ヒト遺伝子想定的生活様式実践法

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「コルチゾール過剰症候群」 (9) 筋力低下

2013年06月01日 |  症例(その他)

 心臓病の脇道は休止として、久しぶりにこのシリーズも進めておこう。はじめての方は次の過去記事参照: コルチゾール過剰原因説 2012/8/8


(9) 筋力低下

 先ず、コルチゾールの作用のおさらいから。

 コルチゾールの作用は大きく分けると3種類で、抗ストレス作用、エネルギー源の産生、エネルギー消費の抑制となる。このうち、エネルギー源の産生には2種類あって、一つはタンパク質などから糖を合成することであり(糖新生)、もう一つは脂肪を分解することである(得られた脂肪酸とグリセロールについては、前者は細胞でエネルギーに、後者は糖新生の原料に)。詳しくは、過去記事を参照: ストレス反応と副腎機能 (2) 抗ストレス・ホルモン 2012/8/5


 コルチゾール過剰の環境にあれば、エネルギー消費を抑制する観点から、闘争・逃避に即座に役立たないタンパク質の合成が抑制され、また、体内で糖分が足りないと判断されるときには、糖新生が行われることとなる。糖新生の原材料であるタンパク質は主に筋肉からのものなので、筋肉においては、タンパク質の新規補充も抑制されつつ糖新生の亢進した状態となり、これが長期にわたると筋肉の機能低下が顕在化することとなるだろう。


 ステロイド剤による筋障害は、ステロイド筋症(あるいはステロイド・ミオパチー)と呼ばれている。筋肉が萎縮するということらしい。サイト『筋疾患百科事典』から、

Ⅱ.筋原性疾患(myopathies) - 8. ステロイドミオパチー(steroid myopathy)
http://www.jmda.or.jp/6/hyakka/kin240.htm#%3CB%3E%E3%82%B9%E3%83%86%E3%83%AD%E3%82%A4%E3%83%89%E3%83%9F%E3%82%AA%E3%83%91%E3%83%81%E3%83%BC%3C/B%3E

 Cushing症候群や、治療としてのステロイド投与で、近位筋優位の筋力低下をみることがあります。ステロイド投与開始して3ヶ月以降に症状が出現することが多いのですが、投与量、投与期間と症状は必ずしも一致しません。ステロイドを減量するか、中止することにより筋力は回復します。
 血清クレアチンキナーゼ(CK)値は正常か、軽度上昇程度です。筋生検ではタイプ2(白筋)線維萎縮を中心とした筋原性変化をみます。

 
 筋萎縮についての分子生物学的なモデルについては、日本リウマチ財団ニュース(http://www.rheuma-net.or.jp/rheuma/rm220/news.html)の記事から、

日本リウマチ財団ニュースNo.109  2011年11月号
ステロイド治癒の現在 ステロイド治療薬の今後を占う
http://www.rheuma-net.or.jp/rheuma/rm220/pdf/news109.pdf

図 ステロイド筋症の分子機構(仮説)
注)「異化プロセス」はタンパク質の分解、「同化プロセス」はタンパク質の合成の意味。
出典)前掲資料4頁。



[田中廣壽 氏(東京大学医科学研究所付属病院アレルギー・免疫科准教授)]
 骨格筋量の調節機構に関する理解はこの10 年くらいで飛躍的に高まっています。成人では,筋タンパクの合成と分解のバランスによって規定されているようです。
 最近では,筋萎縮はある種の遺伝子発現プログラムによってきわめて精緻に制御される能動的プロセスであるとされています。筋肉の遺伝子発現に与えるステロイドの作用を見ると,ステロイド受容体は複数の遺伝子発現プログラムを合理的に動かして,ユビキチン- プロテアゾーム依存性タンパク分解,オートファジーを促進させ,その一方でタンパク合成を抑制するのです。タンパク合成のカギ分子はmTORといわれるセリンスレオニンキナーゼですが,実はこのmTORを活性化すると,タンパク合成が上がると同時にステロイド受容体の働きをブロックすることがわかりました。ですので,GR[(ステロイド受容体)]とmTORはシーソーみたいな関係です。
 GRはタンパク分解,mTORは合成の,各々カギ分子として互いの働きを抑制しあっています。進化の過程では,飢餓などによってストレス時にステロイドが分泌され,骨格筋の分解によってエネルギーをうまく取り出す機能が重要だったのでしょう。もちろん,ちゃんと食べると,それこそインスリンなどを介してmTORが活性化され,筋萎縮のプロセスもシャットダウンされる。このように,ステロイドが巧妙に筋肉を使って代謝をコントロールしていることが分かりました(Shimizu, et al., Cell Metab. 2011;13:170)([上図参照])。この研究成果から,ステロイドによる筋萎縮に対するmTOR 活性化療法という新しい治療法開発のヒントが得られたわけです。 (前掲資料4頁)


