雪月花 季節を感じて

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『美人の日本語』

2005年09月23日 | 本の森
 著者の山下景子さんが「作詞の勉強をしていたころに、使ってみたい言葉、心に残った言葉を書き留めた」ノートから、一年365日分の美しい日本語を集め、わたしたちに届けてくれました。(幻冬舎 刊) 「一日一語、口にするだけで綺麗になる」言葉たちの数々に、きっとあなたも魅せられてしまいます。

 すこしだけ、あなたの日本語美人度?をチェック。
 (答えはこの下の記事欄へ)

 ① 読めますか? 満天星、一入、直向き、塩梅、手弱女、玉響、雪洞
 ② 漢字で書けますか? せつな、わだつみ、わくらば、あだはな、しののめ
 ③ どんな意味? ひねもす、みおつくし、忘れ水、心の秋、三寒四温
 ④ 季節はいつ? 竹の春、風花、花野、薫風、夜の秋、山笑う、山粧う
 ⑤ 「おはぎ」と「ぼたもち」、「おぜんざい」と「おしるこ」は同じ?
 
 ‥いかがでしたか?
 昔のひとは、言葉には不思議な力や呪力が宿っていて、口にした言葉がそのまま現実になると信じ、ひとつひとつの言葉をとても大切に扱ってきました。言霊(ことだま)‥そんな考え方から、日本人の美意識や感性が育まれ、磨かれてきたのでしょう。千数百年の風雪にも耐えてきた言葉、時代の流れとともに変遷していった言葉、記憶から消えてゆきそうな言葉、みんなで味わいたい言葉‥、この国には季節感あふれる美しい言の葉が豊かに実っています。

 「日本語はきれいですね。これが、今、少しづつ壊れていくのがとても悲しいです。 ‥娘たちに、自分のために買った『美人の日本語』を贈りました」‥こんなすてきなコメントをいただいたころ、わたしはこの本を読んでいました。なんてすてきな贈りものでしょう。お母さまのお気持ちは、子へ孫へと継がれてゆくことでしょう。


 本書のわたしの誕生日に記されている言葉は「鬼灯(ほおずき)」。この日は観音さまの功徳日(くどくび)にあたり、それにあわせてほおずき市がたつようになったのだとか。なんだかとっても大きなご利益がありそう♪ この本を手にしたら、まずはあなたの生まれた日の言葉を見つけてくださいね。


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日本語美人度?チェックの答え

2005年09月23日 | 本の森
 下記はすぐ上の記事の日本語美人度?チェックの答えです。参考になさってくださいね。‥わたしは満点かって? とんでもない(笑 『美人の日本語』にはこれまで知らなかった言の葉が少なくありませんでした。

① 満天星(どうだんつつじ)、一入(ひとしお)、直向き(ひたむき、反意語は「諸向き」)、
  塩梅(あんばい)、手弱女(たおやめ、反意語は「益荒男(ますらお)」)、
  玉響(たまゆら)、雪洞(ぼんぼり、せっとう)

② せつな(刹那)、わだつみ(海神)、わくらば(病葉)、あだはな(徒花)、しののめ(東雲)

③ 
・ひねもす=終日、一日中ずっと。
・みおつくし=澪に杭を並べて立て、船が往来するときの目印にするもの。和歌では「身を尽くし」にかけて用いることが多い。
・忘れ水=川や瀬といえないほどの、ささやかな細い水の流れ。
・心の秋=「秋」に「飽き」をかけて、心変わりしたこと。
・三寒四温=晩秋から初春にかけて、三日間くらい寒い日が続いたのちに四日間くらい暖かい日が続き、これを繰り返すこと。

④ 竹の春(秋)、風花(冬)、花野(秋)、薫風(初夏)、夜の秋(晩夏)、
  山笑う(春)、山粧う(秋)

⑤ 基本は同じもののようです。萩のころいただくのが「おはぎ」、春は牡丹餅で「ぼたもち」です。花の大きさに合わせておはぎは小さめに、ぼたもちは大きめに作るのだとか。「おぜんざい」はお汁粉の一種で、関西ではつぶしあんの汁粉、関東では餅に濃いあんをかけたもの‥ と辞書にあります。わたしは「おぜんざい」はつぶあんで「おしるこ」はこしあんだと思っていました。
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月づくし

