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11月投句

       兼題   練炭

練炭も老兵の如く消え征くや       粒石
練炭や駅舎に飛び交う国訛り       塩
練炭の匂いなつかし母健在        雅田如
練炭も昭和と共に遠くなり        粒石
登校の列の乱れし散紅葉         雅田如
靴音の一人となりぬ冬隣         ありま茜             
路地遊び明治は今に一葉忌        模楽宙
余命一年やることを列記もみぢ照る    変竹
小春日に万歩計増え土手の上       塩
傲慢もすべて受け入れ冬蒲公英      雅田如
見返りの柳なびきし一葉忌        模楽宙
今朝の冬カラス睥睨す塔の上       変竹
おでん屋の屋台いつもの時処       ありま茜
忘らるるそれもよきかな冬帽子      ありま茜  
しまい湯に明日の寒さを占へり      粒石
深呼吸五感高まる今朝の冬        塩
練炭のマグマの息を塞ぎけり       模楽宙              
満天に音符の踊る冬北斗         雅田如
落葉いま滞空時間競ひをり        ありま茜             
練炭の孔を数へる無聊かな        粒石
練炭の匂い懐かし昭和かな        塩              
練炭の青き焔や業火もゆ         変竹 
練炭のいつかは宙へ発つ日あらむ     ありま茜  
ファクスの白紙出てくる冬浅し      雅田如
山茶花の散るもまたよし風に乗り     塩
めらめらと石炭ジュラ紀を映しけり    模楽宙      
銀杏散る散華の如く浴びにけり      雅田如」
船頭の棹返すごと落葉掃く        ありま茜   
氷河期の孤独遠くに冬来る        変竹
茫漠のタクラマカンや冬入り日      変竹
絡繰りの吐息が闇に紙衾         模楽宙         
いつか見た夢なのですよ冬の月      変竹
周平を繰り返し読む夜長かな       粒石

                      
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十月披講


       兼題     案山子   虫一切
 
  天   新作の雀騒がし伊達案山子   模楽宙
文句なく共感した一句。「伊達案山子」の造語が効果的だ。稲に害なす雀どもは逃げるどころか案山子の粋な伊達男ぶりに大騒ぎ。実に愉しい句で、今年白銀句会の白眉であろう。ただこのままでは「新作の」が「雀」に掛って文意がヘンだ。中七を「雀騒がす」あるいは「新作で雀騒がす」とすれば伊達案山子が主語になって文意が生きてくる。言葉遣いに注意しないと折角の句が泣きます(ありま茜)

  天   雀寄せ何か企む古案山子   模楽宙         
近ごろの雀は人さまを恐れない ましてや案山子なんぞは テンからバカにしている
あにはからんやスズメ諸君 オトボケの古カカシなかなかの策士ぞ ご用心ご用心(変竹)

  天   かまどうま高きをはたと惑ひけり   模楽宙
一瞬の心理状態を見事に描いたスローモーションの映像を見ているようだ。後肢を使って精一杯飛躍してみたが、思いもよらない高さに困惑しているかまどうま。人生にこういうことってあるよね。さあこの後どうなるか無事着陸できるよう願うばかりだ(雅田如)

  天   勲章は一番星や捨案山子   ありま茜
稲穂も刈り取られ、荒涼とした田に、役目を終えた案山子に一番星の光が降り注いでいる。案山子の功労をねぎらう如くに、一番星を勲章と見立てたところが良いと思いました(模楽宙)

  天   白杖を導く少女秋桜 雅田如
<感想>明るく清らかな心優しい少女の姿が彷彿とする。今を盛りと咲くコスモスが少女の前途を祝福しているかのようだ(粒石)

  地   横たえてなお威をはるや捨案山子     雅田如
ここにもまたひとり 用無しとなって 省みられない案山子が打ち捨てられて在る
それでもなお威を張り厳を保とうと そは恨み節か虚勢か はたまた哀しき怒りか(変竹)

  地    喜びも怒りも淡し秋時雨        粒石
晩秋に降る気ままな時雨には、確かに喜びも怒りも淡くしてしまうところがある。逆に静かな詠みぶりの中に、喜びも怒りもあまり激しくない方がいいと思わせる力強さがあって、繊細な神経を感じさせる一句だ(ありま茜)

  地   サイレンの悲しき国へ鳥渡る   ありま茜
サイレンにも色々ありますが、悲しき国と渡り鳥で戦時中の日本の事と思われます。空襲警報のサイレンの音は、体験した人ならば耳から離れない恐ろしい記憶となり、今でも脳裏を離れないのでは、そのような悲惨な国にも鳥は何も無い如くに毎年やってくる。人間の愚かさとの対比を感じさせられます(模楽宙)

  地   一夏を一途に生きて案山子老ゆ   ありま茜
<感想>己の来し方をこの句に重ねみる時、忸怩たる思いに駆られる。一途になり切ることの尊さ、難しさを改めて思い知らされた(粒石)

  地   自然死と手に書いてみる秋の午後   変竹
ぽっくりと死にたい人が多いそうですが、人間なかなかそうはいかない。俳句にこういう心境を詠うのは考えてもみなかった。どうせ苦しんでもがいて叫びながら生の執着を露わにして死んでゆくだろう俺。なんとも秋の午後がいいね(雅田如)

