労働者のこだま(国内政治)

政治・経済問題を扱っています。筆者は主に横井邦彦です。

なぜ「新給油法」にこだわるのか

2007-10-25 04:35:46 | 政治
 インド洋でのMIO(海上抑止行動)はすでに役割を終えて、一般的な哨戒活動MSO(海上安全行動)になっているのに、アメリカも日本もなぜこの法案にこだわるのか?という質問がありました。
 
 この質問に答える前に、MIO(海上抑止行動)とMSO(海上安全行動)の違いについて考えたいと思いますが、この違いは直接的な準軍事行動(誰何、威嚇射撃、強制停戦、強行乗船、船内調査、船舶の拿捕、麻薬・武器などの禁制品の押収、不審人物の逮捕・連行、逃走船の撃沈など)を含むかどうかによって区別されます。
 
 通常は、つまり、海上封鎖されていない海域では、軍艦がこのような行動を取ることは特別の場合を除いて許されてはいません。ただ「無許可の電波を発信している」、「帰属国を表す国旗を掲げていない」場合等は、「海賊船」と見なして、停船をさせたり、船内検査をすることが許されるだけです。
 
 インド洋はだれによっても海上封鎖されている海域ではないので、MIO(海上抑止行動)自体が国際法を無視した犯罪行為といえます。
 
 ところがこれには抜け道があって、沿岸諸国(パキスタン・イラン・オマーン・イエメン・ソマリア・ジブチ)の地元民が使用するダウ船(小型木造船)は、漁業に使うばあいでも、地域的な海上輸送に使うばあいでも、領海外へ航行する能力を持っているし、国旗を掲げて漁をする漁船もあまりありませんので、MIO(海上抑止行動)参加国の軍艦はこういう船にねらいをつけて、「海賊船」と見なして、追いかけ回し、「臨検」をやっていました。
 
 この中でいくつかの成果があったことは確かです。麻薬や武器を押収した事例がいつくかあります。ただ、アルカイダ関係者と思われる集団を捕縛したという件については、これらの人々がグァンタナモ基地に送られ、その後どうなったかという報告がないので、問題があります。そもそも、疑わしいという理由だけで勝手に人々を捕縛して、裁判も受けさせずに、長期間拘留するということ自体が許されることではありません。
 
 またこのほんの一握りの“成果のかげ”で無数のダウ船の「航行の自由」の侵犯が行われています。(週刊『金曜日』によれば、「現場を通行する不審な船舶に対する無線照会は14万件にのぼり、立ち入り検査は1万1000回以上あった」そうです。)漁業を操業中に武器を携帯して勝手に木造漁船に乗り込んだり、輸送品の梱包を解いたり、艦船で漁網を引っかけて破損させたり、と沿岸諸国の地域人民の生活と安全を脅かしています。
 
 つまり、MIO(海上抑止行動)参加諸国の艦船の“弱いものイジメ”というよりも、無法行為は沿岸諸国(パキスタン・イラン・オマーン・イエメン・ソマリア・ジブチ)の地域海運、地域漁業に大きな打撃を与え、沿岸諸国の人々に大きな苦痛を強いていたのです。
 
 だから、地元ではこれらの活動に対する評判も悪いし、悪いことをする人、つまり、麻薬や武器などの禁制品を運搬したり、「テロリスト」を搬送したりする人は、危険なインド洋を通らないで、内陸部から、「陸の道」を通って移動するようになりました。
 
 現在、イランで人質になった人も、この「陸の道」で麻薬商人に捕まっていますし、アルカイダの幹部が「われわれは自由に移動できるようになった」と豪語しているのも、アフガニスタンからイラクまたは、ロシアのチェチェンにいたる「陸の道」がすでにできていることをあらわしています。
 
 ですから、最近では、さすがのアメリカもこういうことは自制し始めています。その表れがMIO(海上抑止行動)からMSO(海上安全行動)への活動内容の変更になって現れています。
 
 ころが日本政府はこれを認めることができません。なぜならば、インド洋での一般的な哨戒活動とアフガニスタンでのどのような活動とも直接的に結びつけることができない(アフガニスタンのテロはインド洋を通じて拡散しているという事実はない、したがってアメリカはインド洋での海上抑止活動を行っていない)からです。つまり、法案自体がアフガニスタンのテロが拡散することを海上で抑止する活動を支援するものである以上、ありもしないMIO(海上抑止行動)にしがみつかざるをえないからです。
 
 ではなぜアメリカも日本もMIO(海上抑止行動)がMSO(海上安全行動)となり、「臨検」を含まないものになっているのにそれにこだわり続けているのでしょうか?
 
