しろくま日記

読んだ本の感想を記録してみたいと思います。
なんだか忘れてしまうので。

母なる地球 アシモフ初期作品集3 アイザック・アシモフ著 冬川 亘訳 ハヤカワ文庫

2012-12-22 | 海外SF
アシモフ初期作品集の三冊目です。この巻で完結です。


2を読み出した辺りでブックオフを覗いたらちょうど見つけたため購入、400円。
1943年-1948年執筆の他作品集未収録の作品7編を収録しています。
執筆年代でいうと1,2よりかなり長い期間になっています。

このころは作品の質が安定してきて他の作品集に既収載作品が多くなってきていることもありますが、2の末尾収録の「時猫」がちょうど真珠湾攻撃の日脱稿。
第二次大戦の影響も出てきてアシモフも海軍関係の機関に就職したり、結婚も重なりいろいろ大変な時期だったようです。
14ケ月間タイプライターに向かわなかったりした時期もあったようです。
軍の機関はハインラインに誘われて入ったようですが、徴兵逃れ的な意味合いもあったようで罪の意識にもさいなまれていたようです。
そんな中執筆を再開して書かれた作品が、

「著者よ!著者よ!」1943年執筆
キャンベルに郵送で送ったこの作品はアシモフが熱望していたファンタジー専門誌アンノウンへの採用が決まります。
ただアンノウンがちょうどその頃に廃刊となり結局掲載されなかったようですが...。
「この作品が没になったらしばらく原稿を書く気がおきなかっただろう」といっており、没だったら後のアシモフ作品は生まれなかったかもしれませんね。
内容は、ミステリー作家が書いた小説から名探偵が出てきて大暴れというものですが....。
正直感心できない出来というか安直かなぁ。

「死刑宣告」1943年執筆
銀河連盟が古代に栄えた文明のある実験の痕跡を発見し、その実験の行われている惑星に置きざりにしていた生物的ロボットをめぐる考察、その惑星は実は...。
これも出来は今ひとつかなぁ、なんだか詰めが甘いような。

しかしこの後1943年代後半から45年にかけては陽電子ロボットシリーズとファウンデーションシリーズでは「巨人と小人」=「貿易商人」から「ザ.ミュール」までとのちの代表作となる名作がどんどん生まれていきます。
どういった変化があったのでしょうか?

この間ファウンデーションシリーズと陽電子ロボットもの以外の作品は1作しか書いていないそうですがそれが、
「袋小路」1944年執筆
絶滅に瀕したある惑星の非地球知的生命体を、銀河帝国の行政官が官僚的方法で処理していく。というお話。
執筆再開後の2作と比べると雲泥の差の出来。
アシモフらしい(後の?)緻密な構成と軽妙なストーリー、なんとも考えさせるラストと非常にまとまっています。
多くの部分を占める通信文は当時勤めていた海軍の機関NAESで日常的に発信受信されていたもののようです。職業経験がアシモフを一皮むいたのでしょうか?

この作品を書いた頃からアシモフも徴兵されそうな気配が出てきて、1945年9月2日、日本が正式に降伏し第二次大戦は終わりますが、9月7日アシモフに入隊通知がきて11月に兵役につきます。
入隊中には1編1946年3月に「われはロボット」に収録される「証拠」を仕上げており、その頃は原爆実験のためビキニに行かされそうになったりもしていますが、1946年7月「研究除隊」となっています、時代ですね。
除隊後大学に戻ったアシモフは、ファウンデーションシリーズを書いていますが、2年ぶりにファウンデーションでも陽電子ロボットものでもない本書収載の

「関連なし」1947年執筆
を書きました。
内容は、遠い未来のアメリカで熊から進化した知的生命体が進化していて、東ではチンパンジーから進化した知的生命体が栄えており、古代の人骨・測定結果が語るものは?
というもの。
原子力もの、時代ですねぇ。
もっと膨らませれば面白いテーマなんでしょうが、結論ありきで書き足りない感じがあります。

「再昇華チオモリンの吸時性」1947年執筆
博士号取得に向けて奮闘を重ねていたアシモフが論文形式でトンデモ物質を書いたもの。
私の化学の素養ではよくわらず、通読できませんでした....。
化学界では評判になったようです。

「赤の女王のレース」1948年
アシモフ「博士」の第一作。
就職活動がなかなかうまくいかない中書き上げた作品。
この間に「宇宙の小石」の原型となった作品が没にされていたりしているようです。
内容は、原子力発電所でプルトニウムが消え去り、現場では老科学者が死んでいた。
残されたものは古代ギリシャ語に訳された化学の教科書...。
まぁSFなれした人ならこの後の展開は読めると思います。
手慣れた感じでまとまっている作品だと思います。

「母なる地球」1948年
内容、地球から移民していった惑星たちは、多くの人口を抱える地球からの移民を制限していた、それに対する地球の反撃は...。
アシモフ本人も書いていますが、「鋼鉄都市」につながる作品です。
このころから「ファウンデーションと地球」まで続く「”人類”の望ましい形態とは?」を考えていたんですね。
そういう意味でアシモフ色の強い作品ですね。

この後1949年アシモフはファウンデーションシリーズ第一部の最後「-しかもわかっていなくもある」を書き上げ、ボストン大学に就職が決まったりでキャンベルとのつきあいは疎遠になっていきます。
(解説によると疎遠になったいきさつはいろいろあったらしいです)
その後SF小説市場は雑誌から本に移り変わりし、アシモフの作家としての収入が増えていき学者業から作家業が本業になり、SFの「巨匠」としての地位を不動のものとしていきます。

このアシモフ初期作品集末尾あたりのアシモフの言葉。
「だが、しかし私は1949年以降、あの最初の十一年にわたる“キャンベル時代”のような真の興奮が欠けているということを認めざるをえません。あのころにはわたしはなんとか時間をやりくりして暇を盗んでは書き、すべての原稿持ちこみがたえがたいサスペンスですべての没が悲嘆のタネであり、すべての採用がエクスタシーで、すべての五十ドルの小切手がクロイソスの財宝でした」
その後キャンベルんが1971年に没したことが告げられます。
この作品集はそれぞれの作品がメインでなく、アシモフの述懐部分をメインとした青春時代とキャンベルへのオマージュもしくは一人の作家の成長を描いた私小説だということが最後になってわかりました。
各作品を細々賢しら気に解説してきた自分が恥ずかしくなりました。
そうでもなければ初期のレベルの低い作品をあえて公開しないですよね。

各巻冒頭の「ジョン・ウッド・キャンベル・ジュニア(1910~1971)を記念して。その理由は本書がたっぷりと明らかにすることだろう。」に手がかりがあったのに...。

巻末の、作品リスト「アシモフ初期作品一覧-キャンベル時代における六十の物語」も作品の一部といっていいかと思います。

なんだかあまりの巧みさに打ちのめされた気分になりました。

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