満月に聴く音楽

宮本隆の音楽活動(エレクトリックベース、時弦プロダクションなど)及び、新譜批評のサイト

Jamaaladeen Tacuma 『For The Love Of Ornette』

2011-04-15 | 新規投稿
 
全編にオーネットコールマンのサックスがフューチャーされており、これは殆ど、コールマンとジャマラディーンタクマの師弟2トップバンドの様相である。しかもプライムタイムを彷彿とさせるのは、リズムと‘うわもの’の絡み具合なのであるが、ホジョク(韓国のリード楽器)がもう一つのリードパートとして立ち現われる場面にドンチェリー=コールマンのダブルリードの音像が重なったりもする。わかった。これはタクマによるオーネットコールマンミュージックの最良部分の再構築の試みであり、その伝播の使命の表れであると。

ジェイムスブラッドウルマー、ロナルドシャノンジャクソン、ジャマラディーンタクマというコールマンミュージックの伝道師達が師、コールマンと比較して欠けたのは、実はそのポップフィーリングだった。その意味でタクマこそがそのソロワークの端緒において、コールマン流フリーポップを‘メジャー化’させる要素をふんだんに受け持っていたと思われたが、その後の活動はしかしベースに特化した一プレイヤーに落ち着いてゆく。オーネットコールマンの偉大さはその歌つくりの才能にあったのはメロディやリフによるテーマの面白さ、可愛さ、味わい深さを耳にすればそれは誰も真似のできない領域であった事が判明するのだが、はたして弟子たちは誰一人として、コールマンのような‘ソング’を作れなかった。

しかし『For The Love Of Ornette』ではタクマによる魅力的な作曲に魅かれる。まるでコールマンが書いたようなソングが並び、しかも各器楽パートの配置からは師の手法がイメージされ、オマージュにふさわしい充実作といえよう。52分という昨今のCD作品としてはむしろ短いトータルタイムも、これ以上、ソングが湧かなかったという意味で納得できる短さ。駄作がない為かあっという間に終わってしまう。いい意味での物足りなさがある。

私はこのCDを学生時代の後輩、田中君が一人でやっている京都のC’s choiceというショップで買った。いわゆるマニア向けの小さな店だが、もう10年頑張っている。久しぶりに会ったので、3時間以上も話し込んでしまったが、音楽がとことん好きな人間と話すのは実に楽しいなあと実感できたひと時であった。コルトレーン命の私に対し、コールマン命の彼は、‘熱く語る’私と同人種。経営難も乗り越える情熱があきらめず続ける秘訣だろう。ネット通販を拒否し、あくまでもお客に音楽を語りながらの商売に徹するその姿は伝道師だね。

『For The Love Of Ornette』の解説には音楽を辞めようと考えたタクマの家にはるばるやってきたコールマンがタクマの母親に音楽を続けるよう説得してくれと懇願したエピソードが載っていた。音楽が好きな人間はやめれない。田中君も辞めないさ。好きな音楽をずっと熱く語ってくれよ。

2011.4.15

  
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする