しく見せるところにある。
(「Si」はスペイン語の「yes」、Noは英語もスペイン語も同じ)
そして両陣営の広告屋が同じテレビ局で働く先輩後輩で、選挙が終わればまた二人で一緒にテレビ番組を作っている姿がなんともいえず心和むのだ。
社会派映画や選挙の在り方に興味がある人はもちろん、興味のない人でも楽しめること請け合いの傑作社会派エンターテインメント。
ただし、画像がチラついているような独特の映像は、わざとそうしているようだが僕としてはちょっと気になって、特にあまり物語に動きがない前半とかは、映写室に注意に行こうかと思ったくらいだった。行かなくてよかった。
話が盛り上がる後半は慣れもあるけどあまり気にならなくなった。
『モーターサイクルダイアリーズ』でチェ・ゲバラを演じたラテンイケメンのガエル・ガルシア・ベルナル。
『バッド・エデュケーション』も『バベル』も良かった彼だけど、やっぱり社会派映画が似合う。なんかとんでもないことやりそうな予測不可能ハラハラオーラ。決して観客を安心させるスターではなく、観客をかき回すトラブル野郎でもあるが、今回は独裁政権をかき回して観客の味方である。いい男は何やってもかっこいい。
---
壊憲記念日とも言われる7月1日とその前日の6月30日に僕は官邸前に行った。
そしてデモに参加した。
「デモはテロ」とかぬかす政治家もいるが(アンパンマンに似た顔の人)、僕はデモというやり方は否定しないし、デモをして叫ばねばならない時は絶対にあると思っている。
ただ一方で、デモに参加してなんか違うと感じたところもあった。わあわあ叫んでも結局負けた。安倍政権は集団的自衛権行使容認を認める閣議決定に踏み切った。
デモより穏やかに、そしてもっと効果的に憲法を守る方法が絶対あるはずだと思った。
映画『NO』が示したCMでムーブメントを起こして国民の関心を高めるというのもデモに変わるもう一つの方法だと思った。
悪い政権が望むのは人々の無関心だ。
前回の衆院選では過去最低の投票率(59%)の選挙で、比例区ではたったの28%の支持しか得られなかった党が政権につき、国民に真を問うこともせず平和憲法の根底を覆す決定を平然とやってのけた。官邸前のデモの熱気はそれはすごかったけど国民運動ってほどでもなく政府から見れば一握りの人たちがわあわあ叫んでいるに過ぎなかった。
関心をもとう。
チリの独裁政権も国民の関心が打ち負かした
今こそ自民党に「NO」を突き付けよう!!
『NO』
監督:パブロ・ラライン
脚本:ペドロ・ペイラノ
出演:ガエル・ガルシア・ベルナル
---以下、鑑賞直後のTwitterフラッシュ映評---
@shinpen: 「NO」パブロ・ラライン監督のチリ映画。独裁政権の賛否を問う国民投票の舞台裏を描いた映画。「熱い台詞を吐く情熱的な主人公」みたいな(個人的にはそういうの反吐でそう)ドラマにせず淡々と描くことによるゾクゾク感。すげーおもしれえ
@shinpen: 「NO」独裁政権vs民主化勢力という単純な図式の裏の両陣営の広告屋の闘いの映画であるところが面白い。独裁陣営の広告屋も負けじとユーモアたっぷりのCMをオンエアし無表情でそれを観る民主化勢力側の広告屋のプロフェッショナリズム!その二人が本業では同僚で先輩後輩ってあたりもしびれる
@shinpen: 「NO」ラストの主人公の無表情なアップ。どうとでも取れる顔と続くカットによって観客の感情を誘導するモンタージュの逆手をとり、後に何も付け足さない。観客に丸投げするどうとでも取れる顔アップの結末。むしろその選択に監督の思想を観る。広告で覆した政権なら広告によってまた転覆され得る警告
@shinpen: 「NO」ガエル・ガルシア・ベルナル久しぶりに観た。「バベル」以来か。イデオロギー的な顔。社会派映画に欲しい役者。年齢に応じた渋みもでてきて、スターの貫禄も出てきて、本当にかっこいい。
@shinpen: 「NO」を観て思ったのは日本の左派勢力に決定的に欠けているのはユーモアだということ。つまんない御託並べるだけでは「NO」の前半部がそうだったように何も響いてこない。憲法改悪阻止に本気で取り組むならユーモアとインテリジェンスの絶妙なブレンドを。俺もそういう情報発信と創作を心掛けよう
********
自主映画制作団体 ALIQOUI FILM
最新作「チクタクレス」
小坂本町一丁目映画祭Vol.12 入選
日本芸術センター映像グランプリ ノミネート
2014年8月30日、有楽町ヒューマントラストシネマにて鑑賞
ガッツリ社会派のガッツリ面白い映画。
1988年のチリ。軍事独裁政権を敷いていたピノチェト将軍は自身の政権に対する国内外の批判を封じるため、政権の信認を問う国民投票を行うこととした。民主的な選挙で信認を勝ち得た形が欲しい政権側は、独裁反対派にも選挙キャンペーンのテレビ放送を認める。
とはいえ放送枠は1日のうち夜間の15分のみ。
一方の政権側は国営放送を持っているからいくらでも政治放送ができる。
ただでさえ権力磐石な政権側に対してあまりに不利な選挙戦。真面目な独裁反対派は、せっかくの手に入れた放送枠を使って真面目な(つまらない)政権放送をオンエアするのだが、あきらめムード漂う国内では選挙への関心が上がらない。
