つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

お久しぶ~り~ね♪(2回目)

2007-09-09 00:56:13 | 小説全般
さて、決して書く気がなかったわけじゃないから許してくだされ~の第901回は、

タイトル:モノレールねこ
著者:加納朋子
出版社:文藝春秋(初版:H18)

であります。

……ほんとうにお久しぶりでございます。
いやぁ、4月からこっち、4ヶ月以上ぶりの新着記事です。

決して何も読んでなかったわけじゃないのよ。
単に、「マリみて」の最新刊とか、「彩雲国物語」の読んでなかった5,6冊とか、「空ノ鐘の響く惑星で」の続きとか……まぁ、とても記事になるような単発じゃなくて、シリーズものばっかり、この際だから読んでいただけで……(^_^;

さておき、そんなのばかり読んでいて、久しぶりに加納朋子を借りてきたので、まぢで久々、記事であります。

と言うわけで、本書「モノレールねこ」は定番の連作短編ではなく、8編の短編が収録された短編集。
では、各話から。

「モノレールねこ」
小学5年生の大沢悟こと「ぼく」の家には、デブで不細工なノラ猫がいつのまにか通ってくるようになっていた。そいつは取り込んだ洗濯物の上で寝っ転がったり、お母さんのお気に入りの座布団に伏せていたりと、お母さんのヒステリーの元になる厄介なヤツだった。
でも毎日見てると何となく愛着が湧いてきたノラに、いつの日か赤い首輪がつけられていた。愛着が湧いたとは言ってもやっぱりデブで不細工なノラ。

そんな猫を飼おうなんて奇特なひとがいるものだと思ったぼくは、ふとしたことでそのノラの首輪にノートを千切って、
「このねこのなまえはなんですか?」
って書いた紙を首輪に挟んだ。
そんなちょっとしたことに、返事が返ってきた。そこには、ただ一言、
「モノレールねこ」
そう書いてあった。

そこからぼくとタカキのモノレールねこの首輪でつながった小さな文通が始まった。

「パズルの中の犬」
結婚し、優しい夫を得て順風満帆な生活を送っているはずの私は、家事の合間など、時間が出来たときにジグソーパズルをやっていた。
それは待つ、と言う行為から逃れるための私なりの対処法だった。

あるとき、フリーマーケットで絵もなく、写真でもない、ただ真っ白なだけの3000ピースものパズルを手に入れる。
1ピースの形以外に手がかりのないパズルに悪戦苦闘しながら徐々に仕上げていく途中、真っ白な中に犬の姿が見えた。

その犬は、次第に私の切ない過去の引き金になっていく。

「マイ・フーリッシュ・アンクル」
人生を一変させるような報せなんて、そうそうあるものじゃない。
しかし、中学1年生のカスミに、香港旅行中の両親、祖父母がホテルの火事で4人とも亡くなったと言う報せが入ってきたのだ。
先生からその報せを聞いて、実感のないまま、家に帰ったカスミを待っていたのは、30を過ぎても定職にも就かず、カスミの家族に養われていた叔父テツハルだった。
しかも、泣きに泣いてぼろぼろの。

そうしてカスミは家事もろくにできず、稼ぎもない「バカでオロカ」な叔父テツハルとの二人暮らしが始まった。

「シンデレラのお城」
独り身でいることで、周囲から有言無言のプレッシャーを与え続けられてきた私は、居酒屋などでたまたま逢って、そのときに話をするくらいのミノさんと偽装結婚をすることになった。
単に、プレッシャーから逃れるためだけに。

偽装結婚に最適と自ら言うミノさんは、確かにそのとおりだった。
ミノさんは、いまでも亡くなった妻の瑞樹を愛しており、そしていまもその姿が見えて、一緒に生活しているから、だった。

半信半疑のまま、結婚生活を始めた私は、ほんとうにそこに瑞樹がいるように振る舞うミノさんにつられるように、瑞樹が存在すると言う生活に慣れ、奇妙な3人の生活は続いていく。

「セイムタイム・ネクストイヤー」
私は絶望していた。結婚し、30代も終わり頃になってようやく出来た娘。そんな最愛の娘を、たった5歳で失ってしまったからだった。
気晴らしに旅行でも、と言う夫の言葉に、昔、娘の誕生日に利用したホテルを選んだ私は、そのホテルで娘によく似た子供を見かける。

思わず追いかけたが見つからない子供のことを思いながら、バーのバーテンダーに「亡くなったひとに逢えるホテル」だと聞いた私は、それから毎年、その子供に会うためだけにホテルを訪れるようになっていた。

「ちょうちょう」
ラーメン好きが高じて、有名なラーメン店を経営する叔父のもとで修行し、ついに2号店を出すことが出来た俺は、アルバイト募集で訪れた鳥井恵ちゃんに一目惚れ。
叔父の店から古株の上田さん、伯母の姪っ子である北岡蘭子とともに店を切り盛りしながら、何かと気を遣っていた。

