つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

ヒッチコック劇場

2006-09-04 23:09:45 | ミステリ
さて、やっぱ『鳥』だよな、と思う第643回は、

タイトル:ママに捧げる犯罪
著者:ヘンリイ・スレッサー
出版社:早川書房

であります。

『ヒッチコック劇場』の名コンビ、スレッサー(著)とヒッチコック(編)が送るミステリ短編集です。全十六編を収録。
例によって一つずつ感想を書いていきます。

『母なればこそ』……七年前、娘を養女に出してから酒浸りの生活を送るロティ。実母であることをタテに、娘の養父母に金を請求するのだが――。
解りやすい展開だが、オチの台詞がかなりいい。ただ、カバー裏の解説で全部説明しちゃってるのはどうかと思う。

『隣りの独房の男』……スピード違反で連行され、独房に入れられてしまったゴーワルド。さらに、隣の独房に殺人容疑者が――。
30分ドラマらしいサスペンス。ラストの見せ方が結構怖い。

『褒美は美女』……恋人の行動パターンに疑問を抱いたエリオットは、直接彼女に疑問をぶつけた。さて、恋敵の正体は――。
色んな意味でえげつない話。まぁ、主人公が迂闊だったのは確かなのだが……。

『女の力』……アーノルドは一つの悩みを抱えていた。病気を理由に、女王然として家を支配する妻・エリザベスである――。
素直に離婚しろよ、と突っ込みたくなる話。アーノルドの情けなさが炸裂しているが、最後にしっかりブラックなオチが。(爆)

『アミオン神父の大穴』……貧しい教会の献金皿に、高額紙幣を入れていく男。アミオン神父は彼に会い、感謝の気持ちを伝えるが――。
世俗的な悩みを抱えた聖職者、というキャラ設定だけでコメディとしては勝利。最後のオチも爽やか。

『料理人の問題』……遂に小説家として成功したカーウィン。だが、別れた妻の来訪が、幸せに満ちた時間を破壊する――。
十五分ドラマの見本のような短編。この作者、誰でも嫌がる状況を設定し、それを簡潔に説明するのがすこぶる上手い。

『夜が淋しいの』……今日こそ早く帰ると言ったのに、夫はまだ戻らない。怒ったジュリアは手当たり次第に電話をかけるが――。
古典的なショート・サスペンス。しかし、この本の女性って総じて不幸ですね。

『制服は誰にも似合う』……銀行強盗を成功させたものの、相棒の尻拭いをするハメになってしまったフィル。彼の取った作戦は――。
唐突だけど、納得のオチ。笑うところじゃないんだろうが、笑ってしまった。

『父帰る』……二十年ぶりにシャバに出たベグス。記憶を頼りに秘密の場所に向かい、隠しておいたある物を回収するが――。
邦題が最悪。これ以外に何も書くことなし。

『帽子から出た殺人』……カンニングの現場を押さえられ、窮地に立たされたペリー。彼は何とか教授の弱みを握ろうとするが――。
ペリーの思い込みか? 本当に殺人か? 最後まで隠しているのはいいが、オチはありきたりでイマイチ。

『豪華な新婚旅行』……エドワードは、離婚した妻に払う別居手当がとにかく嫌だった。同級生のカールの提案に乗ってしまう程に――。
さらっとした一発ネタ。まさしく、やったな! といった感じ。

『良薬は口に苦し』……亡き兄は言った、おまわりだけはバラすなと。だが、チャーリーはその忠告を守れなかった――。
最後に会話に、それってあり? と思ってしまった。まぁ、心情的には解るが。

『最後の遺品』……今日も、役立たずの助手とともに葬儀の準備をするエイモス。だが、今回の死体には奇妙な点があった――。
非常に完成度の高いショート・ミステリ。ラスの演出も素晴らしい。お気に入り。

『水よりも濃し』……容疑者の父の懇願に負け、ヴァーノンは弁護を引き受けた。しかし、調べれば調べるほど疑惑は深まり――。
じらしてじらして、そう来たか! で終わらせる話。弁護士って大変だねぇ。(しみじみ)

『老嬢の初恋』……恋を捨てた筈のモードの生活は、ジミーと出会うことで一変した。しかし、彼には大きな問題が――。
メロドラマ→サスペンスのコンビネーション。特にこれといった印象はない。

『魔の指サミー』……ハリスンは一つの奇策を手土産に、クビになった広告会社を訪れた。社長をも唸らせるその作戦とは――。
ショートショートらしいワントリック。さりげなく、オチの伏線が張られているのはお見事。

な、長かった……さすがに十六編は辛い。
どの作品も、短いページ数でドラマをきっちりまとめてます。後は好みの問題。
短編好きにはかなりオススメの一冊です。

ちなみにスレッサー好きの方には、ミステリ短編アンソロジー『英米超短編ミステリー50選』もオススメです。


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