どうぶつのこころ

動物の心について。サルとか類人猿とかにかたよる。個人的にフサオマキザルびいき。

チンパンジーは他者の利益に無関心

2006-03-19 14:57:10 | 社会的知性
A9 Jensen, K., Hare, B., & Call, J., & Tomasello, M. (2006).
What's in it for me? Self-regard precludes altruism and spite in chimpanzees.
Proceedings of the Royal Society of London Series B: Biological Scieces, online, doi: 10.1098/rspb.2005.3417. [link]

そこには自分のために何があるのか。チンパンジーにおいて、自己への関心が利他と嫌がらせとを阻害する
公平への感受性は、個体が相互に利益のある利己的な利他的な、あるいは嫌がらせの活動に携わることを選択するかどうかに影響するだろう。一連の3つの実験で、チンパンジー(Pan troglodytes)は〔2本のうち1本の〕ロープを引いて届かないところにある食物を手に入れることができた。そうすることに伴って、別の〔引かなかったほうのロープにつながれた〕食物は遠ざかることになった。第1の実験で彼ら〔チンパンジー〕は、自分自身のみが利益を受けるか(利己)、自分自身ともう1個体いるチンパンジーとの両方が利益を受けるか(相互)の選択をすることができた。次の2つの実験では彼ら〔チンパンジー〕は、もう1個体いるチンパンジーのみが食物をもらうか(利他)、そのもう1個体いるチンパンジーが利益を受けるのを妨害して両者ともに食物をもらえないか(嫌がらせ)のあいだで選択することができた。すべての研究を通じてのおもな結果は、チンパンジーが個人的な利益のみにもとづいて選択をおこなっていて、同種個体に及ぶ結果には関心をもたないということだった。これらの結果は、ヒトの協力行動の起源についての疑問を呈する。
キーワード:行動生物学(bihavioural biology)、進化心理学(evolutionary psychology)、ゲーム理論(game theory)、不衡平(inequity)、チンパンジー種(Pan troglodytes)。
キース・ジェンセン(Keith Jensen)、ブライアン・ヘア(Brian Hare)、ジョゼプ・コール(Josep Call)、マイケル・トマセロ(Michael Tomasello)によるチンパンジー社会的知性の研究。前回に紹介した研究と同じく、マクス・プランク進化人類学研究所発達および比較心理学分野のチームによる。

全体を通じた実験方法としては次のとおり。2つの選択肢を与えられるわけだが、どちらの選択肢を選んでも自分自身は食物をもらえる。あるいはどちらの選択肢を選んでも自分自身は食物をもらえない。では選択肢間でどう違うのかというと、もう1個体チンパンジーが別にいて、その個体が利益をもらうかどうかである。下図を参照。
中央にいるのが著者らが行動を見ようとしている個体。左にいるのが中央の個体の行動によって食物がもらえたりもらえなかったりする個体。ここで「到達可能」「到達不可能」は受益者にとって可能か不可能かという意味である。ロープを引いたほうの食物は近づくが、すると他方の食物は遠ざかる。このような装置を用いて、受益者が受益者部屋にいるとき統制部屋にいるときとで行為者(研究ターゲット)の行動が変わるかどうかを見る。もちろん、統制部屋にいる受益者は、行為者が何をしても食物をもらえない。

ウィリアム・ドナルド・ハミルトン(William Donald Hamilton)にしたがって([link])、利得行列(payoff matrix)を示している。相互(mutualism)、利己(selfishness)、利他(altruism)、嫌がらせ(spite)の分類に注意。
受益者
利益(+)損失(-)
行為者利益(+)相互(+、+)利己(+、-)
損失(-)利他(-、+)嫌がらせ(-、-)

実験の具体的な流れは、次の表のとおり。バナナ入ったカップの番号は上図を参照。
バナナの
カップ
行為者の行為
到達可能テーブル
引く頻度が高い
到達不可能テーブル
引く頻度が高い
何もしない
実験1すべてふたりともに利益
相互
行為者だけに利益
利己
実験2(1)(4)のみ受益者だけに利益
利他
誰にも利益はない
嫌がらせ
誰にも利益はない
嫌がらせ
実験315秒後に受益者のみに利益
利他
実験3で行為者が何もしないと、しばらく後に受益者のみに利益が渡される(実験者が装置を操作して、到達可能テーブルを部屋に向かって動かす)。

実験1では、到達可能テーブルを引く割合が大きかった。しかし、受益者が受益者部屋にいても統制部屋にいても到達可能テーブルを引くというのは変わらなかったので、それは受益者の利益を考えてのことではなかったのだろう。

実験23では、何もしない割合が大きかった。なお、これは受益者がどちらの部屋にいても同じだった。

全体として、行為者は自分への関心にもとづいて選択していて、他者の利益への関心は見られなかった。

同じようにチンパンジーが他者に関心をもたないという研究は、ジョウン・B・シルクらによってもおこなわれている([link])。

しかし、前回紹介したとおり、チンパンジーの子どもは自分に利益がないにもかかわらず他者を手助けすることがある。

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