あるとき、ガラの悪い男たちが恵ちゃんに絡んで追い出したことをきっかけに、開店以来順風満帆だった店は一気に下降線。それは逆恨みした男たちがネットで悪評を流したからだった。
店の経営は思わしくないし、上田さんの内心の葛藤を知り、挙げ句、蘭子から上田さんと恵ちゃんが付き合っていると言う話まで聞いた俺はこのまま店を続けていいのか、悩むハメになってしまっていた。

「ポトスの樹」
俺の親父はとにかくろくでなしだった。
映画監督になりたいとか、カメラマンになりたいとか言いながら、いろんな女のヒモをしながら生活していた過去があり、その挙げ句、俺を妊娠したおふくろのところに居座ってしまったのだ。

それだけでもなく、子供のころのろくでもない思い出のおかげで俺はいろんな目に遭った。だが、そんな反面教師のおかげで、学業に励み、就職し、彼女だった女はついに妻になるところまでになった。
だが、いざ結婚となるとふたりだけの問題ではない。お互いの両親の関係もあるから困りものだった。

俺とおふくろがフォローしながら、何とか彼女の両親に悪印象を持たれることもなく、無事結婚し、暮らし始める。
そんな経緯の中、親父のことを知りたがる彼女との会話などの中で、俺は親父が持つ考えと言うものを知る。

「バルタン最期の日」
俺は生まれて1年にも満たない、公園の池に住むザリガニ……だったのだが、ある日、フータと呼ばれる子供に釣られてからはフータの家の住人になり、バルタンという名前までつけられてしまう。
釣られてしまったのは癪に障るが、公園の池で生存競争に鎬を削るよりも快適なフータ家だったが、そこではフータにも、お母さんにも、お父さんにも、誰にも言えない悩みがいくつもあった。

そんな悩みを言えないまま、隠して支え合おうとする家族の姿に複雑な思いを抱くバルタンは、ある日、家族が一泊二日の旅行に出かけた日に起きた出来事で……。


……やっぱり久々に書いてみると、勝手がわからんと言うか、書き方を忘れていると言うか……長いね(爆)

さておき、本来ならば各話ごとに寸評あたりを書いていこうかとも思ったのだが、はっきり言って、そこまで書こうというほど、よかったか、と言うとそうでもなかったので、書いてない、と。

全体的に見て、決しておもしろくない、と言うわけではない。
共通して言えるのは、軽快な雰囲気の短編(「モノレールねこ」「マイ・フーリッシュ・アンクル」など)も、やや重めの短編(「パズルの中の犬」「セイムタイム・ネクストイヤー」など)も、雰囲気があり、ラストには小さな、ちょっとした優しさや可笑しさが見えて、オチの付け方のレベルは高い、と言うこと。
こういうホッとするようなラストの良さは、さすがとも、相変わらずとも言えて、安心して読めるところではあるし、作品のよさにもつながっていると思う。

何がいまいちかと言うと、ミステリっぽくなさすぎる、と言うところ。
いままでもミステリだと思ってほとんど読んだことはないが、これは特にその傾向が強い。
ミステリだと言える要素がほとんど見えない。

だから、これを読んで思ったのが、ミステリか? ってくらいのちょっとした謎とその答えであったとしても、作品のおもしろさをそのミステリ的な要素が底上げしていたのだろう、と言うこと。
他愛ない日常の謎……それがどんなに「そんなことか」くらいの答えでも、あったほうがやはりおもしろい。
それが作品によってはまったく感じられないから、ともすれば「いい話」をまとめただけの凡百の短編集に見えてしまう。

それが顕著なのは初手の「モノレールねこ」に「シンデレラのお城」「バルタン最期の日」か。
「バルタン最期の日」は、まぁ、定番ながらちょっとラストでぐっと来てしまった(笑)ので外してもいいかなぁ、と思ったりもしないでもないが、「モノレールねこ」あたりは、どこにでも転がっていそうな定番中の定番。
オチも見るべきところはない、ほんとうにただの「ちょっといい話」程度でいちばん評価が低い。

「セイムタイム・ネクストイヤー」もいい雰囲気の作品なのだが、「沙羅は和子の名を呼ぶ」の中の「天使の都」のような話で、二番煎じっぽくて良品とは言い難い。
他にも、悪くないが良品とは言いづらい、と言うものばかり。
ミステリ色がほとんど見えないし、いい話で雰囲気もあり、定番のものでもオチの付け方は相変わらず上手なほうだから、万人受けする短編集かもしれないが、いままでさんざん「これはいい!」と思える作品が多かっただけに、かなり残念な短編集としか言いようがない。

と言うわけで、評価の基準が高めになってしまうところもあるだろうが、総評、及第。