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うえだ城下町映画祭自主制作映画コンテスト・大賞・審査員賞作品の感想

2006-12-26 01:09:47 | 自主映画関連
うえだ城下町映画祭自主制作映画コンテストには、自主制作映画部門(条件 : 2003年以降に完成した15分以上の作品)に32作品、私のふるさと部門に14作品の応募があり各賞は以下のようになりました。

自主制作映画部門
大賞 「陸上生活」 (佐々木想 監督)
審査員賞(大林千茱萸(ちぐみ)賞) 「へなこ」 (青木克齊 監督)
審査員賞(永井正夫賞) 「猫とり名人」 (斉藤新 監督)
審査員賞(古厩智之賞) 「お雑煮日和」 (今西祐子 監督)

私のふるさと部門
最優秀賞 「故郷に人影絶えて」 (大塚 哲也・原子 裕貴 監督)

以下、各作品の私の感想です

なお大賞作品と審査員賞受賞作は上田マルチメディア情報センターよりインターネット配信されますので、是非そちらを御覧になってください。
うえだ城下町映画祭・自主制作映画コンテスト入賞作品の各審査員のコメントならびに、インターネット上映のリンク

自主制作映画部門 大賞
「陸上生活」 佐々木想監督
授賞式後に上映が行われたのだが、私ら受賞者は事務局との打ち合わせがあったり、古厩監督がすぐ帰られるということもあり楽屋で談笑していたりで・・・前半は見逃した。

物語はジャック・ロンドンという作家の「The Road」という小説がモチーフになっている。この小説は(未読だが)、男が存在しない姉の思い出話を語っているうちに自分自身が姉の存在を信じ始めてしまう・・・というような内容らしい。
映画はフリーターとして働く中年男性が出会い系サイトの女性「よし子」とのメールや掲示板での会話で進む。ところがその「よし子」は詐欺業者によって作られた架空の人物であり、詐欺業者の男性アルバイトがその正体。アルバイトが中年男性との会話のネタ探しに、たまたま作業机に誰かが置きっぱなしにしていたジャック・ロンドンの本を使う。
中年男性は「よし子」おすすめのTHE ROAD (全部英語の本)を必至に読み「よし子」に感想を語ると、アルバイトも興味を引かれてTHE ROADを読み始める。やがて「よし子」を助けるため中年男が動き出し、一方アルバイトとは無関係に架空のはずの「よし子」からメールが届く

きっと次はこういう展開になるんだろう・・・と予測あるいは期待させておいて、話はそうは進まない。良くも悪くもこちらの読み通りには進んでいかない。つかんだと思ったらするりと抜けていくうなぎのような感覚の映画とでも言おうか。
ただ、やや冗長な感じがする中盤と、とってつけた感のあるクライマックス(展開としては好きなのだけど)にシナリオとしての難を感じる。恐らく映画を作りながらエピソードを修正か追加していったのだろう(実際終盤はあとから付け足したものだと監督自身から聞いた)。ストーリーの大筋はあれでいいとして、全体のプロットを練り直して60分くらいに凝縮できればもっと良いものになった気がする。
でも何か不思議というか、不安感を煽られる映画であった。
そして、本来強い個性を持つ監督が、スタイリッシュになる前に撮った映画を観てるような気分になる作品でもある。
いい例えではないけど、ジョン・ウーの「ソルジャードッグス」とか、ウォン・カーウァイの「今すぐ抱きしめたい」とかを見てるような気分(ま、それらは彼らがスタイリッシュになった後で見たからそう思っただけなんだけど)に似ている。あと2~3作撮った時、とんでもない監督に化けてるんじゃないかとそんな期待を抱かせる

(追記・・・佐々木監督ご本人より作品DVDをいただき、ちゃんと全部通して観賞。前半部分に登場する女の子が後半に出てきたり、その女の子の台詞が微妙に後半の展開の伏線になっていたり、あるいは前半部に登場する気に入った人にゆで卵を渡す男の行動を終盤で主人公が反復したり・・・そういう作劇の工夫が見られて面白かった。やっぱ映画は通してちゃんと観ないとダメだね。あたりまえだが。それにしても主人公役の人は役柄に反してやたらかっこ良く見える。出会い系詐欺サイトにはまる仮面ライダーみたいなミスマッチ感が楽しい)

自主制作映画部門 大林千茱萸賞
「へなこ」 青木克齊監督
いつも下をみる癖のある女の子ひなこ。いつしかついたあだ名は「へなこ」。子供時代、友達が大空に舞い上がる多数の風船に見入っている時もへなこだけは下を見てアリの観察をしていた。そんな癖をもったまま大人になったへなこだが、下を見る癖のおかげで今の彼氏とも付き合えているし、それなりに楽しい下向き生活をおくるへなこ。
ある日、真上向きの目のついた金魚「頂点眼」を買ってくる。例によって上から見下ろすと、自分を見返している頂点眼。
金魚の気分で野原に寝転がり、空を見上げるへなこ。彼女は気球にのって大空に舞い上がる。

