つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

ホタルとマユの三分間書評『颯爽登場! 第一話 ―時代小説ヒーロー初見参―』

2008-06-06 21:06:38 | ホタルとマユ関連
さて、最近時代劇視てないなぁ……な、第973回は、

タイトル:颯爽登場! 第一話 ―時代小説ヒーロー初見参―
監修:高橋千劔破  編集:新潮社
出版社:新潮社 新潮文庫(初版:'04)

であります。


「口惜しい奴等だ。憎い奴等だ。口惜しがっても、憎らしがっても、生きたままではどうにもならぬ。わしは死んで取り殺すぞ。可愛い女房まで自害をさせ、この清左衛門の手足をもぎ、口を塞ぎ、浅ましい身の上に落した奴等、――どうしてこのままに置くものか」
 と、呻きながら、枕元で途方に暮れている、吾が子をぎょろりと睨むように見詰めると、枯木のように瘠せ細った手で、引き寄せて、
「俺は死ぬぞ、雪太郎。死んでお前の胸の中に魂を乗り移らせ、お前の手で屹度あやつ等を亡ぼさずには置かぬのだ」
   ――本文281頁。『雪之丞変化』より。



―ゆるキャラの定義って?―


 「皆さんこんにちは、ホタルで~す♪」
 「マユっす」
 「何か普通過ぎてイマイチ……」
 「普通で何か問題があるのか?
 それはさておき、前々回『人類は衰退しました』を紹介した時、最後に『ゆるキャラ』の話をしたよな?」
 「しましたがそれが何か?」
 「あたしは単に『ゆるいキャラ』の略称だと思ってたんだが、厳密にはちょっと違うらしいな。
 Wikipediaによると――(以下引用)

『国や地方公共団体、その他の公共機関等が、イベント、各種キャンペーン、村おこし、名産品の紹介などのような地域全般の情報PR、当該団体のコーポレートアイデンティティなどに使用するキャラクターのこと』(引用終わり)

ってことになってる」
 「語源は『ゆるい+キャラクター』なんだから、別に公共マスコットに限る必要はないと思いますけどね」
 「まぁな。
 で、興味が湧いたんで色々調べてみたら、何か凄いものを発見した。まずは下記のサイトを見てくれ」

→『太秦戦国祭り公式サイト』

 「東映太秦映画村で開催されるお祭りですね♪
 トップページの写真に写ってる方が斬馬刀担いでるのが、何か時代を感じさせます」
 「フッ……それはまだ序の口よ、右下のバナーをクリックしてみな。
 『URYU ― A WILD BOAR ―』って書いてある奴だ。このイベントの公式キャラのページに行ける」
 「カラス天狗うじゅ……?
 え~と、これは……何と言うか……ひょっとして暴走してますか実行委員会?」
 「萌えキャラってとこが、時代の流れを感じるだろ?
 あたしは最初見た時、目が点になったぜ。つーか、東映太秦映画村のマスコット・かちん太より目立ってるってどうよ?」
 「あー……あはははは……まぁ、そういうディープな話はこの後、楽屋裏でやりましょう」


―ウチも少しは受けそうな作品を選びませんか?―


 「さて、今日の一冊は――廃れゆく時代小説の救世主となれるか? 『颯爽登場! 第一話 ―時代小説ヒーロー初見参―』です」
 「廃れゆくとかぬかすなっ!
 あとテンション低いぞ、お前。いつもの如く無駄に愛想振りまけよ」
 「だって……これ刊行は2004年ですけど、載ってる作品は一番新しいので1939年(!)ですよ。あり得なくないです?
 古くさ~い、読み辛~い、受けが取れないぃぃぃ~(切実)
 「黙レ、小娘ガァァァァァッ!
 『時代が望む時、名作は必ず甦る!』って言葉を知らないとは言わせねぇぞ!」
 「それは仮面ライダーの話でしょ……。
 えーと、本書は時代小説のメジャー作品の中から七作品を選りすぐり、それぞれの第一話のみを収録したアンソロジーです。要するに、『いきなり最終回』の逆バージョン時代小説版ですね」
 「サブタイトルから想像付くと思うが、時代劇ヒーローの初登場シーンを集めることを基本コンセプトにしている。故に、大河小説の類は選ばれていない」
 「収録作品は以下の通りです。なお、ここに挙げているのはシリーズ名で、第一話のタイトルではありません」



●大菩薩峠/中里介山 著。1913年発表。
 ――四十一巻にも及ぶ、未完の大作。当初は、『音無しの構え』と呼ばれる剣技を修め、罪なき者すら手にかけるダークヒーロー『机竜之助』を主人公とした仇討ち物語(※ただし、狙われるのは竜之助の方である)だったが、途中から数多くの主人公の足跡を追う群像劇に変化した。幕末を舞台にしており、島田虎之助や近藤勇といった実在の人物も登場する。


●鞍馬天狗/大仏次郎(おさらぎじろう) 著。1927年発表。
 ――勤王志士に味方する謎の覆面剣士・鞍馬天狗(こと倉田天膳)と、彼を慕う少年・杉作、元盗賊・黒姫の吉兵衛の活躍を描く娯楽巨編。シリーズは全四十七作を数え、それに伴って天狗の立場も変化するが、最後まで庶民のヒーローというスタンスだけは変わらなかった。アラカンこと嵐寛寿朗主演の映画が非常に有名。


