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九月披講


        兼題   蟷螂  星月夜

  天   マゼランの孕む帆の先星月夜   模楽宙       
海峡なのか 或いは星雲 はたまた探検家自身のことか いずれにせよ「マゼラン」
の言葉には怒涛 風雲 世界の難所  …大風を孕む帆船の先の 静謐の星空(変竹)

  天   眼を逸らし女となりぬ秋時雨 雅田如
理非を以って計り難い人の心がかもし出す曰く言い難い雰囲気が伝わってくる(粒石)

  天   みちばたの骸一つや秋の昼   ありま茜
こういう句に何だか魅かれてしまう。今年は日常的な情景に見える、大地震、大津波、台風、そして、放射能、この句が現実のこととして迫ってくる。地球の未来を暗示しているのだ。一方、詠者は中七では何を言わんとしているのか。すでに死に体のこの世を嘆いているのか、人間の荒廃した心境を比喩しているのか、それは下五の季語に結論があるのではないか。腐りかけた骨だけの魂の抜け殻に違いない。また、現世に絶望した自殺者の怨念か・・・・・・(雅田如)

  天   鉄骨の瓦礫の上の名月や   変竹
人間の造り上げた文明も、自然の猛威の前にはもろくもはかない。鉄骨だけが残ったビルの上には今しも月がかかっている。自然は人の心を癒してくれるが、しかしこの変化の多い星に生活している人間、いや生物にとっては厄災を避けて通る事が出来ない。瓦礫と名月の相反する対象が、この句を意味深くしています(模楽宙)

  地   うつろいの流れの果てや星月夜      粒石
漂ってきた 流されてきた 月日は移ろい 光陰は矢の如し 古来 稀なる
領域に至り 来しかたを振り返ってのあれやこれや 見上げれば満天の星空(変竹) 

  地   綻びし蜻蛉の翅のあるがまま        雅田如
この夏を精一杯に生き抜いてきたのであろう。今は酷使に耐えた翅が痛々しい。この小さな虫達も心ある人間の惜別の情を背にして、きびしい秋に向かって行くであろう(粒石)

  地   かのひとのほんとの空の鰯雲   ありま茜
智恵子は「ほんとうの空が見たい」を思いだしたが、当方の記憶が誤りでしたらお許しあれ。
中七に詠者の思いが伝わってくる、今や地球はこの一〇年で破滅の道を歩き始めた。ほんとの空はもう二度と帰ってこないだろう。汚染され、破壊されてしまったが、今日の鰯雲はなんて美しく見えるのだろう(雅田如)

  地   今宵また別離のならひ星祭   ありま茜
生きとし生けるもの、全て出会いが有れば別れが有るのは宿命というもの。私の周囲も近頃その様な話が多くなってきた。星祭というロマンあふれる季語によって新鮮な感じの句となっています(模楽宙)

  人   日溜りに吾みて構ふいぼむしり   模楽宙
この句の情景はありふれているが、上五でこの句を頂いた。人生を達観し蟷螂と会話している姿に平凡だが、自分の半生を語って聞かせているようだ。まさに一茶の心境だろう(雅田如)

  人   蟷螂や忍びとまごう動きみせ       粒石
蟷螂は人間にとって、お世辞にも良い姿には見えないが、顔は凄みがある反面、なにか憎めない表情を見せる時が有る。しかし獲物を見つけた瞬間の行動は素早い。それを忍びの動きとしたところが面白いと思いました(模楽宙)

  人   綻びし蜻蛉の翅のあるがまま         雅田如
風に立ち向かって飛翔してきた 雨に叩かれて羽も傷んだ 長い人生だった 
楽しいこと 辛いことも 綻びた心をいとおしみつつ これからも生きて行く(変竹)

  人   秋立ちぬエンディングノート購ふてみた   変竹
八十路を歩き始めると世の中の彩が急に変ったように感じる。これは小生のみのお思い込みか。嘗て忌み嫌った遺言なる言葉も今ではすんなりと受け入れている。人生の最終章に身を置く実感の然らしむるところだ。過ぎ去った歳月は既にセピア色一色だ(粒石)

  佳作  無人駅のベンチに黒衣花カンナ       雅田如
落葉の舞い散る停車場に… 町をのがれて女が一人 と これは晩秋の景か
花カンナに黒衣となれば初秋? でもやはり 駅にひそやかな喪服の女は美しい(変竹)

