【涼宮ハルヒの憂鬱】佐々木ss保管庫

2chの佐々木スレに投稿されたssの保管庫です

佐々木スレ4-881 「夜の学校」(1)

2007-04-30 | その他佐々木×キョン

881 :夜の学校 1/7:2007/04/30(月) 00:15:37 ID:aKmhGK83
「夜の学校」

 あれは、第一回裏SOS団とのミーティングというか宣戦布告というかが行なわれた日
の夕刻のこと。ちなみに裏SOS団というのは、極私的な体内空間、すなわち俺にのみ
有効な彼らの名称である。橘たちは適切な名称を俺に告げなかったし、とりあえずそう
呼ぶことにした。長門ではないが、命名することで見えることも、見えなくなるものもあ
るだろうが、敵性団体にはまず呼称が必要だからな。

 夕食を終え、風呂も済まし、あとは明日、月曜日の平日強制ハイキングに備え、睡眠と
いきたいところなのだが、いかんせん、久々の非現実空間への移動によって、頭の中の
回線が変な繋がり方でもしてしまったのか、目が冴えて一向に眠くはならなかった。
まいったね、まったく。
 枕元に置かれた携帯電話兼目覚まし時計が、コール音を鳴らしたのはそんな時だ。
古泉や長門から連絡があるかもしれないと思い、携帯への注意を怠らなかった俺は、
半コールで電話を取った。取った瞬間、見慣れない11桁の番号がディスプレイされていた
ことに気がついたが、通話ボタンはすでに押していた。

「夜分に申し訳ないね……もしもし?」
 佐々木だった。お前にこの番号を教えた記憶はないんだがな。
「挨拶もそこそこに連れないことを言うね、キミは」
 こんばんは。思い出したとばかりに返した挨拶に佐々木は、くつくつといつもの笑みを漏らす。
「ちなみに、番号はキミに連絡を取る関係で、橘さんが教えてくれたよ。昨日は自宅に
連絡したのは、そのことを伝えるのがいやだったからだ」
 俺の頭の上に浮かんだ疑問符を見ていたかのように、佐々木は疑念を解いていく。
「携帯の番号を伝えた記憶のない昔の女から、突然に電話が掛かってきたら、キミは警戒
するだろう。それに、自分の携帯に番号を登録していない人間からの電話には出ないように
している人も多いと聞く。そして問題は内容だ。留守番電話に吹き込んだのでは無視され
かねない誘いであったからね。直接、話したかったんだ……キミと」
 否応なく佐々木との関係が変化していることに俺は気がつかざるを得なかった。俺は
佐々木を敵として認識しているのだろうか、旧友が連絡を寄越してくれたことに、まった
く喜びを感じられないってのは……結構、来る物だな。佐々木を土俵に上げてしまった
橘一党に対して、昏い気持ちが浮かぶのは避けられなかった。
「……それで、一体何の用だ? お互い、明日は学校だろう。夜更かしは身体に毒だぜ」
 だから、言葉には刺が潜んだ。自分の情けなさに涙が出そうになる。佐々木は巻き込ま
れただけじゃないか、被害者だ。お前には責任はない、ないはずだ。
 その時、こつんと窓に何かが当たった音がした。携帯を右手に窓の外を見下ろす。
そこには、昼にあった時と同じ格好の佐々木が立っていた。
「これから、出てこれらないか、話がしたいんだ。ふたりだけで」
 わかった。短くそう告げて、あわただしく寝間着を脱ぐ。脱ぎ捨てていた服を身につける。
なんだよ、なんなんだよ、一体。なぁ佐々木、なんでお前はそんな今にも泣きそうな顔を
しているんだ。足音を忍ばせて、階段を下り、慎重に玄関を空け、俺は夜気の中に出た。
 春とはいえ、夜は少し冷えるな。


