◎第二十章
(孔子の言葉八)
魯国の哀公が政治のあり方について問うた時の孔子の言葉、
只たんに文王武王のまつりごと見習ったとて道は開けず
その思い生かす人物居ればこそ立派な政治為しうることに
人君の役目も土壌の役目と同じ事、
地の役は樹を育てるにある如く人君の道善政にあり
即ち然るべき環境が整えば、
政治とは賢人を得て行えば善政しくは極めて易し
それ故に、
まつりごと行う為に優れたる人物得るが先ずは第一
賢人を用いる為に人君はおのが身正し修養すべし
修養を為すには道に従って仁の心を基と為すべし
修養の基となる広義の仁の在り方を、仁(狭義)・義・礼との
関連に於いて説く。
仁とは何か(情としての仁)、
その仁は人の意にしてその意味は人に対する道徳のこと
道徳の中ではおのが親族を愛することが大切なこと
義とは何か(知としての義)、
義というは宜の意味にして状況に応じたものの在り方を言う
まつりごとでは、
肉親の情を抑えて賢人を尊重するがさらに大切
礼の発生は、
肉親を親愛するの行為にも親疎によって差別生じる
賢人を尊重するの行為にも才能により区別生じる
この様な差別区別の有り様が礼発生の根拠たるべし
つまり礼とは仁と義とを節度付けるもの。
従って「政は人なり」の主旨をまとめると、
君子たる者はわが身を正しくしよく修養に努むべきなり
おのが身を正し修養励むには先ずよく親に仕えるがよし
肉親を親愛することが先ず大事。
よく親に仕える為に他の人をよく理解することが肝要
賢人を尊重することが更に大事。
他の人をよく理解するその為に天の存在自覚すること
人を支配する天帝を自覚してこそ
人のことがよく理解できる。
結局の処、
修身の極意は「天を知る」にありしかして政は賢人が為す
天命を知ることによって、賢人を
得てこそまつりごとを為しうる。
世に達道と達徳あり、
世の中に広く通ずる道五つその実践に三つの手段
五達道(五倫) 君臣間の義、父子間の親
夫婦間の別、兄弟間の序
朋友間の信
三達徳(三徳) 知、仁、勇
実践のための基本は只一つ真心にありすなわち誠
この五倫習得の法種々あれどその認識に違いはあらず
生まれながらにしてこれを知る者→生知
学んだ後これを知る者 →学知
苦しみ抜いてこれを知る者 →困知
三徳の行い方は種々あれどその成果には違いはあらず
苦もなく行いうる者 →安行
意識して行いうる者 →利行
努力して行いうる者 →勉行
すなわち、 聖人(例えば舜王) →生知安行
仁人(例えば顔淵) →学知利行
勇士(例えば子路) →困知勉行
さらに孔子は修身の在り方について説く、
勉学を好む行為は知の徳を備えし者の行為に近し
実践に励む行為は仁の徳備えし者の行為に近し
おのが身を恥じる行為は勇の徳備えし者の行為に近し
この事を弁えたならおのが身を修める法は既に明らか
修身の法知り得れば世の人を修める法は既に明らか
世の人を治める法を知り得れば治国の道は既に明らか
三徳を修めることが修身であり、それが治人・治天下国家の
基となる。
次いで君主が天下国家を治める九つの方策について触れる。
世の中を治める策に九つの原則つまり九経がある
第一は國を治める基となる君主自身が身修めること
この様に策講ずれば万人の模範たるべき道が確立
修身の経
第二には師友たるべき賢の者尊重をして重用のこと
この様に策講ずれば物事の道理違える事なかるべし
尊賢の経
第三におのが親族敬愛し家を宜しく斉えること
この様に策講ずれば親族も怨みの心持つ筈がなし
親親の経
第四には臣下を統べる大臣をうやまい敬し礼尽くすこと
この様に策講ずれば大臣も事に臨んで迷うことなし
敬大臣の経
第五には実務に励む群臣をその身になって思いやること