●丹下左膳/林 不忘 著。1927年発表。
 ――赤茶けた髪、隻眼隻腕、右顔面に深い一線の刀傷、時代劇ダークヒーローの代名詞と言っても過言ではない怪剣士・丹下左膳の生き様を描くピカレスク・ロマン。ただし、初登場作となる『新版大岡政談・鈴川源十郎の巻』では、左膳は主役どころか完全な悪役であり、お約束通り善玉に敗れて退場する。しかし、六年後に発表された『丹下左膳』でちゃっかり主人公として復活、正義の味方っぽい役回りを演じて絶大な人気を博した。


●旗本退屈男/佐々木味津三 著。1929年発表。
 ――「天下御免の向こう傷」で知られる直参旗本・早乙女主水之介が、退屈を持て余した末、様々な揉め事に首を突っ込んでいく痛快娯楽作品。無役で千二百石を頂戴しているという時点でツッコミ必至だが、ノリが面白いので許せてしまうところが凄い。二十近く歳が離れており、甲斐甲斐しく兄の世話を焼く可愛い妹・菊路、その恋人で、見た目は華奢ながら主水之介すら認める凄腕の美剣士・霧島京弥等、狙いまくったレギュラーキャラクターも魅力。


●国定忠治/子母沢 寛 著。1932年発表。
 ――本書で唯一、実在の人物を主人公とした作品。すいません、股旅もの嫌いなんで解説はパス。個人的な感情抜きにしても、説明不足な上に視点がふらふらしてて非常に読み辛い作品だと思います。


●雪之丞変化/三上於菟吉 著。1934年発表。
 ――中村菊之丞一座の若き女形・雪之丞が、親の敵である五人の男を追い詰めていく華麗なる復讐絵巻。つい半年前、NHK正月時代劇として放送(主演は滝沢秀明。狙いまくってますな)されたので、御存知の方も多いかと思われる。主人公の雪之丞と、相棒である義賊・闇太郎の対比が見事で、映画、舞台等では一人二役で演じられるのが通例。なお、冒頭に紹介したのは、今際の際に父・清左衛門が雪之丞に言った台詞である。


●桃太郎侍/山手樹一郎 著。1939年発表。
 ――「姓は鬼退治、名は桃太郎」と、洒落た名乗りで現れる好男子・右田新二郎が、図らずも自身を捨てた丸亀藩のお家騒動に巻き込まれていく陰謀劇。天涯孤独の身でありながら、飽くまで明るく、長屋の子供達のヒーローとして生きる新二郎のキャラクターが清々しい。ちなみに、「ひとつ、人の世の生き血を啜り~」という口上で悪を斬りまくるのはドラマのオリジナルである。



 「は~い、終わり終わり♪」
 「心底嬉しそうだな、おい。
 言い忘れてたが、各作品の末尾には、第一話の後の粗筋とシリーズ全体の解説が付記されている。粗筋は概略ながら結末まで記してあり、解説は原作のみならず映画の話にまで及んでいるので、続きを読まなくても作品の全体像を知ることが出来るのは嬉しいところだ」


―で、本書の意義は?―


 「あれ、まだ続くんですか?」
 「黙らっしゃい。
 これで終わっちまったらあたし等が出てる意味がねぇだろ。せめて、気に入った作品の一つぐらい挙げろや」
 「気に入った作品……趣味でいくなら『雪之丞変化』でしょうか。異様に句読点が多い文章に閉口しましたけど、雪之丞のキャラクターは良くできてるし、長崎の仇を江戸で討つという洒落た設定も好きです。これだけは続きを読んでみたいですね」
 「親父の怨念背負ってる割には、暗さが感じられないのが雪之丞の美点だな。とにかく二本差しの主人公が多い時代小説の中にあって、元大商人の息子で今は舞台役者というのもいい。あ~、そういや『THE八犬伝』の毛野のエピソードも、女形が復讐を果たす話だったなぁ。作画が安定しないアニメだったが、あの回だけは妙に力が入っていた」
 「ちょっとちょっとちょっと、貴方が脱線してどうするんですか。
 時代劇好きらしく、好きな作品を三つか四つぐらい挙げてみて下さい」
 「いや~それが、名前は知ってるけど読んだことない作品ばっかりでな。ドラマならともかく、原作に付いてはあまり言うことがなかったりするんだ。
 本書読んだ限りだと、『旗本退屈男』と『桃太郎侍』かね。どちらも勧善懲悪物でストーリーが解りやすく、一応この第一話だけで一つの話が終わっているので続きを気にしなくてもいいのが有り難い」
 「『鞍馬天狗』は大ピンチのいいところで終わってますし、『大菩薩峠』と『雪之丞変化』は物語の触りの部分といった感じですからね……。こういうの読むと、いかに解説が充実してるとは言え、これ一冊の価値ってあんまり高くない気がしてくるんですけど」
 「そうか? カタログとしちゃ結構優秀だと思うけどな。色んな作品を拾い読み出来るし、続きを読まなくても大体のストーリーは把握出来るから、時間がない現代人には便利だぜ」
 「マユさん、実は時代小説苦手なんじゃないですか?」
 「い、いや……そんなことはねぇぞ。
 確かに、説明文が長ったらしくてなかなか先に進めないとか、チャンバラやってりゃそれでオッケーって感じでストーリーぐだぐだだったりとか、作者が主人公に乗り移って自己満足に浸ってるだけだったりとか、ハズレを引いた時の破壊力が凄まじいジャンルではあるが、それでもあの独特の雰囲気は捨てがたい……と思う」
 「お後がよろしいようで」



――【つれづれナビ!】――
 ◆ 『つれづれ総合案内所』へ