2005年09月18日 | 季節を感じて ‥一期一会
 今宵は十五夜。日本中の風流人みな「ここにもひとり‥」と月の客となることでしょう。宵の口の東の空にのぼる月を見つけたら、「今宵は月づくし‥」と洒落こみましょう。

 月ごとに 見る月なれど この月の 今宵の月に 似る月ぞなし
 (村上天皇)
 ─「八月十五夜の月にまさるものはないな。では、杯(つき)に映して一献」

 月月に 月見る月は 多けれど 月見る月は この月の月
 (大内の女房)
 ─「そうね、月を見るなら八月の月にかぎるわ」

 あかあかや あかあかあかや あかあかや あかあかあかや あかあかや月
 (明恵上人)
 ─「あぁ月影の、なんという美しい輝きだろう‥」

 ‥月は隈なきをのみ、見るものかは
 (『徒然草』第百三十七段 吉田兼好)
 ─「だけど、月は一点のくもりもない、望月だけを見るものだろうか」

 吉田兼好先生へ。仲秋の名月に酔う主上、(旧暦八月にかけて)八つの月をみごとに読み込んだ大内女、さらには月光浴に嘯く月の歌人もまたよいけれど、わたしは先生の、そんなちょっぴりひねたところが好きです。先生はこうもおっしゃいました。「すべて、月、花をば、さのみ目にて見るものかは」(月も花も、いったい、目で見るだけのものだろうか)。そう、あなたより七百年も後に生まれたわたしたちだって、この世の美しいものを目だけでなく心でも見ることができるのです。たとえ十五夜が無月や雨月であっても、いつか見たあの美しい月を、いつでも見たいときに心に甦らせることができる。それこそが、誰もがもっている、そして、月が夜空にかかると、つい歩みをとめて見上げてしまうわたしたち日本人の、美しいこころなのですよね。

 明月をよめる
 いづくにも こよひの月を みる人の こころや同じ そらにすむらむ
 (『金葉集』 民部卿忠教)

 先日コメントに添えていただいた歌は、古人の月への想いはいまも、そしてこれからも変わることはないことを伝えています。


 雨が降っても曇っていても、みなさまどうぞよいお月見を‥
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待宵

2005年09月17日 | 季節を感じて ‥一期一会
 待宵‥ 十五夜に想いを馳せ、ひときわ美しい名月に焦がれる。月うさぎも、良夜にそなえてひそやかな一夜をすごしているでしょうか。
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秋草

2005年09月11日 | 季節を感じて ‥一期一会
 暦はもう白露、みなさまにはお変わりありませんか。
 重陽の日、台風の接近で二週間延期した旅に出ました。秋茜舞う日光中禅寺湖畔へ。峠の九十九折をゆく車のゆき交う道は藤袴や秋桜が咲き乱れ、尾花の叢は車窓を掃うように風にゆれていました。かつては山野に限らずいたるところを、こうして秋草が彩っていたのかもしれません。

 秋の野に咲きたる花を 指折りかき数ふれば 七種(ななくさ)の花
 萩が花 尾花 葛花 撫子の花 女郎花 また藤袴 朝顔の花
 (『万葉集』 山上憶良)

 「春は木の花、秋は草の花」と友人が教えてくれました。たしかに、春を代表する花たち(梅、椿、桜など)は木の花、秋はやはり七草の花を思い浮かべます。いずれもはかなく消えてゆく花なのに、梅や桜は待ち望んだ季節の到来を告げる役目を担うせいなのでしょうか、わたしたちの気持ちに華やぎを添えてくれますね。でも、秋の花はどうでしょう。夕日をうけて金色に輝くすすき、虫のすだく宵の口の萩の花をながめていますと、春の花には感じることのない淡い郷愁のようなものが満ちてきて、人恋しくなってしまいます。

 萩の花 くれぐれまでもありつるが 月出て見るに なきがはかなき
 (『金塊和歌集』 源 実朝)