ストーリー全部語っちゃったけど。いかにも金のかかった映像と音楽。プロの仕事を感じさせる安定感のある映像。自主というよりインディーズに近い気がする映画。
オープニングの湯船の中の自分の足と風呂の栓を見るへなこ視点のカットは、映らない部分への想像をかきたてるエロチックな感じが素晴らしいと思った。中盤は視点というより下を見下ろしているへなこを、下から見上げた客観視点のカットが多く、観客はへなこに見られているような感覚となる。ただへなことなって下を見る感覚がやや薄まる気がする。頂点眼に見返されるところは見ると見られるの関係逆転が素晴らしい。
ラストについては、気球に乗って大空へ行くというところに、空間の広がりを感じ、それまでのへなこの周囲のみの世界から一気に世界が広がり見事・・・と思う反面、僕にはもっとふさわしいエンディングがあったように思えてならない。
多少の不満。見上げることを教えられたへなこが大空への憧れを抱くまではよいが、結局気球にのって世界を見下ろしていること。
僕が考えるふさわしいラスト・・・気球から見下ろすと、舞い上がる風船に歓喜する子供たちと、その子たちの輪に加わらず一人うつむいて地面を見ている少女が見える。舞い上がった風船はいつしか気球よりも高く上がっていき、それを追ってへなこの視点もいつのまにか見上げるかっこになっている。
ファンタジーすぎるかもしれんが、空間ばかりか時間までも飛び越えて見下ろすから見上げるへとへなこの成長がダイレクトに描けたのじゃないかと・・・もちろん予算とか色々問題合って簡単にはできないだろうけど

自主制作映画部門 永井正夫賞
「猫とり名人」 齋藤新監督
自分の作品ですので・・・
授賞式での永井正夫プロデューサが述べられた感想を要約して紹介します。
「とにかく観て楽しかった。それが第一印象でした。どちらかと言えば自主映画作品というのは自分の思いや思想とか強い意識のものが多いのですが、そういうものをあまり感じずに気楽に観れる、その辺がとても私としては良かった。それと時代を遡った作品に挑戦したこと。予算の無い中で大変だったと思います。私も時代劇は相当数をこなしている方なんですが、とてもお金もかかるし時間もかかるのですが、その辺もふくめてうまくいっていたと思います。
なかなか力のある方だなと思って観ましたので、是非、次の作品も観さしていただきたいと思います。」

他にも楽屋で古厩監督から「あの長回しのとこ、よくこんなバカなこと考えるなあ、って思ったよ」とか、私の故郷部門審査員の上田観光コンベンション協会専務理事吉村晴夫さんより「よくぞあんなバカバカしいものを作った」などなど・・・いちお狙い通りの感想をいただけて嬉しかったです。

自主制作映画部門 古厩智之賞
「お雑煮日和」 今西祐子監督
お雑煮食べながら年賀状を読んでいる主人公。「もうすぐ結婚します」と書かれた友達からの年賀状。するとその友達が突然来訪し、郵便受けに手を突っ込みこそこそと年賀状の回収をしている。訳を聞けば結婚話はなくなったらしい。主人公は友達のため、手分けして年賀状回収をすることにする。

間延びを恐れずあくまでも省略せずに俳優の動きを最後まで見せるところがいいと思った。自分なら耐えきれず途中でアップ入れるか、風景とか室内のカット入れて時間短縮を図る。物語が命だと思っているから物語と関係ない部分は可能な限り切り詰めようとするのだが、そんな語ることに大忙しな自分とは全くちがう作風が勉強になる。
台詞もはっきりと喋らせ、聞こえない時はアフレコする自分と違い、この映画では何を喋ったかより、どんな風に喋っているかを重要視しているように感じる。
それらの演出により、結果としてたった2人だけの映画からは、2人だけゆえの充足感が溢れる。カメラや監督が現場にいることすら憚られるような2人だけの空間ができる。
古厩監督が絶賛していた女2人が一つのベッドで寝ながら語らうシーン。
主人公が寝るからといって明かりを消すと、画面はほとんど真っ黒。何も見えないが、布団の中で体をずらす音が聞こえ、やがて2人の何気ない会話が聞こえてくる。真っ暗なのは単なるミスではあるまい。ここも実際に2人が寝る時真っ暗なのだからそのまま映像化したのだろうし、また暗闇から聞こえてくる2人の楽しそうなくすくす笑いが、こちらの「見たい」という欲求をあざ笑っているかのようで作る側から見る側への魅力的挑発とでも言おうか。
(つい最近みたテオ・アンゲロプロスの「ユリシーズの瞳」のラスト、視界ゼロの霧が写されたほとんど真っ白な映像から聞こえてくる虐殺の音・・・を思い出した。シーンごとのカットが非常に少ないところもアンゲロプロスっぽい気がしなくもないけど、多分関係ないだろう)
個人的に残念なのは、作品時間の短さだろうか。特に年賀状回収シーンはもっと色々なエピソードがあっても良かった気がする。例えば、郵便受けから勝手にハガキを抜き出しているのを人に見られ不審者と思われるとか、集合住宅の郵便受けからちょうど年賀状を持ち出したばかりの家主にわざとぶつかって年賀状をまき散らさせて、拾い集めるフリして友達の年賀状を抜き取るとか・・・そういうことすると登場人物が増えてコンセプトに反するのかもしれないが・・・それでも、それなりにあれやこれや苦労する様を積み重ねていった方が、終盤の2人だけの空間の安堵感がより強調されたのではと思う。
それでもけっこう満足感のある作品であった。