  佳作  かのひとのほんとの空の鰯雲   ありま茜        
【智恵子は東京に空が無いといふ ほんとうの空が見たいといふ】そうか 
そうなんだ ほんとの空とは秋の空 鰯雲浮かぶ 爽やかな青い空なんだ(変竹)

  佳作  星月夜ふろや帰りの下駄の音   模楽宙       
二人で行った横丁の風呂屋 いつも私が待たされた 洗い髪が芯まで冷えて
ではなくて コーヒー牛乳を飲み 下駄を鳴らして帰る 少年の上の満天星(変竹) 
 
  佳作  蟷螂が斧に秘めたる気迫かな      粒石
一寸の虫にも五分の魂 盗人にも三分の理 カマキリにだって怒りはあるんです
ひ弱な力 はかない抵抗と世間は侮るが 斧に込めた気迫だけは強くあるのです(変竹)

  佳作  今宵また別離のならひ星祭   ありま茜         
会うは別れの始めなり 織姫も牽牛も つかの間の逢瀬の後の また別離
現世を生きる我々も 人来り 人また去る 人の世のならひ それが人生(変竹)

  佳作  鉄骨の瓦礫の上の名月や   変竹
歴史で「もし」が許されるならば、今年の中秋の名月も例年の如く、平和で豊かな東北の幾山河や街々を皎皎と照らし人々の歓喜を誘ったことであろう。罹災者の心情を思うと言葉を失う(粒石)

  佳作  星月夜ふろやの帰りの下駄の音   模楽宙
この句が目に入った瞬間子どもの頃仰ぎ見ていた夜空を想いだした。あの頃の夜空は文字通りの星月夜、満天の星が煌いていた。今の子供達には何としてもあの空を見せ度いものだ(粒石)

  佳作  蟷螂や鞍馬天狗の末裔の末   ありま茜
面白い 思わず笑ってしまうのは、川柳と紙一重の処、踏ん張っているのは下五の「末」があるからではないだろうか(雅田如)

  佳作  星月夜地球の渚に宇宙波      雅田如
宇宙には様々な放射線が飛び交い、この地球にもシャワーの如く注がれている。先日、ニュートリノの粒子が光速を超えているとのニュースが世界を走った。物理学会では大問題だが、そんな騒ぎをよそに、頭上にきらめく星月夜は、いつもと変わらず美しい(模楽宙)

  佳作  綻びし蜻蛉の翅のあるがまま       雅田如
蜻蛉の翅が折れたら元になおるのだろうか、子供の頃、何の不思議も無く見ていた気がするが、人も骨折すれば自然治癒をする場合もある。たぶん大丈夫なんだろうぐらいに思っていないと気がきではない(模楽宙)

  佳作  みちばたの骸一つや秋の昼   ありま茜
秋も深まり、道端によく目につく虫の死骸は蝉が圧倒的に多い。地上に出て懸命に生きたわずかな期間も、今は日に照らされて無惨な姿をさらしている。哀れだが此れも自然の厳しい現実である(模楽宙)

9月佳作秀作 (ありま茜)

佳作  アラビアの駱駝とねまる星月夜      模楽宙
昔アラブの砂漠を行く隊商の夜はこんな光景だったか。誰が見ても美しい景だがベドウィン族の慣習は今も生きているのかどうか不明。失礼ながら作者にも想像の域を出ない憾みが感じられます。大正末期の童謡「月の沙漠」( 加藤まさを作詩・佐々木すぐる作曲)のイメージに引きずられていなければいいですが。駱駝を出さず、砂漠と星月夜だけで新鮮なイメージが詠めないものか。

佳作  空窓を開けて白帝大欠伸        雅田如
白帝は秋の異称。本句にアイデアは感じられるが、「空窓」がどうか。「空の窓」ならまだよいし、「天窓」ならもっとよい。<天窓を開けて白帝大欠伸>、これなら開けた天窓から大きな秋の大きなあくびが飛び込んでくる雰囲気がある。作者の意図と少し違うかも知れないが。無理な作語はアイデアの足を引っ張るので要注意です。

