つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

迷宮には入れませんでした

2012-03-25 14:42:53 | 小説全般
さて、1000回まであと1回になりましたの第999回は、

タイトル:この闇と光
著者:服部まゆみ
出版社:角川書店 角川文庫(初版:'01)

であります。

予約を入れている本がまだのときに手に取る本は、ホンットにてきとーです。
この前は「ナ行」だったなー、じゃー、次は「ハ行」かなー、とかそんな感じで読んだことがなさそうな作家さんを選んで借りてきます。
本屋で平積みされてたりするような小説は、たいてい予約が入っているので、どうしても読むのが遅くなってくるんだよねぇ。

それはさておき、本書もそんな感じでてきとーに選んで読んでみた作品です。
ストーリーは、

『3歳で盲目になった姫、レイアにとって世界は「冬の離宮」と呼ばれる別荘の2階の自室から行ける範囲、それと父王が話してくれる物語やぬいぐるみのプゥ、犬のダークが世界のすべてだった。
父王は隣国との戦争に負け、レイアとともに別荘で過ごしている――そんな環境ではあったが、幼いレイアにとっては優しい父やプゥ、ダークがいればそれだけでよかった。

だが、それを侵す者もいた。侍女のダフネや階下の兵士たち……。
特にダフネが見せるレイアへの憎悪に満ちた言葉は、レイアにとっては恐怖の対象でしかなかった。
それでも、占領された自国の民への説得などへ出かけ、離れることはあるけれど、父とともに物語を聞いたり、読んだり、音楽を聴いたりする時間は満たされたものだった。

そんなレイアは、成長していくに従って物語は絵本から小説へと代わり、それらから様々なことを学んでいく。また、父からも様々な事柄を学んできた。
折に触れて現れるダフネとその憎悪、それによる恐怖――そんな恐ろしい出来事はあるものの、レイアは満ち足りた生活を送っていたが、突如それは崩壊する。
城下で暴動が起きたのだ。父はそれを沈めるために出向き、レイアはダフネに連れられ、城下の安全な場所へと連れて行かれてしまう。

初めて降りる階段、車、そして知らない場所――安全な場所と言われ、そこで父を待っていたレイアを訪れたのは、レイアの両親と名乗る男女だった。
大好きな父、プゥ、ダークとも離れ、両親と名乗る彼らが連れて行った場所は病院。目が見えるようになる手術をするということで連れられた病院で視力を回復したレイアは、そこで自分が3歳の頃誘拐されたこと、それから自分の本名、女ではなく男であること、ここが日本と言う国であることなど、思いもよらない事実を知ることになる。』

裏表紙の作品紹介の引用。
「魅惑的な謎と優美な幻影とに彩られた、服部まゆみワールドの神髄。一度踏み込んだら抜け出せない、物語の迷宮へようこそ。」

……魅惑? 幻影? 迷宮? なんですかそれは?(笑)
読後、これらの言葉に対する印象は、まったくなし。
かろうじて、幻影の部分のみ、該当するかな? って程度。

ストーリーは、作品の大半を占めるレイアの物語と、そのファンタジーにも似た世界から現実へ連れ戻されたレイア――本名大木伶がレイアとして育った環境と現実とのギャップを主体とした内省、実はレイアとして成長した年月を描く前半は伶が小説仕立てにしたもので、それをもとに誘拐犯でもある若手作家との邂逅を描いて物語は終わる、というもの。
ファンタジー風味の前半から、現実世界に移行すると言う構成ながら、ストーリーの流れは破綻がなく、引っかかるようなところもない。
文章も過不足なく書かれており、文体も特筆するようなところはないが、とりたてて気になるようなところもない。

悪いところはないようにも見えるのだが……。
この作品の鍵は作中で出てくる各種物語であろう。
幼いころの「赤頭巾」「小公子」「小公女」、長じては「嵐が丘」「罪と罰」「デミアン」、そしてアブラクサスという神。
おそらくは、これらの物語を知っている(読んでいる)のとそうでないのとではかなり違いがあるのだと思う。
そしてこれらを知っていることが、作品紹介に書かれているように、魅惑的な物語の迷宮に誘い込んでくれるのだろうと思う。

逆に言えば、これらの作品を知らなければ、魅惑も幻影も迷宮もへったくれもない。
翻訳本の文章が性に合わないので、私はほとんど……と言うよりまったく海外作品を読まないので、絵本になっているような有名な「赤頭巾」や「小公子」「小公女」はともかくも、「嵐が丘」「罪と罰」「デミアン」などはあらすじすら知りません。
アブラクサスだの、グノーシス主義だのという言葉にもまったく縁がありません。
Wikipediaとかで調べればだいたいのことはわかるかもしれないけど、エンターテイメントとして小説を読んでいるのに、いちいちこれらの作品だの言葉だのを調べながらも読むわけがない。

なので、作品紹介にあるような「ワールド」にはまったく引き込まれずに、淡々と終わってしまったと言う印象。
と言うか、知っていること前提で話を進められても、知らない人間にとってはまったく意味をなさないし、元ネタがわからなくても楽しめるパロディではなく、作品の根幹に関わっているらしいとなるとお手上げです、と言うしかない。
おもしろみもなにもありません。

私は週に3冊平均くらいで本を読むので、読書家の部類に入ると思いますが、読書家だから有名な海外の作品なども読んでいるわけではないでしょう。
さらにそれらを読んでいて、本書を読んでいるときにそれらを想起できて、物語と関連して読める人がどれだけいるか。
そういう意味で、この作品はかなり読者を限定してしまうのではないかと思う。

なので、一般的にオススメできるかと言われれば、否としか言いようがない。
そういうわけで、総評としては落第。
ちなみに、解説を読むと他の作品も似たような感じらしいので、2冊目を読むかどうかはかなり疑問……。


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