882 :夜の学校 2/7:2007/04/30(月) 00:17:29 ID:aKmhGK83
「すまないね、こんな時間に、親御さんには見つからなかったかい」
 俺の姿を確認した佐々木は、小走りにやってきた。頭を振って、応える。
「で、佐々木、話って?」
 そう尋ねる。佐々木は俺から視線を外すと、
「少し歩かないか、久しぶりに」
とつぶやいた。
 こんな佐々木は見たことがないように思えた。我がSOS団の団長サマと違って、
コイツはいつだって、論理的で冷静な判断と行動を常としていた。友人として、佐々木の
そういう所は嫌いではなかった。だが、昼間のこともある。佐々木だって、迷ったり戸惑う
ことだってあるはずだ。
 ほう、とひとつため息をつき、駅方面に進路を取る。こんな時間でもやっている喫茶店
には何軒か心当たりがあった。一年にわたる不思議探索と称したフィールドワークの
数少ない成果だ。
「いや、キョン、そっちじゃない。こっちにいかないか」
 佐々木が指示したのは、かつて一年と少し前まで毎朝、移動していたコース。つまり、
俺の出身中学校への通学路だった。
「こっちには、なんにも店なんかないぜ、知ってるだろ」
 そんな俺の声を無視して、佐々木はさっさと歩き出した。ふう、どうして俺の知っている
神様はこう人の話を聞かないかね。まぁ、いいさ、佐々木には佐々木の目的、考えがある
のだろう。アイツの計画に乗ってやろうじゃないか。
「この道を歩くのも一年以上ぶりだな。キミはどうなんだい、キョン」
 俺も同じようなもんさ、一日が判で押したように決まり切ったスケジュールで行動する人間
は関係ない場所にはなかなか足を向けない物だ。俺たちと、あの学校との縁は切れてしまっ
たんだ。「そうだね、卒業するということはそういうことだ。いつだって、来ることができる、そう
思っていたのだけれどね」
 仕方のないことさ。日常の日々の忙しさの中に、思い出は勝手に埋没してしまう。
 それが生きるってことだろう。
「ああ、その通りさ。月日は百代の過客にして、光陰は矢のごとしさ」
 命短し、恋せよ乙女ってか。
 茶化した俺に合わせるように、佐々木はククッといつもの微笑みを浮かべた。
「まったくだ。まったくだよ、キョン。さぁ、ついた」
 そう言って、佐々木は振り返った。
住宅街を抜けると、視界は突然に開ける。そこには、俺たちの通った中学校があった。
 中空には春の朧月。
 青い月光に照らされた佐々木は、なぜだが、現実感がなかった。


883 :夜の学校 3/7:2007/04/30(月) 00:19:32 ID:aKmhGK83
 それでだな、佐々木よ。お前はここまで俺を連れ出して、何をしたかったのだ。
 と学校の外壁に沿って一面ほど移動した後に佐々木の背中に問いかけた。
「いやぁ、やはり物事というのは物語のようにうまくは行かない物だね。フェンスに入れ
そうな破れ目のひとつもあるかと思っていたのだが」
 ん? なんだよ、学校に入りたかったのか? そんなら早くそう言えっての。
 俺は佐々木と連れだって、裏門を目指した。裏門の横の所には代々受け継がれた男子
生徒御用達の抜け道があるのだ。
 スカート引っかけないように気を付けてな。
 後ろを行く佐々木に声を掛けながら、校舎裏に降り立った。
「ちょ、ちょっと高いな」
 躊躇する佐々木の声が聞こえる。
そうか、女の子にはちょっと厳しかったかな、そう思い振り返る。
「あっ、ちょっ……振り返っては行けないぞ、キョン」
 慌てて、回れ右、マイクロミニの女の子を下から見上げてはイケナイ。とりあえず、
佐々木の両手で隠されたシークレットエリアは見えなかった、ことにしておこう。
 ほら夜だしな。
 そうはいっても、ここまで来た以上、降りられないというわけにもいくまい。スカートを
ちゃんと押さえておくように伝えた俺は、両手を壁について、中腰の姿勢を取る。
「ほら、俺の肩を踏んで飛び降りろ」
 こうすれば、1m弱、女の子でも、飛び降りられない高さじゃない。
「すまないね、靴を脱ぐから、少し、目をつむっていてくれたまえ」
 俺の伏せた頭の斜め上で、ごそごそと動く気配がする。
 別に、そのまま踏んで貰っても一向に構わんがね。
「そうなのかい。キミにそのような特殊な性癖があるとは思いもよらなかった」
 こらこら、何を言っているんだ。俺を勝手に……。
「こら、頭を上げるなよ、恥ずかしいじゃないか」
 ぎゅむっと、俺の肩に佐々木の右足が置かれたのが分かる。一応言っておくが、
体重を掛けずに、軽く飛んでくれ。
「ああ、了解だ」
 ぎゅっと一瞬、肩に体重が掛かり、気配で、佐々木が飛んだのがわかる。
「きゃ」
 そして、続く悲鳴は佐々木が転んだことを俺に知らせてくれた。
 おいおい、大丈夫か?
「自身の運動不足を感じてしまったよ、体育の授業だけでは不足なようだ」
 差し出した手に掴まって立ち上がりながら、佐々木はそんなことを言っていた。
 やれやれ、まったくだぜ、足をひねったりしていないか?
「うむ、大丈夫なようだ。少し腕を貸してくれ、靴を履くから」
 あいよ、お安いご用だ。俺に掴まったまま佐々木は片足立ちで靴を履く。
「さ、体育館の方に回ろう、そこが目的地さ」


                                    「夜の学校」(2)に続く