My Deadlock Essay

ここでは普段僕の頭の中をぐるぐると回っている、いわば
どうでもいいことを書き綴っております。

風の日のラピュタ

2010年10月05日 | 思い出
小学4年か5年の頃だったと思う。同じクラスのU君から、突然の誘いを受けた。
「これ、観に行かない?」
と、なんとなく恥ずかしそうに差し出されたチケットには、「天空の城ラピュタ」と書いてある。
といっても映画館のチケットではなく、公共の会館での子供上映会的なものだ。
”ラピュタ”?
…知らない。「風の谷のナウシカ」と同じ作者らしいが、全然興味もそそられない。
うちの小学校ではなぜか給食の時間にナウシカが何度も教室のテレビから流されていて、中には夢中になって観てる人もいたが、自分はあのなんとなく重苦しい雰囲気に馴染めず、しかもでっかいイモムシみたいなのがたくさん出てきたりして食事の時間にはふさわしくないなとか、絶対ドラえもんとかジャッキー・チェンの方がおもしろいに決まってるとか思っていたので、ろくに見てなかったのである。
しかも自分は、クラスの中でもちょっと粗暴な感じのこのU君のことがあまり好きじゃなく、そもそもそんなに仲が良かったわけでもなく、もちろん二人で遊んだことなんて一度もなかったから、なんで自分を誘うのかもさっぱりわからなかった。
そういった意味でも、この誘いは全く魅力的ではなかったのだが…

でも行くことにした。

はっきり言って、”粗暴なU君”と”天空の城ラピュタ”…全然マッチしない。そんなU君が「ラピュタ」観たいって、かなり意外である。そして多分U君にとっても、とても恥ずかしいことなんだろう。
でもU君的には → どうしても観たい→かといって行ったことのない場所だし一人では不安だ→でも誰かに言うのは恥ずかしい→でも待てよ?こいつなら言っても恥ずかしくないかな…?ということで、わたくしに白羽の矢が立ったんじゃないかと、そう思えたのである。
自分は、なんかU君が自ら弱点を見せてくれたようなその感じが嬉しくて、あまり好きじゃないU君と二人で出掛けるのは気が進まないまでも、なんとなくOKしてしまったのである。


さて、当日。日曜の昼。家にU君が来て、二人で自転車で出発。場所はナントカ教育会館。二人とも行ったことのない町。どうやら自転車で行くにはけっこう遠いようだが…
そう、まだ見たことのある景色を走っているうちはよかった。段々進むにつれ、二人とも不安になって行く。それでも相談しながら道を選んで行く。この日のU君は、いつもの粗暴な感じではなくちょっと優しい。まるで映画のジャイアンだ。そういえばU君、ジャイアンに似てなくもない。
しかもこの日は走ってる自転車が倒れそうになるほどの強風。風が強過ぎてなかなか前にも進めない。何度も倒れそうになりながらも、必死に自転車をこぐ僕とU君。でもなかなか目的地に着かない。上映の時間が刻一刻と迫る。でも教育会館は一向に姿を現さない。上映時間まであと10分…
迷った…
万事休すである。もう映画が始まろうとしているのに、僕とU君は自分たちが今どこにいるかさえ分からない。
でもU君は諦めない。一か八かの賭けで来た道を戻り、分岐路をさっき行った方向と別の方向へと進む。風が強い。こいでもこいでもうまく前に進めず、もう体力も限界に近い。しかも上映時間まであと5分を切った……というところで、なんと目の前に目的地の教育会館が!
大喜びで自転車をこぐ二人。開演時間直前になんとか到着。
「間に合った…」
息を切らしながら二人でシートに座り、一安心。
そしてラピュタが始まる…


それにしても全然期待してなかった「天空の城ラピュタ」…かわいい女の子がいきなり空から降ってきて、その子を守りながらの冒険活劇…なんてロマンチック!毎日妄想してたサトウ少年の趣味にぴったりである。こんなおもしろい映画をスルーしてたなんて…誘ってくれたU君に感謝である。もうドラえもんは卒業かな。
なんて思いながら、大興奮のうちに上映終了。U君も満足そうだ。
帰りはさすがに迷わずにすんなり。風もさっきほど強くなく、穏やかだ。U君の表情も非常に穏やかだ。こんなU君見たことない。何度も言うが、普段はジャイアンのように粗暴な奴なので…
そして「今日はありがとう」と笑顔で言い残し、穏やかに家に帰って行くU君。今日一日でU君との距離は確実に縮まったような気がする。なんだ、そんなに悪い奴じゃないじゃん…
でもU君とラピュタは、やっぱりマッチしないけどね。
そしてこの日はなんだかすごく気分がよく、その後僕は隣のお菓子屋さんでアイスを買ったのでした。


終わり