つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

何とな~く何となく

2008-01-06 20:48:31 | 小説全般
さて、やばいやばい落とすところだったよの第935回は、

タイトル:いつかパラソルの下で
著者:森絵都
出版社:角川書店(初版:H17)

であります。

先々週に引き続いて、森絵都の本です。
前のは不思議な雰囲気のショートショート集だったけど、今回のは1本の長編です。

では、ストーリーをば。

『柏原野々は、父親の一周忌の話し合いをするために実家に戻ることになっていた。
そんなことよりも恋人の達郎とだらだら過ごすほうがいいと思っていても、妹、花のきついお達しで実家へ。
そこで母親の毎日のような病院通いのことを知り、いつかのときのことを思い出す。

それは異常なまでに厳格な父と浮気をしたと言う会社の女性からの告白で、母親の病院通いの原因のひとつではないかと思われたことだった。
その後、別の女性からも父と浮気をしていたと言う事実を知らされ、それを兄の春日と花に話した結果、事態は野々には思いがけない方向に向かうことになる。

父が浮気していた女性に語った「暗い血」、それにまつわる自分たちの祖父の話……厳格な父に反発して20歳になって野々とおなじく家を出た兄、春日と実家に残って父と折り合いをつけて過ごしてきた妹の花。
渋々ふたりに付き合う形で様々なことを知り、父が一度も語らなかった故郷、佐渡へすらも出向いた野々たち兄妹を待っていたものは……』

父の浮気だの、母の奇妙な病院通いあの、野々と達郎の関係だのと、タイトルからはおおよそ想像がつかないくらい重い話……になりそうなのだけど、読後の印象は何となくホッとするホームドラマ、ってとこかなぁ。

父親の一周忌を機会に集まった兄妹たち。
そこで明かされた真面目一徹で、厳格すぎる父の意外な秘密に端を発して、その足跡を追ううちに、野々を中心とする兄と妹、母親の変化が描かれている。
それぞれ、父親の厳格さに何かしら負い目があったり、がんじがらめにされている背景があって、そうしたテーマをふつうに書けば、重い話になりがちなんだろうけど、そこは書き方やキャラのおかげか、そこまで重くなっていない。

主人公の野々はフリーターをしながら恋人を変えては同棲して生活しているし、兄の春日も定職に就かずにフリーター。
妹の花は公務員と手堅く一番のしっかり者だが、どうしてもこの3人が集まると重いはずの話も微妙にずらされてしまっている感じがする。
野々個人では、達郎との関係という話があるものの、中盤以降はほぼこの3人兄妹が中心となって描かれていて、さらに父の故郷に渡ってからは意外な真実や、出会った親戚たちのおかげで、どこか拍子抜けする、と言うか気が抜ける行動があったりして、底にあるものは重いんだけど、作品全体としてはふわふわととらえどころのない雰囲気。

文体も野々の一人称で、野々の視点から見た様々な景色とかの描写も、そうした独特の雰囲気を醸し出す要因になっているように思える。

ストーリーそのものは、取り立てて珍しいものではないし、奇を衒うようなところもない。
父を失ったあとの家族が、それぞれ区切りをつけてって終わり方だし、いちおうハッピーエンドではあるので、裏にあるものをあれこれと想像しなければ、ホームドラマとしてふつうに読める。
もちろん、兄妹の名前や厳格な父によって形成された兄妹たちの性格など、様々なことを深読みしながら読むことも可能。

う~む、雰囲気に流されて読むのもあり、深読みするもよしと意外に奥が深い……。
でも「アーモンド入りのチョコレートのワルツ」のような優しい雰囲気の作品が好きなひとにはちょっとつらいかも。

そんなわけで悪い話ではないのだけど、ふつうのホームドラマであることや、ちょっと苦手なひとがいるかもしれない、と言うことで総評は及第。
それでもタイトル名も絡んだ内容やストーリー、ラストと言ったところからも、作品としてはきっちりしているので、良品にもう少しで届かない、ってとこかな。
Amazonの星つけるなら、三つ半ってとこかな。