[80点]
ファーストショットは装飾された鉄の網飾り。実は地下鉄の排気口のフタなのだけど、それを最初に写すのはどういう意味があるのか?
思うに精神的な自由を奪われ檻に閉じ込められたような生活を送るキャロルのような女たちのメタファーなのだろう。
カメラはそこからカットを入れずにティルトアップしてレトロのデザインの服装の人々や車や町並みを写し50年代のアメリカの都会の風景を映し出す。
ファーストショットにその映画の全てを詰め込む・・・のが好きな私としてはとても素晴らしく感じた。
監督トッド・ヘインズは、洋楽好きな人たちにとっては「ベルベットゴールドマイン」や「アイムノットゼア」の監督という印象なんだろうけど、洋楽にうとい自分にとっては「エデンより彼方へ」を撮ったオールドスタイルを好む監督という印象。
50年代のアメリカが舞台で同性愛が物語のテーマという点で「キャロル」は「エデンより彼方へ」の姉妹品と呼んで差し支えないだろう。
ただし「エデンより彼方へ」がピカピカのセット、色彩を意図的に強調した映像、クラシカルなカット割りで50年代ハリウッド映画のある種パロディであり、50年代のアメリカの再現よりも50年代のアメリカ映画を再現することでハリウッド映画史にたいする批評を試みる作品だったのに対して、「キャロル」は純粋に50年代アメリカの再現を意図した作りである。
同性愛が異常なこととみなされていた時代に苦しんだマイノリティたちの気持ちに焦点をあてる。
「エデンより彼方へ」はキャストも素晴らしかったけれど監督の作家性の方がはるかに強く感じられる映画だったが、「キャロル」はこう言うと失礼なのかもしれないけど、キャストの力で輝く映画だった。
物語は実はせいぜい10日くらいの期間での出逢いと旅と別れが描かれる。短期間の物語にそれでも強い印象を残すだけの物語上の創意工夫はあまり感じられないが、それを補って余りあるのが言わずもがなのケイト・ブランシェット様の存在感である。
そこにいてうっすら笑みを浮かべ黙って座っているだけで全部飲み込んでしまいそうな存在感。
普通に考えればドラゴンタトゥーのルーニー・マーラの方が女を喰いそうな、いわゆるタチの役が似合うはずなのに、ケイト様はそんなルーニーも捕食(いや補色か?)対象にしてしまう。そんな女優のヒエラルキーを感じさせるキャスティング。ルーニーさんもケイト様が相手なら喜んでネコ役に徹しましょうって感じか。
2人のラブシーンはとても美しい。「アデル、ブルーは熱い色」のような獰猛な描写による迫力は無いけど、ケイト様の年齢もあるし、さらに抑制されてきたキャロルがテレーズの裸をみて「美しい」ってしみじみ言う描写につながって心を打つ。
2人のいい女優をみる、スター映画である。
キャロルの自分を偽って生きる苦しみが脚本でもっと描かれていればもっともっと傑作になったと思う
それでもキャロルとテレーズの眼差し思い返すだけで何かしら心に広がる切ない感覚に酔いしれる
キャロル
監督:トッド・ヘインズ
出演:ケイト・ブランシェット、ルーニー・マラ
2016/02/28 渋谷シネパレスにて鑑賞
ファーストショットは装飾された鉄の網飾り。実は地下鉄の排気口のフタなのだけど、それを最初に写すのはどういう意味があるのか?
思うに精神的な自由を奪われ檻に閉じ込められたような生活を送るキャロルのような女たちのメタファーなのだろう。
カメラはそこからカットを入れずにティルトアップしてレトロのデザインの服装の人々や車や町並みを写し50年代のアメリカの都会の風景を映し出す。
ファーストショットにその映画の全てを詰め込む・・・のが好きな私としてはとても素晴らしく感じた。
監督トッド・ヘインズは、洋楽好きな人たちにとっては「ベルベットゴールドマイン」や「アイムノットゼア」の監督という印象なんだろうけど、洋楽にうとい自分にとっては「エデンより彼方へ」を撮ったオールドスタイルを好む監督という印象。
50年代のアメリカが舞台で同性愛が物語のテーマという点で「キャロル」は「エデンより彼方へ」の姉妹品と呼んで差し支えないだろう。
ただし「エデンより彼方へ」がピカピカのセット、色彩を意図的に強調した映像、クラシカルなカット割りで50年代ハリウッド映画のある種パロディであり、50年代のアメリカの再現よりも50年代のアメリカ映画を再現することでハリウッド映画史にたいする批評を試みる作品だったのに対して、「キャロル」は純粋に50年代アメリカの再現を意図した作りである。
同性愛が異常なこととみなされていた時代に苦しんだマイノリティたちの気持ちに焦点をあてる。
「エデンより彼方へ」はキャストも素晴らしかったけれど監督の作家性の方がはるかに強く感じられる映画だったが、「キャロル」はこう言うと失礼なのかもしれないけど、キャストの力で輝く映画だった。
物語は実はせいぜい10日くらいの期間での出逢いと旅と別れが描かれる。短期間の物語にそれでも強い印象を残すだけの物語上の創意工夫はあまり感じられないが、それを補って余りあるのが言わずもがなのケイト・ブランシェット様の存在感である。
そこにいてうっすら笑みを浮かべ黙って座っているだけで全部飲み込んでしまいそうな存在感。
普通に考えればドラゴンタトゥーのルーニー・マーラの方が女を喰いそうな、いわゆるタチの役が似合うはずなのに、ケイト様はそんなルーニーも捕食(いや補色か?)対象にしてしまう。そんな女優のヒエラルキーを感じさせるキャスティング。ルーニーさんもケイト様が相手なら喜んでネコ役に徹しましょうって感じか。
2人のラブシーンはとても美しい。「アデル、ブルーは熱い色」のような獰猛な描写による迫力は無いけど、ケイト様の年齢もあるし、さらに抑制されてきたキャロルがテレーズの裸をみて「美しい」ってしみじみ言う描写につながって心を打つ。
2人のいい女優をみる、スター映画である。
キャロルの自分を偽って生きる苦しみが脚本でもっと描かれていればもっともっと傑作になったと思う
それでもキャロルとテレーズの眼差し思い返すだけで何かしら心に広がる切ない感覚に酔いしれる
キャロル
監督:トッド・ヘインズ
出演:ケイト・ブランシェット、ルーニー・マラ
2016/02/28 渋谷シネパレスにて鑑賞