そこに主人公の広告屋の登場となる。コマーシャルの手法を使い「NO」というシンプルなキャッチコピーと、印象的な虹色のシンボル(沢山の政党・会派の統合を表している)、そしてユーモアたっぷりのCMで国民の人気を集めていく。
そして絶対勝てないと思われた国民投票を逆転勝利に導いていく。
これだけでも充分に面白く見る価値のありそうな物語だが、この映画の良さはそんなところじゃない。
形勢が悪くなった政権側も相手陣営のやり方にならって広告屋を使い、思わず笑ってしまうようなユーモアたっぷりのプロパガンダCMを放送。
「No」陣営と「Si」陣営の広告合戦の様相を呈した選挙戦を楽しく見せるところにある。
(「Si」はスペイン語の「yes」、Noは英語もスペイン語も同じ)
そして両陣営の広告屋が同じテレビ局で働く先輩後輩で、選挙が終わればまた二人で一緒にテレビ番組を作っている姿がなんともいえず心和むのだ。
社会派映画や選挙の在り方に興味がある人はもちろん、興味のない人でも楽しめること請け合いの傑作社会派エンターテインメント。
ただし、画像がチラついているような独特の映像は、わざとそうしているようだが僕としてはちょっと気になって、特にあまり物語に動きがない前半とかは、映写室に注意に行こうかと思ったくらいだった。行かなくてよかった。
話が盛り上がる後半は慣れもあるけどあまり気にならなくなった。
『モーターサイクルダイアリーズ』でチェ・ゲバラを演じたラテンイケメンのガエル・ガルシア・ベルナル。
『バッド・エデュケーション』も『バベル』も良かった彼だけど、やっぱり社会派映画が似合う。なんかとんでもないことやりそうな予測不可能ハラハラオーラ。決して観客を安心させるスターではなく、観客をかき回すトラブル野郎でもあるが、今回は独裁政権をかき回して観客の味方である。いい男は何やってもかっこいい。
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壊憲記念日とも言われる7月1日とその前日の6月30日に僕は官邸前に行った。
そしてデモに参加した。
「デモはテロ」とかぬかす政治家もいるが(アンパンマンに似た顔の人)、僕はデモというやり方は否定しないし、デモをして叫ばねばならない時は絶対にあると思っている。
ただ一方で、デモに参加してなんか違うと感じたところもあった。わあわあ叫んでも結局負けた。安倍政権は集団的自衛権行使容認を認める閣議決定に踏み切った。
デモより穏やかに、そしてもっと効果的に憲法を守る方法が絶対あるはずだと思った。
映画『NO』が示したCMでムーブメントを起こして国民の関心を高めるというのもデモに変わるもう一つの方法だと思った。
悪い政権が望むのは人々の無関心だ。
前回の衆院選では過去最低の投票率(59%)の選挙で、比例区ではたったの28%の支持しか得られなかった党が政権につき、国民に真を問うこともせず平和憲法の根底を覆す決定を平然とやってのけた。官邸前のデモの熱気はそれはすごかったけど国民運動ってほどでもなく政府から見れば一握りの人たちがわあわあ叫んでいるに過ぎなかった。
関心をもとう。
チリの独裁政権も国民の関心が打ち負かした
今こそ自民党に「NO」を突き付けよう!!
『NO』
監督:パブロ・ラライン
脚本:ペドロ・ペイラノ
出演:ガエル・ガルシア・ベルナル
---以下、鑑賞直後のTwitterフラッシュ映評---
@shinpen: 「NO」パブロ・ラライン監督のチリ映画。独裁政権の賛否を問う国民投票の舞台裏を描いた映画。「熱い台詞を吐く情熱的な主人公」みたいな(個人的にはそういうの反吐でそう)ドラマにせず淡々と描くことによるゾクゾク感。すげーおもしれえ
@shinpen: 「NO」独裁政権vs民主化勢力という単純な図式の裏の両陣営の広告屋の闘いの映画であるところが面白い。独裁陣営の広告屋も負けじとユーモアたっぷりのCMをオンエアし無表情でそれを観る民主化勢力側の広告屋のプロフェッショナリズム!その二人が本業では同僚で先輩後輩ってあたりもしびれる
@shinpen: 「NO」ラストの主人公の無表情なアップ。どうとでも取れる顔と続くカットによって観客の感情を誘導するモンタージュの逆手をとり、後に何も付け足さない。観客に丸投げするどうとでも取れる顔アップの結末。むしろその選択に監督の思想を観る。広告で覆した政権なら広告によってまた転覆され得る警告
@shinpen: 「NO」ガエル・ガルシア・ベルナル久しぶりに観た。「バベル」以来か。イデオロギー的な顔。社会派映画に欲しい役者。年齢に応じた渋みもでてきて、スターの貫禄も出てきて、本当にかっこいい。
@shinpen: 「NO」を観て思ったのは日本の左派勢力に決定的に欠けているのはユーモアだということ。つまんない御託並べるだけでは「NO」の前半部がそうだったように何も響いてこない。憲法改悪阻止に本気で取り組むならユーモアとインテリジェンスの絶妙なブレンドを。俺もそういう情報発信と創作を心掛けよう
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自主映画制作団体 ALIQOUI FILM
最新作「チクタクレス」
小坂本町一丁目映画祭Vol.12 入選
日本芸術センター映像グランプリ ノミネート