アリの一言 

天皇制、朝鮮半島、沖縄の現実と歴史などから、
  人権・平和・民主主義・生き方を考える。
   

「国民」を憲法違反の道連れにする「天皇退位法案」

2017年05月20日 | 天皇制と憲法

    

 安倍政権は19日、「天皇退位」の特例法案を閣議決定し、国会に提出しました。この問題では、天皇制廃止へ向けた根本的議論こそが必要だと再三述べてきましたが、今日はそれはひとまず置いて、この法案自体の重大な問題点について述べます。

 与野党間ではすでにこれを成立させる合意(談合)ができており、メディアも基本的に容認したうえで今後の焦点は「女性宮家」問題だなどとしています。とんでもない話です。
 この法案は、多くの点で日本国憲法に反しています。そればかりか、「国民」をその憲法違反の道連れにしようとする稀代の悪法です。絶対に容認できません。

 ① 前代未聞、法律に「敬語」…中身の前に。同法案は第1条の冒頭から、「天皇陛下」「御活動」「御高齢」など、天皇に対する敬語のオンパレードです。敬語を使った法律など前代未聞です。もちろん憲法(第1章)も皇室典範も、天皇に敬語は使っていません。
 敬語は上下関係を表すものです。法律に敬語を使うということは、法律を決める国会、「国権の最高機関」(憲法第41条)である国会を天皇の下に置くものです。それは「主権が国民に存する」(憲法前文)主権在民の原則にも反すると言わねばなりません(ちなみに明治憲法ですら敬語は使っていません)

 ② 特例法で憲法の「皇位継承」ルールを変更…「皇位は世襲のものであって、国会の議決した皇室典範の定めるところにより、これを継承する」(憲法第2条)。「天皇が崩じたときは、皇嗣が、直ちに即位する」(皇室典範第4条)。これが「皇位継承」についての憲法・皇室典範のルールです。これを変えないで「特例法」で「生前退位」を認めるのは憲法に反する、というのが当初の野党の主張でした。その通りです。
 ところが結局、憲法も皇室典範も変えないまま「特例法」で「生前退位」を認めることになりました。政府・自民党に押し切られたのです。皇室典範の附則に「この法律と一体を成す」と書いたところで、皇室典範の改正にならないことは明白です。
 民進、共産など野党は、「憲法上問題」だと言ってきたことに対してどう釈明するのでしょうか。

 ③ 憲法にない「公的行為」を法律で公認…同法案は、「天皇陛下が…国事行為のほか…象徴としての公的な御活動に精励してこられた中…国民は…これらの御活動に精励されている天皇陛下を深く敬愛し…」(第1条)としています。これは「国民」の名を使って天皇の「公的行為」を法律で公認しようとするものです。
 しかし、「公的行為」は、「天皇の権能」を定めた憲法第4条に照らして問題だと指摘する憲法学者は少なくありません。横田耕一九州大名誉教授は、政府見解(1973年)を念頭に、「公的行為」を認めるかどうかは「議論のあるところ」としたうえで、「天皇は他の公人と異なりもともと儀礼的行為を行う権能しか認められておらず、しかも憲法はそれを憲法が明記するものに限定していること、などから、二行為説(天皇がなしうる行為は国事行為と私的行為の2つとする説ー引用者)が合理的であるように思われる」(『憲法と天皇制』岩波新書)と述べています。今回の法案はこうした「公的行為」に対する批判を一掃しようとするものです。

 ④ ゛天皇二人体制”図る「上皇」制度…同法案は「退位した天皇は、上皇とする」(第3条)とし、第4条で詳細を規定しています。その基本は、「上皇」については「天皇の例による」(第3条、第4条)、つまり国事行為を除く「公的行為」の分担や経済的保障、官僚体制などは天皇に準じるということです。
 すなわち「上皇」とは゛第2の天皇”にほかなりません。「上皇」が存在する限り、「天皇制」は゛二人体制”になると言っても過言ではないでしょう。これは憲法の「象徴天皇制」の実質的変更です。

 ⑤ 天皇の「政治関与」という憲法違反を「国民の理解・共感」で隠ぺい…今回の法案の最大の特徴はこれです。そもそも発端は天皇明仁の「ビデオメッセージ」(2016年8月8日)であったことは否定しようがありません。しかし天皇の「メッセージ」を受けて法律を作ったことを認めると、天皇は「国政に関する権能を有しない」(第4条)という憲法の規定に反することが明白になります。政府の操り人形である「有識者会議」が最終報告(4月21日)で、「天皇の国政への関与を禁じている日本国憲法の規定にも留意しつつ…」とわざわざ書いたのはそのためです。
 そこで法案はどうしたか。「天皇陛下が…天皇として自ら続けられることが困難となることを深く案じておられること、これに対し、国民は…天皇陛下を深く敬愛し、この天皇陛下のお気持ちを理解し、これに共感している」(第1条)ことを、特例法制定の理由に挙げたのです。
 天皇の「メッセージ」で法律を作ったのではない、天皇を「深く敬愛」している「国民」が天皇の気持ちを「理解」し「共感」し(いわば忖度<そんたく>して)、特例法を作るのだ、というわけです。あまりにも見え透いたこじつけです。天皇の「メッセージ」によって特例法が作られようとしていることは動かせない事実であり、それは天皇と安倍政権の明白な憲法違反です。
 この法案は、「国民」を天皇と安倍政権の憲法違反の道連れにし、隠れミノにしようとするものにほかなりません。

 以上は法律の門外漢である私の意見です。今こそ学者とりわけ憲法学者の出番です。この特例法は憲法に照らして許されるのか。明快な分析と勇気ある発言が求められています。
 すでに国会は、「天皇問題」では与野党が対立しない「翼賛化議会」となっています。このうえ学者・識者、市民も「天皇タブー」に侵されたのでは、前途は真っ暗です。

 ※当ブログは前身の「私の沖縄日記」から通算して、今回で1000回になりました(第1回は2012年11月26日)。読んでいただき、誠にありがとうございます。もし少しでも参考になると思っていただけるなら、「アリの一言」をお知り合いに薦めていただけませんでしょうか。私ももっともっといいものになるよう努めます。

 


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