佳作  うつろいの流れの果てや星月夜        粒石 
本句も俳句としてのアイデアは感じられるが、「うつろい」と「流れ」が類似の語であるところが本句の弱点。永遠の時の流れの果ての星月夜、というイメージはとても美しいと思う。少し点が辛かったかも知れません。

佳作  秋立ちぬエンディングノート購うてみた      変竹
エンディングノートなる存在を初めて知った。その功績で佳作にしました。が、「秋立ちぬ」と「エンディングノート」は明らかに付き過ぎ。イメージの付き過ぎは情緒過多の落とし穴です。

秀作  マゼランの孕む帆の先星月夜      模楽宙
「アラビアの駱駝」と同じ空想の句でありながら、中七「孕む帆の先」で全く違う秀句になりました。風にリアリティが感じられるからです。「観天望気」という船乗りの言葉があるが、マゼランの星月夜は単なる美しい夜景では済まない切実な問題があったはずです。

秀作  蟷螂が斧に秘めたる気迫かな      粒石
「蟷螂の斧」はこけおどしを皮肉った言葉。弱いものは相手を威嚇する習性があります。蟷螂の習性もそれで、振り上げた腕に効果あらしめようとする気迫はあるはず、秘められた気迫が。

秀作  亡き人まばたきならん星月夜       粒石
条件付き秀作。本句は「亡き人まばたき」とあるが「亡き人のまばたき」ではないか。「の」抜けをミスプリと判断して秀作にしました。評者は甘いなあ。大震災で万を超す人が亡くなっており、天の星の無数のまたたきに無数の死者の思いが読みとれます。

秀作  綻びし蜻蛉の翅のあるがまま       雅田如
条件付き秀作。「蜻蛉」は「やんま」など大型とんぼ名と置き換えることで<秀作>としたい。その方が綻びた翅にリアリティが出て、蜻蛉の生命感生活感が出てくると思う。小型の蜻蛉では生きる哀しみが出てこないし、「あるがまま」も解らなくなる。

           次回兼題   敗荷(破れ蓮) 鯊日和


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九月投句

            兼題     蟷螂  星月夜

はじまりは宙の果てより星月夜         模楽宙
空窓を開けて白帝大欠伸 雅田如
うつろいの流れの果てや星月夜         粒石
アラビアの駱駝とねまる星月夜         模楽宙              
綻びし蜻蛉の翅のあるがまま          雅田如
かのひとのほんとの空の鰯雲          ありま茜
忘れ得ぬ人はいづこぞ星月夜          粒石
今宵また別離のならひ星祭           ありま茜
マゼランの孕む帆の先星月夜          模楽宙
秋立ちぬエンディングノート購うてみた     変竹
眼を逸らし女となりぬ秋時雨          雅田如
蟷螂の生の哀しみ輪廻かな           変竹
日溜りに吾みて構ふいぼむしり         模楽宙
巡礼の道ほそぼそと星月夜           変竹
亡き人まばたきならん星月夜          粒石
蟷螂の鳴き声聞こゆくっくっく         雅田如
枯色の美もまた有りぬいぼむしり        模楽宙
蟷螂は斧あげしままそのまんま         変竹
蟷螂や鞍馬天狗の末裔すえの末         ありま茜
星月夜ふろや帰りの下駄の音          模楽宙
千の風吹きわたりたるや星月夜         粒石
蟷螂や忍びとまごう動きみせ          粒石
無人駅のベンチに黒衣花カンナ         雅田如
蟷螂が斧に秘めたる気迫かな          粒石
みちばたの骸一つや秋の昼           ありま茜
まだ途上廃墟の町の良夜かな          変竹
鉄骨の瓦礫の上の名月や            変竹
東北の橋流されて秋の虹            ありま茜
星月夜地球の渚に宇宙波            雅田如
望の夜に毛繕ひして消えにけり         ありま茜 
                             
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八月披講


      兼題   新涼  阿波踊り

  天   夏の果魂魄ゆるる海の藻に   ありま茜
3・11の東日本大震災から既に半年。時の流れに愕然とする。二万人の亡くなられた方々の魂は何処を彷徨っているのか。残された人々の心情は何を思うか。下五に込められた詠者の「祈り」をこの句に感じます。
 八月の天地人はこの一句でいいでしょう(雅田如)