 萩の花は日の暮れるまぎわまであったはずなのに、月が出たので見てみると、どうしたことか花がない。「見渡せば 花ももみぢもなかりけり」(※)と詠んだ藤原定家の鋭さにも似て、京の都にあこがれた鎌倉の若者のはかない命を暗示しているような、すさまじい虚無を感じずにはいられない歌です。花が散ってゆく‥、という“時のうつろい”など無視してしまって、花が「ない」のですから。その先には、ひょうびょうとした枯野が横たわっているのでしょうか。

 秋の草花の、清んだ秋空のもと風や置く露にしなやかにたわみ、美しい曲線を描いて楚々と咲く姿にひかれます。秋草を「日本の美を象徴するもの」と言った美術史家もいました。それに、「あなたは秋草のようだ」なんて、大和撫子なら一度は言われてみたいもの。


 いろはにほへと ちりぬるを わかよたれそ つねならむ
 (色は匂へど 散りぬるを 我が世誰そ 常ならむ)
 うゐのおくやま けふこえて あさきゆめみし ゑいもせすん
 (有為の奥山 今日越えて 浅き夢見じ 酔ひもせず)

 美しい日本語をひとつひとつ拾いながら「いろは坂」を下り、晩夏の旅は終わりました。暑さも彼岸まで。晩夏から初秋へ、うつろう季節を楽しみましょう。


※ 見渡せば 花ももみぢもなかりけり 浦のとまやのあきの夕ぐれ
  (『新古今集』 藤原定家)
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『暮らしに生かす 旧暦ノート』

2005年09月04日 | 本の森
 15,000件/日のアクセスを誇る超人気サイト「こよみのページ」の作者、鈴木充広さんの著書(河出書房新社)が出ました。わたしは五年前からこちらにお世話になっています。
 季節感にちょっとうるさい方なら「旧暦のほうが日本の季節感にふさわしい」と思っていらっしゃるかもしれません。が、本書はそれを一刀両断!に斬るところから始まります。二十四節季と雑節の成り立ちは? 満月と新月の日には出産率が高くなるってほんとう? 月齢って何? それから、仲秋の名月の日って毎年必ず仏滅だってこと、ご存知でしたか。‥そんな、わたしたちの旧暦に関する思い込みや浅学を見なおしてみませんか。
 長い歴史をもつ旧暦からはぐくまれた日本の季節感や季語って美しい。そして、今後は新暦から生まれる季語や暮らしの知恵がきっとあるはず。そうして旧暦と新暦のせめぎあいと融合のあわいから新しい文化が育ってゆく‥、この旧暦ノートは“温故知新”の宝庫なのであります。

 さて、旧暦の月の別称(一月から十二月まで)、あなたはいくつ読めますか?
 初空月、雪解月、染色月、鳥来月、稲苗月、涼暮月、愛逢月、紅染月、青女月、神在月、露隠の葉月、臘月。
 

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秋味

2005年09月01日 | たまゆら ‥日々是好日(随筆)
 ひと月に一、二度、仕事帰りに実家に立ち寄って母の手づくりご飯をいただく。母は食道楽で、弟夫婦とのおとな三人暮らしなのに、冷蔵庫は「五人家族か」と思うほどいつも食材であふれていて、「いったい、何を買ってどこに入れたか忘れないの?」とあきれてしまう。でも、訪れるたびにささっとひと手間(いえ、ふた手間くらいかな)かけた美味しいおかずがすぐに出てくるから楽しみ。そういう母をもつと娘は何もしないもので、すっかりお客さま気分で上げ膳据え膳を決めこんでしまう。母が元気なうちに伝授してもらわなくては、とは思っているのだけれど。

 ─ 今夜は秋刀魚よ。 え、もう、サンマ?
 一塩した後じっくりと焼いた秋刀魚を、かつおだしのきいたポン酢と大根おろしでいただく。う~ん、美味。塩加減といい、焼き具合といい、これは絶品。
 今年は大漁だそうで、(気軽に七輪と炭火で‥とはいかないけれど)いただいた秋刀魚は身も厚く締まっていてほんとうにおいしかった。そろそろみなさまの食卓にも秋味がのぼり始めるころでしょうか。


 わたしは食欲の秋で始まってしまったけれど、読書の秋、芸術の秋、スポーツの秋‥、みなさまは実りの秋をどのようにすごされますか。

 初ものの 秋刀魚焼きつつ 防災訓練 (‥駄句)
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