アリの一言 

天皇制、朝鮮半島、沖縄の現実と歴史などから、
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「差し止め提訴」は翁長知事の「撤回」回避のアリバイづくり

2017年06月08日 | 沖縄・翁長・辺野古

     

 沖縄県の翁長雄志知事は7日の記者会見で、国が岩礁破砕許可を得ないで辺野古埋立工事を行っていることに対し、県漁業調整規則に違反しているとして工事差し止め訴訟を7月に行うと表明しました。

 以前から想定されていたことですが、この訴訟で埋め立て工事を断念させることはできません。むしろ新基地阻止に逆行します。工事を中止(断念)させるには「埋立承認の撤回」を直ちに行う以外にありません。今回の提訴はをあくまで「撤回」を回避(先送り)しながら「支持」を繋ぎ止めようとするアリバイづくりであり、根底には来年の県知事選をにらんだ選挙戦略があると言わねばなりません。

 第1、時間の浪費、工事進行を事実上黙認。

 提訴には県議会の議決が必要とされ、翁長氏は今月20日に開会される定例県議会に議案を提出し「7月14日予定の最終本会議で可決されれば7月内にも提訴する方針」(8日付琉球新報)。つまりいくら早くても提訴までまだ1ヶ月以上あるのです。

 さらに、提訴(「工事中止の仮処分」を含め)してから裁判所が判断を下すまでに時間がかかります。琉球新報(5月31日付)によれば、八重山教科書無償配布をめぐる仮処分(2012年)は1カ月半、高江ヘリパッド建設差し止めの仮処分(16年)は2カ月半で那覇地裁が決定を下しましたが、関西電力高浜原発の運転差し止め仮処分に対する大津地裁の決定は1年以上かかりました。専門家は「半年や1年掛けて判断することもある」(本多滝夫龍谷大教授、同琉球新報)としています。ということは、仮処分の決定が来年になる可能性もあるのです。

 この間、安倍政権は埋め立て工事を強行し続けます。「時間の浪費」どころか、工事が取り返しのつかない段階へ向かうのを事実上黙認することになるのです。

 第2、そもそも裁判所で門前払いされる可能性が大。

 翁長氏の提訴表明に対し、「防衛省関係者」は、「行政上の義務の履行を求める訴訟を審判対象ではないと判断した「宝塚パチンコ訴訟」の最高裁判決(2002年7月9日―引用者)を挙げ、「今回も法律上の争訟にあたらないだろう。われわれは淡々と工事を進めるだけだ」との見通りを示した」(8日付沖縄タイムス)といいます。

 この最高裁判決について県側の弁護士は「自治体と国民との間の訴訟に限定した判例」(8日付沖縄タイムス)であり相手が国の場合は違うとしていますが、「辺野古をめぐる重要な裁判で最高裁が判例を覆らせるかは非常に不透明」(武田真一郎成城大教授、8日付琉球新報)、というより可能性はきわめて小さいでしょう。

 結局、時間をかけた末に(その間、埋立工事は進行)、「審判の対象にあらず」として門前払いになる可能性が大きいのです。

 第3、もともと工事を断念させる提訴ではなく、逆効果。

 武田教授は、仮に裁判になり、県が勝訴したとしても、「国が岩礁破砕許可を申請してくれば認めざるを得なくなる」とし、「埋め立てそのものを止める訴訟にはなり得ない。暫定的な訴訟だと思う」(8日付琉球新報)と指摘しています。

 もともと埋め立て工事を止める(断念させる)訴訟ではない。それどころか仮に勝訴してもあらためて岩礁破砕許可を申請されれば認めざるをえない。認めれば、埋立工事を公認するようなもの。まさに新基地阻止に逆行する訴訟と言わねばなりません。

 第4、「撤回」を回避しながら「支持」を繋ぎ止める。

 このような訴訟を鳴り物入りで行う翁長氏の意図はどこにあるのでしょうか。

 「県の念頭には、市民団体から早期撤回を求める声が相次ぐ状況の中、「何もしていないと思われるわけにはいかない」と民意を意識した側面もある」(8日付琉球新報)

 その証拠に、肝心の「承認撤回」について翁長氏は、「承認撤回は十二分に検討に値する。撤回は一番重要な案件なので、時期や法的観点からの検討を丁寧に重ねたい。撤回は必ず行われるだろうと思う」(8日付琉球新報、知事会見一問一答)と述べ、「撤回を、力強く、必ずやる」と表明した3月25日の県民大会あいさつからまたまた大きく後退しました。

 「会見では埋め立ての承認撤回についても再三、質問が飛んだ。「撤回は必ずするのか?」。記者の問いに知事は「撤回は必ず行われるだろうと思う」と述べるにとどめた」「承認撤回については慎重な言い回しに終始した」(8日付琉球新報)

 第5、「オール沖縄」議員は蚊帳の外

 こうした翁長氏の言動(「撤回」の回避とアリバイづくり)が、与党である「オール沖縄」陣営の頭越しに行われていることも重大です。

 「知事会見の前日に与党への説明があったものの、提訴の情報はその数日前に報道が先行した。与党議員の一人は「与党への説明はいつも後手後手だ。…県と与党が情報を共有する必要がある」と゛課題”を口にした」(8日付沖縄タイムス)

 「与党議員の一人は…「県は専門家集団と話を進めていると思うが、なかなかわれわれに話が下りてこない」と不満を漏らす」(8日付琉球新報)

 不満を漏らす時間があったら、翁長与党=「オール沖縄」は翁長氏の独断専行に異議申し立てを行い、直ちに「撤回」させるべきでしょう。それが有権者・県民への責任ではないでしょうか。


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