  人    自然死と手に書いてみる秋の午後   変竹
前回「死」に拘った作者があったが同じ作者か。これは文章的にも瑕疵がない。不幸にも死と向き合わざるを得ない境遇の作者?の心が、穏やかな秋の午後と響き合って静けさを増して行く、そんな雰囲気の好句になっている(ありま茜)

  人   見習の妖精を見た鳳仙花   変竹
俳句は断定だ。メルヘンタッチの当方の好きな句だ(雅田如)

  人   秋深しイスタンブールの少女の眸   変竹
イスタンブールはオスマントルコに滅ぼされる前は、ビザンツ帝国の首都コンスタンティノープルで、ヨーロッパとアジアの接点。少女の眸にもエキゾチックな雰囲気が窺へ、その波乱にとんだ歴史を見る様などこか哀愁感を漂わせている。秋の深まりを感じさせられます(模楽宙)

  人   一夏を一途に生きて案山子老ゆ   ありま茜     
へのへのもへじのおとぼけ案山子 威を張るカカシ 企むかかし 見る目によって
様々にヘンゲする彼 吾もまた一途に生きて来た そして老ゆ 哀しき哉その境涯(変竹)  

  人   ためらいて雨戸閉めかね虫の闇     雅田如
<感想>小川のせせらぎ、木々の葉擦れの音に心が引かれるように虫の声にもなんとなく耳を傾けてしまうことがある。作者がふと耳にした虫の鳴き声に魅せられて、雨戸に手をかけたままの姿が目に浮かぶ。征く秋の寂寞たる風情を暫し味わうのも又乙なものではなかろうか(粒石)

  佳作 1  雨音の止むや忙しき虫しぐれ     塩
      2 鈴虫の音色に深む夜の静寂      塩
       3 横たえてなお威をはるや捨案山子   雅田如
      4 秋深しイスタンブールの少女の眸   変竹 
       5 白杖を導く少女秋桜         雅田如
今回は全般的に好句が多かったと思う。1・2は虫の音が夜の静寂を深めている様子がいい。3は「横たえて」は「身を横たえて」にしないとおかしいが、それでは語呂がわるい。ここは「「横たわり」とし、誰かに横たえられてしばらくのちの意にしたほうが案山子の心情が浮き上がってくる。「横たわりなお威をはるや捨案山子」と比べてみて下さい。4は絵の中の少女か。イスタンブールの必然性がうまく把めないのが難点。5は出来すぎた情景が難点(ありま茜)

  佳作  湯浴みして読書にひたる夜長かな   塩
なんと素直ななんとおおらかななんとうらやましいことか・・・・・。平凡こそ平凡でない(雅田如)  

  佳作  捨案山子派手な衣に風なぶる   塩   
役割を終えて 打ち捨てられた案山子 往時は色鮮やかなシャツに シックな上着
浮名も流した 羽振りも良かった 今は尾羽打ち枯らし 北風に嬲られるばかり(変竹)

  佳作  かまどうま高きをハタと惑ひけり   模楽宙    
竈馬クン翅はない 普段は台所などの暗所に群棲 何かの拍子に日のあたる高みに出た
如何していいか判らない ツツマシク生きた我が身を省みるに そんな経験も また(変竹)

  佳作  さまざまなことあり耳にちちろ虫     粒石
戦争 敗戦 高度成長 経済ショック 大海の波間に 浮きつ沈みつの我が人生
楽しくも哀しくもある 振り返れば静かな流れ コオロギの声は哀しくも 清雅(変竹)  

  佳作  幼き日友のひとりに案山子坊(かかしんぼう)    粒石
子供の頃、案山子は興味津々たるものだった。どのような顔をしているのか覗いてみると、のっぺらぼうで意外な気持ちと共に親近感を持ったものでした。稲穂がそよぐ中を飄々と立っている姿に幼き頃の思いが伝わってきます(模楽宙)

  佳作  虫の闇閉所恐怖の小劇場      雅田如
閉所恐怖症の人にとって、狭い所で身動きのできない状態は苦痛です。まして周囲が暗くてはなおさらの事。虫の闇の中にいるかの様な気持ちになります(模楽宙)

  佳作  横たえてなほ威をはる捨案山子    雅田如
<感想>炎暑に堪え、風雨に晒されること半年余り、役目が終われば用済みとばかり、路傍に置き去りにされてしまう。句の案山子が非情の仕打ちに怒りをあらわにしているように見えるし、はたまた己の一分を固守しているようにも窺える。時代の流れか、人の心がどんどん無機質になっていくのが恐ろしい(粒石)

  佳作  貨車過ぐやまた踏切りの虫の闇   ありま茜
<感想>轟音が過ぎ去って、又もとの静寂に戻る。この繰り返しの中に虫達はここを先途とばかり鳴き続けるさまは健気でもあり又憐れでもある(粒石)

  佳作  勲章は一番星や捨案山子   ありま茜
澄みきった秋の夜空を仰ぐ案山子その胸に星の光が降り注ぐ。まるで神からの贈り物に誇らしく胸を張る案山子がそこにいた。勲章にちょっとひっかかるが・・・・。なにかぐっとくるね老人には(雅田如)
  
  佳作  サイレンの悲しき国へ鳥渡る   ありま茜
奇しくもロシアの大統領が国後に行くとか行かないとか。戦犯が収容された寒冷の地ロシアで望郷の念に駆られて過ごした日々。渡り鳥にその思いを託したことでしょう。ほんとうに悲しき国である(雅田如)

       次回兼題   練炭
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