私のふるさと部門 最優秀賞
「故郷に人影絶えて」 大塚 哲也・原子 裕貴監督
北海道の釧路に近い、雄別町。かつては炭鉱で栄えた町も、いまや人影もない廃墟と化している。時が止まったかのように、色あせ錆びたコーラの缶やクレンザーの入れ物がそのままに放置されている廃墟。
滅んだ故郷の歴史紹介を通して亡き故郷への思いが滲む(製作者が本当に雄別出身なのかはわからないけど)
強いて難点をあげれば上映時間4分というのが短すぎるということだ。あのゴーストタウンと化した故郷を10分くらいは見ていたかった。

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4 コメント

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ご感想ありがとうございます (大塚哲也)
2006-12-02 14:18:57
 はじめまして
 上田城下町自主制作映画コンテストに出品しておりました大塚と申します。当日は、あいにく先約があり、徳島県に走っておりましたので参加できませんでした。残念でした。

 ネット検索中に、こちらのページを見つけ、作品にコメントを頂いていることを知ったので、慌ててコメントさせていただく次第です。
 ご明察(^^;のとおり、私は雄別出身ではありません。ただ、共同制作の原子がちょうど阿寒町の出身のため、カメラを回した次第です。(雄別そのものはすでに廃村ですので、直接の出身者はもうだいぶお年を召されているはずです)
 ご指摘の長さの点ですが、大変恥ずかしながら、原子が三脚なしで撮ったものですから、手ブレの最小限の箇所を切り出してつないだので、あのような形になりました。もう少しゆったりと作りたかったなあ、と同感です。
 現地には、もっともっと凄まじいものがあるのですが、あまり寄って撮影すると「あれ?これって不法侵入じゃないの?」ということにもなりかねません。(あんなところでも、いちおう登記上の所有者があるようです)あっさりと公道から撮影する以外にないので、まあ妥協点かな、とも思います。
 廃村や廃墟群は日本各地にありますから、あの撮り方、流れ、展開を利用すれば、「どこの話」でも作れますね。
 ともあれ、当日お会いするチャンスを逃したことを残念に思います。取り急ぎ失礼いたします。
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コメントありがとうございます (しん)
2006-12-03 13:19:13
>大塚さま
こんな小さなブログを発見していただき、感激です。
すごい面白い・・・というのが正直な感想でした。ヨイショでなく。
廃村シリーズとして46都道府県を撮り続けていけば、日本の戦後史がちがった形で見えてくるかもしれないですね。
うえだのマルチメディア情報館で12月から私の「猫とり名人」もインターネット上映されます。よろしければ見てみてください。
返信する
「猫とり名人」ぜひ! (大塚哲也)
2006-12-05 16:57:18
「猫とり名人」ぜひ観賞させていただきます!いわゆるドラマは撮ったことがないので、ドラマが撮れる人はいつもうらやましい思いです。(時間や人手など、ご苦労が多いことだと思います)

>廃村シリーズとして…
おっしゃられている意味が、すごくよくわかるので、共感しております。余裕があれば、北海道の閉山炭鉱町ばかり集めて、「消えた街角」シリーズみたいなものを作りたい、というのが本音です。
 かつて住んでいた人のためにも、アーカイブとして残す必要もあるでしょうね。
 まさにいま、「平成の大合併」で多くの町が姿を変えている時ですから、全国的な視野も、当然のことだと思いました。
 雄別出身でないことを見抜かれた件といい、斎藤様の洞察力の鋭さ、敬服いたします^^;
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コメントどうもです (しん)
2006-12-14 02:01:27
>大塚さま
いいっすね 消えた街角シリーズ!!
北海道の戦後史が見えてきそうです。
夕張がそのシリーズで取り上げられる日が来ないことを祈っています。
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