  天   ゆく夏や目高を川へ放しやる   ありま茜       
夏休み 息子と一緒に遊んだ村はずれの小さな川 そこで捕えたメダカと暮した
休みも終りに近いある日 息子と元の川に放しに行く 夏の終わりを惜しみつつ(変竹) 

  天   空打ちのメールでいいよ昼花火      雅田如
昼花火は夜の極彩色の花火と違い、音だけの花火。それを空打ちメールと掛け合わせたところが良いと思いました(模楽宙)

  天   七日目の生をさかんに夜の蝉   変竹
地上に出て今正に余命を終わらんとする時まで、己の本分を貫き通す如く鳴き続ける小さな虫達に畏怖の念を覚える。「虫けら」なんて口が滑っても言えない。(感想)(粒石)

  地   夏の果魂魄ゆるる海の藻に   ありま茜
震災から六ヶ月余りになるが、津波で海へ流された人が多くいたと言われる。行方不明者の魂は海の中を今でも漂っていると思うと、心が痛みます(模楽宙)

  地   別荘の釘打つ音や今日の秋   ありま茜
茹だるような暑さも嘘のように遠のき、澄み切った空、さわやかな風、漸くにして訪れた秋の一日だ。中七に清澄さが漂う。(感想)(粒石)

  地   戒名は号でもよろし秋茜     雅田如
余生はたんたんとあれば良い 向こうへ行った後 生きた証しなど残らなくて良い
一人の男が生きた そして男が死んだ この世に何事も残さなかった それで良い(変竹)

  人   お点前のそつのなきかな秋涼し   模楽宙      
そろそろ老境に近い令夫人 客をもてなすその所作は 手慣れていて無駄がない
その涼やかな立ち居振る舞い 清々しい秋の日の静かな午後 濃茶の香りは秋の香(変竹)

  人   しんがりの過ぎ行く暮色阿波踊り   模楽宙
万雷の拍手を浴びて通り過ぎ行く踊りの列、その後に訪れる一刻の静けさに、なにかしら哀感が漂う。秋はもうそこまできている。(感想)(粒石)

  人   秋立ちぬ風の又三郎行ったきり   変竹
宮沢賢治の風の又三郎は、時として奇異な行動をとり、少年達の話題をさらうが、いつの間にかいなくなってしまう。秋の訪れを予感する様に、一抹の寂しさを感じさせる句です(模楽宙)

  佳作  屋形船川面と空の花火かな   模楽宙        
船中は宴たけなわ 賑やかな笑いがはじけ 酒がゆきかい 話しがはずむ
船上の空では花火が舞い 水面で花火が割れる 晩夏の風がすこし涼しさを増した(変竹) 

  佳作  亡き友の自己紹介の阿波踊   ありま茜        
ひょうきんな奴だった いつも周りを笑わせていた 気配りのヤツでもあった
どこか一抹の寂しさも背負っていた いい奴だったのに 俺より先に逝くなんて(変竹)

  佳作  新涼や朝飼の味をかみしめて     粒石
近ごろ朝の食事がいとおしい 変わりない いつもの食をゆっくり味わって食す 
特別な思いがあるわけでもない きょう一日が 涼やかな風の中にあればいい(変竹)

  佳作  阿波踊りの雑踏遠し影ふたつ      雅田如
表の通りでは 男と女 華やかな掛け合い踊りがあでやかに盛り上がる
裏の路地では 男と女 ひっそりと世間を忍んで しめやかに寄り添う(変竹)

  佳作  新涼や蔵書処分に逡巡す         雅田如
そろそろ終い支度 あれもこれも少しづつ整理して処分して それでも残る蔵書
いつか読み返そうと残して置いたあれこれの本 でも結局読み残して 旅に立つ(変竹)

  佳作  新涼や蔵書処分に逡巡す          雅田如
夏の暑さも過ぎ、さわやかな季節になったので本の整理をする気になったのだが、いざはじめてみると愛着の有る本ばかりで、思い切って捨てられない。誰でも落ちいる光景です(模楽宙)

  佳作  阿波踊り摩天楼なる晴舞台       粒石
阿波踊りに出るのが初めてで緊張しているのか、清水の舞台とするところを、飛躍して摩天楼としたところがユニークで良いと思いました(模楽宙)

