雪月花 季節を感じて

2005年~2019年
2019年~Instagramへ移行しました 

雨過天青

2006年08月05日 | うす匂い ‥水彩画
 
 梅雨明け後の東京地方は、朝晩はまだ涼しくしのぎやすい日がつづいています。昨日、桜の木蔭を歩いていましたら、どの樹の幹にも樹液がたっぷりとついているのを見て驚きました。この琥珀色に光る液をもとめてたくさんの蝉が集まってくるのでしょうか。わたしは不思議に気持ちになって木下闇に立ち止まり、しばらく蝉時雨につつまれていました。空は、雲ひとつない快晴。

 こんな日は、清々しい空色のお茶碗で冷茶をいただきます。銘は「雨過天青(うかてんせい)」。雨上がりのみずみずしい空の色、です。
 粉青茶碗で、土見(つちみ。茶碗の高台まわりなど釉薬がかかっていない素地土の露出しているところのこと)はまるで雪解けの景色を見るようにやわらかな印象です。もともと向付(むこうづけ)として作られたものだそうで、高台(茶碗の足の部分)は低くなっています。素地は非常にうすく作られており、口造り(くちつくり。うつわの口の部分)や土見、高台まわりは、こころして扱わないと欠けてしまいそうです。


 茶碗の由来です。
 京都におすすめの町家づくりの宿があります。「さろんはらぐち 天青庵(てんせいあん)」(※)。ほんとうは誰にも教えたくない隠れ家のような宿です。こちらのご主人は、日本に数人しかいない中国・南宋時代(1127~1279年)の官窯青磁(かんようせいじ)を作る陶芸家です。官窯とは、中国の宮廷で用いる陶磁器を製造した政府の陶窯のこと。とくに南宋の時代に、すぐれた青磁の作品がたくさん作られたそうです。
 ご主人から、官窯青磁は「雨過天青(うかてんせい)」の色とうかがいました。あるとき、南宋の皇帝が「雨上がりの空の色を」と陶工たちに作らせたのが始まりだそうです。大陸の国らしく、構想が壮大ですね。
 随筆集『雨過天青』の著者・陳舜臣(ちん しゅんしん、1924年~。作家)は、青という色を「青年とか青春とか、生命力に満ちたものに用いられる。わたしたちがさまざまな青を愛し、青磁の色に自分たちの理想を託そうとするのは、生命を愛するからにちがいない」と書いています。(紀伊國屋書店BookWebより)


 わたしは梅雨明けが近くなるとこの茶碗を取り出して、夏空の輝きを待ちどおしく思いながら一服のお茶を味わい、虫の音が聞かれるころまで楽しみます。唐物の茶碗を、こうしてふだん使いにするのは贅沢なことかもしれません。

 「天青庵」のご主人と奥さまにはお世話になりました。毎朝いただく奥さまの手料理が美味しいのです。みなさまも少人数で京都にお出かけの際は、ぜひご利用くださいね。


※ 「さろんはらぐち 天青庵
  東山のふもと、祇園円山公園のいちばん奥にあります。知恩院大鐘楼のすぐそば。

 
コメント (9)