つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

小説……なんだろうけど

2006-05-07 15:43:26 | 時代劇・歴史物
さて、本編読んでみるかなぁの第523回は、

タイトル:小説十八史略 傑作短編集
著者:陳舜臣
出版社:講談社文庫

であります。

本書最後の初出一覧のところに、「本書は『小説十八史略』(全六巻)に関係の深い歴史短編小説の中から、代表的な作品を厳選した文庫オリジナル短編集」とあり、春秋戦国時代から元までの時代から様々な人物を中心にした短編集。
10編が収録されていて、それぞれ、

「荊軻、一片の心」
始皇帝暗殺に向かった戦国時代末期の荊軻と言う人物を中心にしたもの。

「孟嘗君の客」
戦国の四君と呼ばれた孟嘗君と言うより、その孟嘗君のもとで孟嘗君を助けた食客に光を当てたもの。

「虎符を盗んで」
こちらも戦国の四君、信陵君が出てくるが、孟嘗君のときと同様、食客と主人の関係を描いた感じのもの。

「季布の一諾」
『ひとたび承諾した約束を必ず守ること』と言う意味の故事成語(解説より)の語源となった季布という人物の話。

「虎穴に入らずんば」
匈奴と西域との戦い、治世に功績があった班超と言う人物の話。

「弥勒乱入」
隋の時代に、弥勒仏と名乗って城門を突破し、乱を起こそうとした史実を踏まえた話。

「背負って走れ」
五台山にある「文殊菩薩真容像」の作者とされる安生と言う人物にまつわる話。

「楊貴妃は覇水を見た」
そのまま楊貴妃に関する話だが、楊貴妃のキャラに悲愴さや悲惨さのようなものが少なくおもしろい。

「パミールを超えて」
当時中国では被差別民であった高麗の民である高仙芝を描いたもの。

「落日孤雲」
蒙古の襲来から文明を守ろうとした金の元好問を中心とした話。

となっている。

なんか、たいてい話の最初に著者の体験談や解説のようなものが入っていて、なんか純粋な小説、と言うより解説っぽい感じがする。
途中からは小説として書いてはいるけど、この部分があるとなんかイメージがそれに引きずられてしまうところがあったり。

そうは言っても、これはとても興味深く、ホントに本編を読んでみるかなぁ、と思ったねぇ。
解説曰く、史実を外すことなく、けれど小説らしく読み物としておもしろくなるように脚色や想像を加えて書いているらしい。(歴史には明るくないのだ(爆))
だからだろうかねぇ。あんまり歴史物って好きじゃないけど、これはおもしろく読めた。

全体としてもよかったけど、この中から特によかったのが「孟嘗君の客」と「落日孤雲」かな。
「孟嘗君の客」は、食客として孟嘗君のもとにいたそれぞれの人物の侠客としてのエピソードが興味深かった。

「落日孤雲」は、元好問の依頼で実録と呼ばれるいわゆる議事録のようなものを小さな文字で書き写し、膨大な量のそれを依頼した元の目の前で焼き捨てた王勉の姿など、戦乱の中での人物それぞれの複雑な思いや行動などが印象的だったね。