この様に策講ずれば群臣も報恩のため職励むべし
体群臣の経
第六に國の基たる人民を我が子の如く慈しむこと
この様に策講ずれば万民は君主の為によく務べし
子庶民の経
第七に匠の者を招致して富国の為に当たらせること
この様に策講ずれば財物や日常の品満ち足りるべし
來百工の経
第八に外来者には恩恵を与えて心和らげること
この様に策講ずれば遠国の人々達も慕い寄るべし
柔遠人の経
第九には和平の為に諸侯等を味方に付けて慕わせること
この様に策講ずれば万民が威光になびき服従すべし
懐諸侯の経
その実践の法は、
身を清め礼服着し何事も礼を守って行動すべし
修身の法
讒言を退け女色遠ざけて財より徳を尊重すべし
尊賢の法
肉親の地位俸禄をよく守りその心情を分かち合うべし
親親の法
大臣に多くの臣を配置してその任用も自由にすべし
かくすれば小事は部下に行わせ大計のみに専念しうる
敬大臣の法
臣下には誠をもって対応し多禄を計り士気鼓舞すべし
体群臣の法
公役は忙月を避け節税しその取り立てを少なくすべし
子庶民の法
匠にはその仕事ぶり観察し労に応じた手当出すべし
來百工の法
往来の送迎設備完備して旅中の不安なからしむべし
柔遠人の法一
外来者善なる者は褒め称え劣なる者も同情すべし
柔遠人の法二
代絶えし國には世継ぎ立ててやり滅びし国はまた興すべし
懐諸侯の法一
乱国は治まるように策講じ危うき国は立ち直すべし
懐諸侯の法二
諸侯らの謁見の儀や大夫らの來聘の儀は時守るべし
懐諸侯の法三
朝廷の賜り物は手厚くし貢ぎ物には素を求むべし
懐諸侯の法四
九経の更なる具体的実践策は、
世の中を治める策に九つの原則つまり九経がある
さりながらその実践の方策は只一つだけすなわち「誠」
物事は事前の準備大切でそを為さざれば実現不能
たとえば、
発言もよく思考して十分な準備を為せば失敗はなし
事業でもよく思考して十分な準備を為せば失敗はなし
行動もよく思考して十分な準備を為せば失敗はなし
行徳もよく思考して十分な準備を為せば失敗はなし
九経実践の前提は、「誠」に尽きる。
次ぎに政治の実務に携わる者(一般官吏)の心得が述べられる。
上位者の信任得られざる者は民を治める事はかなわず
その為には、
上位者の信を得るため為すべきは友の信用得るが肝要
その為には、
朋友の信を得るため為すべきは親に順なることが肝要
その為には、
昼も夜も反省をしておのが身を誠実にする事が肝要
その為には、
物事の善悪をよく区別して認識をする事が肝要
自分自身が誠実であって始めて朋友の信・親への孝心・誠実の
心・善悪の認識を得る事が出来る。
ここで、本格的に「誠」について言及される。
誠とは天道にして生まれつき人に備わる窮極の道
その誠「至誠」の域に努力して到達させるそれが人道
努力せず思慮せず道を知得して「至誠」にいたるそれが聖人
努力して誠の道を探求し固守する人が誠実の人
「至誠」実現の為には、
何事も広く学んで識深め誠の道を実現すべし
何事も事細やかに問いただし誠の道を実現すべし
何事も用心深く考えて誠の道を実現すべし
何事もよく分析しその公私是非真偽など弁別すべし
何事も先ず手落ちなく十分に心を込めて実行すべし
その上で、
学ばざる対象あれば最後まで学び尽くして止めるべからず
質さざる対象あればよく質し理解するまで止めるべからず
思惟せざる対象あれば思索して真理得るまで止めるべからず
弁ぜざる対象あれば弁別し見通すまでは止めるべからず
実施せぬ対象あれば実行し行き渡るまで止めるべからず
他の人の努力以上に努力して全ての事に徹底すべし
この様に誠の道を仕遂げればたとえ愚者でも賢者とならん
さらにまた誠の道を仕遂げれば意志弱くとも強者とならん
「中庸」を詠み解くⅣにつづく