 筋萎縮が起きると、場合によっては筋細胞が破壊されることもあるだろう。心筋の場合は再生しないといわれているが(そのため一旦壊れると問題が大きい)、骨格筋の場合は、再生するとされているが、それにも自ずと限度がある。特に、高齢者では、加齢による筋力低下とともに再生能力も低下しているはずで、問題化しやすいと思われる。日本筋ジストロフィー協会のサイトから、

筋肉再生の報道について
2002/10/02
http://www.jmda.or.jp/6/saisei20020924.htm

筋細胞の再生について

    筋ジス研究班班長 清水輝夫

  [中略]

 骨格筋は、胎児の時期そして生まれて成長する過程で、未分化な細胞が分裂して数を増した後に、細胞同士が融合して大きな長い細胞に分化することによりつくられる。分化した細胞は次に成熟して、収縮するはたらきをもった筋細胞ができあがる。成熟した筋細胞は、その中に収縮をになう微細な構造がぎっしりつまっているために、収縮できるわけである。このような分化した筋細胞や成熟した筋細胞は、もはや分裂しないと考えられていた。
 一方、骨格筋に損傷が起きた場合には、その骨格筋を修復するために再生が起こる。この再生には、成熟筋細胞のかたわらで分裂せずに寄り添うようにして存在している未分化な衛星細胞が、中心的な役割を果たす。すなわち筋細胞の損傷などにより、衛星細胞が活動状態になり分裂して数を増す。分裂した細胞同士は分化して融合し、さらに成熟することにより、もとのように骨格筋を再生する。しかし衛星細胞はある程度までしか分裂しないため、損傷した箇所が大きい場合には、再生はある程度までは起きても、損傷箇所すべてを修復するには至らない。


 3.11後の状況の参考になるかもしれないので、ステロイド剤による筋力低下の具体例をみておこう。最初は、何故か動物の場合から(紹介しないとうなされそうで・・・)。ブログ「フェレットの飼い主さん御注意を!悪質獣医がいます気をつけて!」から、

実例ケース2 ・ Bさんの被害 (ステロイド長期大量投与)
2006/4/22
http://blogs.yahoo.co.jp/puratina9999/3094811.html

 Bさんのフェレットは6歳。もう老齢でした。・・・

・・・実は、それはステロイドの副作用で、後ろ足の筋肉が溶解したため、歩きにくくなっていたようなのですが、悪徳獣医は、それを、検査もしないで「神経の病気、脊髄神経の問題、腰も痛いです。」などと言って、さらにステロイドを投与し続けたのです。


 次は、人の場合で、免疫疾患(SLE。全身性エリテマトーデス)でステロイド剤を摂取していた例をみておこう(但し、3.11前)。ブログ「一歩一歩!振り返れば、人生はらせん階段」から、

「ステロイドによる骨格筋の筋力低下」についてのアンケート
2010年 10月 23日
http://ippoippo51.exblog.jp/14844674

 実は、「ステロイドによる骨格筋の筋力低下」は、ステロイドを服用し始めた25年前から私を悩ませていた副作用の一つだった。
入院してステロイド12錠で治療を始めたが、しばらくして、歩行中に違和感を覚えるようになったのだ。床の踏み心地が変なのだ。何か、ふわふわした感じがするのだ。安定感がないような感じ。滑ってこけそうな感じ。
だから、病院の廊下を歩くときは、必ず手すりを持って歩くようにしていた。
主治医に告げたら、「ステロイドの副作用で筋力が低下しているのだと思うから、転ばないように気をつけてください。」と言われた。病院のお風呂で鏡に裸姿を映して見たとき、お尻の筋肉がゲッソリと落ちていることに気がついた。