 この疑問に対するわれわれの以前の解答は、“脱走者”をこれ以上出さないためであるというものでした。多くの国々が内心ではMSO(海上安全行動)から足を洗いたいと思っているところで、日本が引けば、他にもやめたいというという国が出てくることを心配しているのではないかと思ったからです。
 
 最近になって分かったのですが、これとは別にもう一つの見解があります。
 
 17日に発表されたアメリカ海軍の海洋戦略「21世紀の海軍力のための共同戦略」では、基本戦略として「米国の死活的利益を守り、地域の安全への米国の誓約が継続していることを友好国や同盟国に保障し、潜在的な敵や(米国に匹敵する)競争者を抑止するため、西太平洋とアラビア湾(ペルシア湾)/インド洋に信頼できる戦闘力を継続的に配備する。」を掲げている。
 
 この目的を達成するための核心的な任務として、
 
 ① 決定的な海軍力を前方展開して、地域紛争を限定する。
 
 ② 大国間の戦争を抑止する。
 
 ③ わが国の諸戦争に勝つ。
 
 ④ 本土防衛に奥深いところから貢献する。
 
 ⑤ より多くの国際パートナーとの協力関係を強化、保持する。
 
 ⑥ 地域的混乱が世界システムに影響をおよぼす前に封じ込める。
 
 の6点をあげています。
 
 さらに具体的な方策として
 
 A 前方プレゼンス
 
 B 抑止
 
 C 海の統制
 
 D 兵力投入
 
 E 海上安全保障
 
 F 人道支援
 
 をあげています。
 
 全体的に見て、アメリカはアラビア湾(ペルシア湾)/インド洋を大西洋とならんで最重要地域と見なしていることが分かります。
 
 その理由として「世界システム」に影響をおよぼさないこと、すなわち、ペルシア湾からインド洋にいたる「石油ロード」をアメリカの海軍力で守る必要があるからであると述べられています。
 
 ここから「海の統制」という概念が生まれてきます。これは日本の高村外相が「シーレーン」の防衛を訴えていることと軌を一にしています。しかし、「新給油法案」は果たしてシーレーンを守るための法案でしょうか?しかも、人類の共有財産である海洋をなぜ特定の国または諸国連合が「統制」できるのでしょうか。これこそ「海洋における帝国主義」というものです。
 
 政府自民党はそのように考えているのであるなら、そのような法案として提出すべきでありましょう。一つの法案がその真意を隠したまま制定されるとしたら、そのようなものは法案として適切ではないといえます。しかもその内容が自国の権益を守るために他国の権利(海洋を航行する船には航行の自由があります)を踏みにじるようなものであるとするなら、断固として廃案にすべきものでありましょう。
 
 また、このアメリカの新海軍戦略には、「より多くの国際パートナーとの協力関係を強化、保持する。」ということで、日本を含む他の国が組み込まれています。
 
 アメリカはその陣形として、前方展開と後方におけるMSO(海上安全行動)を想定しています。後方にそれほど重要な役割を持たせていないのは、このアメリカの新海軍戦略が、アメリカの露骨なイスラム諸国に対する敵対的な性格を持っているがゆえにアメリカ単独ではおこないえないと考えており、「赤信号みんなで渡ればこわくない」とばかりに、共犯者を募っており、この共犯者は単に名目だけでもいいと考えているからです。
 
 もちろん日本の立場は、単に名目上の共犯者ではなく、無料の燃料を供給するという扇の要の役割を持たされています。
 
 ところで、このようなアメリカの新海洋戦略は軍事的に見てどうでしょうか?
 
 前方展開は、桶狭間の時の今川義元や関ヶ原の戦いの徳川軍の陣形です。当然のことながら、今川義元は軍を進めすぎたために、本陣が手薄となり、そこを織田信長に攻め込まれて首を取られました。関ヶ原の戦いでは霧が発生していたために徳川軍は前に進みすぎましたが、敗北しなかったのは包囲していた軍勢の半分ほどが日和見をきめこんだり、寝返ったからです。このように前方展開は想定外の出来事に大きく作用されるのですが、アメリカ軍はどうでしょうか?
 
 それは今後のお楽しみということです。
 

最新の画像もっと見る