日本はますます、“東洋の不思議な国”になりつつある。
マスコミが北朝鮮による拉致被害者家族の訪米を大々的に伝えている。彼らが議会で証言した、ブッシュ大統領と面会する、等々を熱心に伝えている。
彼らは何か大きな誤解をしているのではないだろうか、ブッシュが彼らに言えることはおかわいそうに、ご同情申し上げます、というぐらいである。
彼らがアメリカのブッシュに依頼して拉致被害者を取り戻そうというのは完全な筋違いである。現在アメリカは六ヶ国協議への復帰の道を模索しているのであって、北朝鮮との軍事的対立を回避しようと願っているのである。
経済制裁ということであるのであれば、日本政府にそれをもとめるべきなのであって、アメリカは実質的な経済制裁にすでに踏み出している。
日本はアメリカの植民地だから、植民地宗主国のアメリカから日本政府にもっとしっかりするように言ってくださいというのであれば、そこには何か大きな誤解があるような気がする。
日本の北朝鮮への経済制裁にアメリカが反対しているから、経済制裁のためにまずアメリカの反対を説得する必要があるというのであれば事実の誤認がある。
北朝鮮に経済制裁をしないというのは日本政府の意志なのであって、アメリカにそそのかされてそうしているわけではない。
何事につけてアメリカ頼みだというのは最近の日本の風潮である。
難しいことはアメリカに頼めば何とかしてくれるんじゃないか、という漠然とした雰囲気が無気力な日本の保守層を覆っている。
こういう雰囲気を如実に表しているのが、今問題になっている在日米軍の再編問題である。だんだん明らかになっている事実は、「日本が3兆円負担すべきだ」というローレス発言は、この話はもともと日本が言いだしたことだから、日本が全額負担するのは当然だというアメリカ軍の立場を表しているのであり、驚いたことに日本政府はこのアメリカ側の提案に了解を与えたふしがあることだ。
バカじゃなかろうかと言いたくなるが、おもしろいことに世の中はどうもそういう方向に進むようだ。
もちろん進むといってもこの話はすんなりと決着はしない。
第1に、アメリカの財政赤字は急迫しており、国防予算は議会で大きく削減される見込みであること。したがって、ローレスが言うように在日米軍の再編問題に連邦予算がつく見込みは少なく、アメリカの日本が言いだしたことだ、やってほしければ当事者である日本が金を出せ、というスタンスは変わらないこと。
第2に、すでに日本政府内でも混乱があるように、国内の事情として、在日米軍の再編の費用の大半を負担する政治的環境にないこと。このような愚策を強行すれば、自民党自体が解体消滅する可能性が強いこと。
第3に、国際慣行として、日本政府がすでに、ローレス発言に言質を与えていれば、日本政府としてそれを実行しないわけにはいかないこと。
この1から3の間で、政府自民党がどういう態度を取るのかは見ものとしか言いようがないが、日米関係ということで一つだけ言うならば、日米関係を小泉自民党は大きく誤解している。
日米同盟というのは、もともとは日本資本主義とアメリカ資本主義の利害から生まれたものである。日本資本主義にとってアメリカ市場は過剰生産力のはけ口としてどうしても必要なものであった。そして、アメリカ市場に参入するためにはアメリカと仲良くなる必要があった。
アメリカと仲良くするために代々の自民党政権が取ってきた政策は、アメリカの無理難題を聞くこと。そのために涙ぐましい努力を自民党はしてきたが、一方で、日本がこれだけならぬ堪忍をしてきたのだから、日本の真意はアメリカに伝わるであろうという期待感も生まれた。つまり、アメリカは日本が困ったときには助けてくれる戦略的パートナーであるという幻想である。
ところが、アメリカはむしろ逆のことを考えているのである。アメリカにとって日本は困ったときに何でも要求に応えてくれる国であり、現在、アメリカ、というよりもブッシュ政権は困っているのだから、アメリカの要求を日本は聞くべきだというのである。
この日米のギャップは今後ますます増大して行くであろう。そういう点では現在、日米同盟は戦前の日英同盟の解消期(1921年)のような状態になっているのである。
むかし、社会党の終末期にふられてもふられても自民党にまとわりつく社会党に対して「踏まれてもついていくゲタの雪」という言葉がささやかれたが、日本はこのゲタの雪状態になっており、まとわりつけば、まとわりつくだけ、うっとうしがられて、やがては捨てられるさだめなのである。