しろくま日記

読んだ本の感想を記録してみたいと思います。
なんだか忘れてしまうので。

エベレストを越えて 植村 直己著 文春文庫

2012-10-09 | ノンフィクション
会社に入って3~4年位の頃(1995~97年頃)登山に凝っていた時期がありました。
その頃山関係の本をいろいろ読んでいましたが、その中に植村氏著の「青春を山に賭けて」があり、一読後植村氏のファンになりました。

その頃25,6歳であつた自分と本の中で同年代の若い植村氏がすごい冒険をしている、なんだか圧倒されました。
若者らしいけれん味や、何かを成し遂げる人特有のギラギラ感も感じましたが、どこか冷めていて、覚悟が決まっている感じで淡々と綴られる文章にもしびれました....。
文章から見える「素直」な人柄が伝わって多くの人に好かれたのかと思います。

文春文庫から植村氏の著作はその他にも出てるようでしたが、ちょうどその当時「青春を山に賭けて」以外は絶版やらなにやらで入手困難な状況でした。

ネットで古本が入手しやすくなった21世紀になって、思い立って文春文庫の植村氏作品をなんとか全部入手できましたが、悪い癖で集めて手元に置くと安心して読まない...。
今まで読まないでいました。

ちなみに今amazonで調べてみたら、出版状況は
青春を山に賭けて 出版中
極北に駆ける 出版中(手持ちのものとカバーは違う)
北極圏一万二千キロ 絶版
北極点グリーンランド単独行 絶版
エベレストを越えて 出版中  
という状況でした。

今回手に取ったのは出版順では一番最後のようですが、「青春を山に賭けて」から直接繋がる1970年の日本エベレスト登山隊の模様が収録されている「エベレストを越えて」です。


「エベレストを越えて」は氏が1982年に南極横断に旅立つ前、過去10年間のエベレストとの関りをまとめたもの。

日本人として初めて登頂に成功した日本エベレスト登山隊の様子が第一次偵察隊から登頂成功まで描かれ、この本の2/3を占めています。
残り1/3で、1971年の国際隊でのエベレスト挑戦失敗、1980年植村氏が隊長になっての冬季登山隊の失敗が描かれております。

第一次偵察隊から始まる日本エベレスト登山隊では、氏お得意の地元密着での生活場面などで、1970年頃のネパール、シェルパ族の様子が描かれています。(今はだいぶん変わっているんでしょうが)
当時のシェルパ族の暮らしについて「過酷な環境の中で基本的に食べるために働く生活をして、ごくたまに「楽しむ」生活が人間本来の暮らしだなぁ」と書いていますが、その後「カトマンズのレストランの食事に馴れた口には、うまいと思っていた現地食が口に合わず大変」というような描写もあります。
相反するようですが、植村氏が誠実かつ素直に文章を書くとこんな風になるんだろうなぁと感じました。

登山の場面も、本当に登った人ならではのリアルな描写、素直な自分及び周辺描写もとても興味深いものがあります。

登山中、植村氏は「エベレストを登れば自分は冒険家として世に出られるのでなんとしてでも登頂したい!」という野心や「そんなことを思う俺は駄目な人間だ」などというような描写に植村氏の正直さと自分を見つめるクールな目線を感じます。
(さらに多分上のようなことを世に出すための文章に書く自分自身も苦々しく観ていたんだろうなーとも感じました)

人が死んだり、場所的にも極限の状況の中、自分や周りをよく観察してクールな目線で書いています。

やっぱり私は植村氏の「ファン」だと再認識しました。

国際隊、冬季登山隊失敗も植村氏らしいクールな文章で書かれています。

最後の冬季登山隊失敗の記述は、その後の南極横断断念、マッキンリーでの遭難に繋がっていくかと思うとなんだか感慨深かったです。
隊員の竹中氏の死の場面は、自分自身が直面した死ということで文章にも心の乱れを感じました。
この辺から、1984年のマッキンリー遭難まで繋がってくんでしょうか...。
壮絶な人生です。

植村隊のエベレスト登頂失敗、遭難時に私は中学生でした。
ニュースがTVで報道されていたのをうっすら覚えていますが、この時点で氏の人となりを殆ど知らなかったため同時代での感慨は特にありませんでした。
なんだか残念なような気がします。

解説を山仲間の土肥氏が書かれていますが、その中で紹介されているエピソードなど著者の人柄が垣間見えなんだかジーンと来ました。

日本人の感性にひびく人なんでしょうね。
いい本だと思いました。


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