 退院後、股関節の激痛が度々起こり、「すわ、骨頭壊死か?」と心配したが、整形外科で診てもらうと筋力低下が引き起こしている痛みだと言われた。ステロイド減量と運動による筋力強化が解決方法だが、当時はSLEも安定せず、腎臓が悪くて安静状態で、我慢するよりなかった。

 やがてステロイドが減り、少しずつ働けるようになり、趣味のハイキングや軽い登山を始めたら、しばらくして、膝に痛みが出るようになり、これも「すわ、変形性膝関節症か?」と心配したら、膝の半月板損傷とのことで、手術した。
半月板が壊れるような激しい運動はしていないから、軽い登山が原因ではないかと思う。膝に負担がかかったのに、筋力低下で支えきれなかったので、半月板に負荷がかかり、痛んだのではないかと思っている。


 最後に、免疫疾患(多発性筋炎)でステロイド剤を摂取していた例を紹介しておこう。ブログ「自作PC」から、3.11後の例だと思うけど、

ステロイドミオパチーと筋炎
2011年11月30日
http://jisakupc.ddo.jp/2011/11/miopachy.html

 私の場合は、上肢近位筋の筋肉痛や脱力は一時的(数日)で終わりましたが、下肢近位筋(主に大腿部)は今のところ筋肉痛の様な痛みはありませんが、時々『ピリッ!』とした感覚が走ります。この感覚は入院中にも有り、この時には皮膚の表面近くが酷く痛かったのを覚えています。

 脱力もこれに合わせるように強くなってきました。またそれに伴い筋肉の質が変わってきた様に思えます。固かった筋肉質が、ぷよぷよの柔らかい筋肉質に変わって来た感じが致します。

  [中略]

 それと、筋肉の萎縮も同様に感じ取れます。同じ体制で物を掴んでいると、その形のまま萎縮してしまいます。手の平がお椀の形の様に成り痙ってしまったり頻繁にこの症状が出て来ます。

  [中略]

 ついでにオマケが有るようで、かなりキツイ肩こりが出て来ます。


 ちなみに、多発性筋炎の解説については、gooヘルスケアから、

多発性筋炎、皮膚筋炎
http://health.goo.ne.jp/medical/search/10T10200.html


 以上の例によれば、筋力低下が本態だが、筋力低下が引き起こす関連の症状にも悩むこととなるらしい。


 3.11後における筋力低下の疑わしい症例をみておこう。手抜きで過去記事発掘にたよると、高齢者については、次で言及した例が関連している可能性があるだろう。

   〔メモ〕 被災地高齢者における歩行困難の増加 2012/10/30

 この流れだと、「足腰フラフラ病」というのが出てきた次の過去記事も関連しているのかもしれない。

   NHK番組「ためしてガッテン」 (4) 姿勢制御系(体性感覚)の機能低下 2012/12/8


 また、子供については、次の過去記事で指摘した運動能力の低下が関連しているのかもしれない。

   子供の体力・運動能力(2011年) 2012/10/13


 以上の例であっても、個々にみれば、全てがコルチゾール過剰のせいではなく、他の要因も多分寄与しているのだろう。コルチゾール過剰経由の影響とそれ以外の経路の影響を区別するのは難しいと思われが、最も影響がある要因は、筋肉にとある核種が蓄積することと考えるのが妥当なのかもしれない。以前にも紹介した記事だが、朝日新聞から、

筋肉のセシウム蓄積は血液の数十倍 警戒区域の牛を調査
2011年11月25日15時7分
http://www.asahi.com/special/10005/TKY201111250281.html
 

 このような核種濃縮経路以外の要因も考えられるだろう。例えば、高齢者の場合は、うつ病経由(これが増加する点はまた別の機会に)あるいは慢性疲労症候群経由(関係の過去記事はココ)で活動が減った結果歩けなくなってしまったとか、骨粗しょう症経由(関係の過去記事はココ)で骨折した結果歩けなくなってしまったとかも混じっている可能性があるだろう。また、子供の場合は、成長障害の経路(関係の過去記事はココ)や甲状腺疾患が関係していることもあると思われる。