アリの一言 

天皇制、朝鮮半島、沖縄の現実と歴史などから、
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翁長氏『戦う民意』を読む② 「イデオロギーよりアイデンティティ」の正体

2016年01月12日 | 沖縄・翁長知事

  

 翁長雄志知事著『戦う民意』には、翁長氏の本音が見え隠れしています。
 その1つが、翁長氏が唱える「オール沖縄」「イデオロギーよりアイデンティティ」の正体です。

  翁長氏はこの本でも、「自民党出身という政治経歴からいっても、私は日米安保体制の重要性を十二分に理解しているつもりです」(107㌻)など、日米安保=軍事同盟支持を再三強調しています。そしてその「日米安保支持」に至るルーツをこう語っています。

 「私は保守政治家の家庭で育ったため、『共産主義国のようになってはいけない。自由主義社会を守ろう』という考えが根っこにあり、そうした中で日米安保体制も支持してきました」(140㌻)

 これは冷戦思考による古典的な「反共主義」そのものです。その思想は今日、次のように継続されています。

 「アジアのリーダー、世界のリーダー、国連でも確固たる地位を占めようとしている日本は、それに見合う品格のある日米安保体制が築けて初めて同じ価値観を共有し、世界の国々と連帯できる資格が持てます」(140㌻)

 翁長氏の「品格のある日米安保体制」とは、アメリカなどと「同じ価値観を共有」し、「日本が、まさに世界の中心で輝く」(安倍首相の年頭所感)ためのものなのです。

  翁長氏は「オール沖縄」で知事選に出馬したいきさつをこう語っています。

 「二〇一四年の知事選に向けて、私は保守側からも革新側からも出馬の要請を受けました。・・・革新側には、こんなふうに注文をつけました。『私は日米安保体制を重要だと考えている点で、あなた方とは立場が違う。ただ、沖縄に基地が集中した状態がこれからも続くことに対しては、うちなーんちゅとして絶対に許せない・・・あなた方各政党にもいろいろ考えがあるだろう。しかし、私が右から左に腹八分、腹六分で真ん中に寄ったように、あなた方も腹八分、腹六分で真ん中に寄ってこなければ、一緒にはやれない』・・・『イデオロギーよりアイデンティティ』を優先し、『オール沖縄』で立ち向かわなければ基地問題は解決しない」(191~192㌻)

 この結果、翁長氏と「革新側」の間で「沖縄県知事選挙にのぞむ基本姿勢および組織協定」(2014年9月13日)が調印され、「オール沖縄」の候補として翁長氏の出馬が決定したわけです(写真中)。

 ところが不思議なことに、『戦う民意』は知事選からの「経緯を見る」といいながら、この「基本姿勢および組織協定」のことには一言も触れていません。それどころかこう言っています。

 「(知事)選挙の争点はただ一つ、米軍普天間基地の辺野古移設でした」(22㌻)

 「私と仲井眞さんの政策の違いは、辺野古埋め立て承認の是非以外にはありませんでした」(24㌻)

 冗談ではありません。「革新側」と調印した「基本姿勢」、即ち知事選の争点には何が明記されていたか。

 「・米軍普天間基地を閉鎖・撤去し、県内移設断念を求めます。オスプレイ配備を撤回させ、新たな基地は造らせません。
  ・くらしと経済を壊すTPP(環太平洋連携協定)と消費税増税に反対します。
  ・憲法9条を守り、県民のくらしの中に憲法を生かします。解釈改憲に反対し、特定秘密保護法の廃止を求めます。
  ・自然環境の保全、回復に力を入れます」(2014年9月15日付「赤旗」)

 この「基本姿勢」はけっして十分なものではありません。「高江ヘリパッド反対」も「那覇軍港移設反対」も「嘉手納基地縮小・撤去」も「自衛隊配備反対」もありません。まして「日米安保反対」などありません。その意味で「革新側」が「腹八分、六分」どころか大幅に譲歩(後退)したものです。

 ところが翁長氏の念頭からはその不十分な「基本姿勢」さえ消え失せ(というより初めから無いのだと思いますが)、「選挙の争点」、仲井眞前知事との「政策の違い」は「辺野古移設」の「ただ一つ」だったというのです。

 それを実証するように、翁長氏は知事就任後、「解釈改憲」の最たるものである戦争(安保)法案に反対せず、TPPにも正面から反対せず、泡瀬干潟の自然を破壊する埋め立ては推進し、果ては「オスプレイ反対」も直接政府に求めることはしないなど、「基本姿勢」を踏みにじり続けています。
 それどころか逆に、「基本姿勢」に反する普天間の「県外移設」を臆面もなく繰り返しています。

 以上の①と②は何を示しているでしょうか。
 「イデオロギーよりアイデンティティ」と言いながら、翁長氏自身は「反共主義」をルーツとし、アメリカなどと「価値観を共有」して「世界のリーダー」になるという強固なイデオロギーに基づいて、「品格ある日米安保」を唱えているのです。
 そして「腹八分、六分」と言って「革新側」に大幅譲歩させながら、自分は何ひとつ譲ることなく自民党幹事長当時からの「政策」を堅持し、さらにその「革新側」と調印した「基本姿勢」すら守る意思はないということです。「真ん中に寄る」どころか、自分は「右」に居座り続けながら、「革新側」だけを「右」に引き寄せているのです。

 これが翁長氏の「イデオロギーよりアイデンティティ」「オール沖縄」の正体です。

 「革新側」はこの事実を、いつまで見て見ぬふりをするのでしょうか。

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