  佳作  玉砂利を踏み新涼の神のこゑ   ありま茜
神社へと続く参道の玉砂利を歩いていると、いかにも厳かな気持ちになるもの。玉砂利を踏む感触と音に、秋の爽やかさが身にしみてきます(模楽宙)

  佳作  ゆく夏や目高を川に放しやる   ありま茜
ひと夏、いとしんで育てた小さな生物を故郷の川に還す。上五に惜別の思いが秘められている。(感想)(粒石)

  佳作  新涼や蔵書処分に逡巡す       雅田如
斯く言う愚生も手当り次第に買い求めた本の整理、処分には些か困惑気味だ。しかし、どの本一つとってみても手放すには忍びない。逡巡している詠者の心情が手にとるようだ。(感想)(粒石)

  佳作  七日目の生をさかんに夜の蝉   変竹
人生最終章ころり往生といきたいものです(雅田如)

  佳作  お点前のそつのなきかな秋涼し   模楽宙
感性がおもしろい。中七を「そつなきしぐさ」もいいのでは(雅田如)

  佳作  朝顔が作り出したる今朝の彩       粒石
早朝の清々しい元気を感じます(雅田如)

  佳作  灼熱のナイフのような夏光り   変竹
本当に今年の夏は歳のせいかきつかった(雅田如)

  佳作 新涼やダンスダンスとプラタナス   変竹
とてもリズムがいいので採ってしまいました
難解句のようですが素直に感じればいいのでしょうか(雅田如)


8月の佳句秀句 (ありま茜)
            
佳作  参道の白く渇ける解夏の寺         雅田如
解夏(げげ)というのは僧の修行(解安居=げあんご)が終わること、またその最終日という意味らしい。どんな情景かよくわからないが、人影のない境内が夏の日に乾ききっている雰囲気はわるくない。

佳作  新涼の切り子の筋に欠け一つ   模楽宙
切り子は彫られた沢山の筋で模様を描くのが特徴だが、筋に欠けが一つあったという情景はあまり明確に見えてこない。だが切り子の質感が新涼にふさわしいのは確かだ。「新涼や」とキレを入れるべき。

佳作  万緑や疲れを知らぬ子等の声       粒石
万緑の中に元気な子どもの声を聞く感覚はわるくない。しかし、だからどうだという深みが足りない。評者は放射能汚染で野に遊ぶ子等の姿が見えないという意味の句「六月の野に肩組める子ら見えず 茜」と作った。

佳作  ひぐらしや栞を挟む治虫伝       雅田如  
手塚治虫の伝記を読んでいたのか、ひぐらしが聞えてきたので、本に栞を挟んで耳を傾けた。心地よい緑陰の情景が目に浮かぶ。

佳作  七日目の生をさかんに夜の蝉    変竹
夜でも休むことなく七日の命を鳴き通す蝉。それが蝉の特性で、本句は蝉の寿命の説明から一歩も出ていない。強いて言えば我々の命があと7日といわれたらどうするか、パニくって泣くこともできないだろうな、などと思わせた部分だけで取った。表面の受け取りに終わらず、更に突き抜けた自分だけの感じを詠むこと。

秀作  朝顔が作り出したる今朝の彩       粒石
今朝の庭の景色がどこか違うと思ったら、一輪の朝顔が咲いていた。その色彩の鮮やかなこと!たかがその程度のことが、その日一日の爽やかな暮らしと心の平穏を支えてくれるのなら、こんな幸せはないだろう。この世に二つと無い朝顔の色の発見だ。

秀作  新涼や蔵書処分に逡巡す      雅田如
書物というのは読まなくても、傍に積んでおくだけでいいのだ、という意見があって随分勇気づけられている。私の部屋は読まない本だらけで寝るところもないくらいだが、今なお読むより溜まるほうが多い。処分ができない優柔不断な性格はまったく困ったものだ。

秀作  しんがりの過ぎ行く暮色阿波をどり   模楽宙
陽がある頃から延々と続く阿呆連、阿波踊りの集団。しんがりが過ぎる頃、街はようやく暮色に包まれる。暮色までが連に連なっているような、踊りのにぎわいを詠んで面白い。新鮮な景の発見が見える句である。

             次回兼題    蟷螂    星月夜
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