【涼宮ハルヒの憂鬱】佐々木ss保管庫

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佐々木スレ4-901 「ポーカーフェイス」

2007-04-30 | その他佐々木×キョン

901 :ポーカーフェイス 1/4:2007/04/30(月) 00:45:50 ID:nznsb2Ct
いきま~す。アニメ、ゲーム等の台詞を拝借してる箇所あり。


「涼宮さんは、キミにとってどういう存在なんだい?」

 私用で街まで出てきたら偶然佐々木と出会い、春休み最後の日と同様、四方山話に花
を咲かせていると佐々木がこんな質問をしてきた。
 どんな、ね。前にも同じような事を考えた覚えがあるが、あれは夢の中の話だったはず
だ。佐々木に対してハルヒはハルヒであってハルヒでしかないっちゅうトートロジー的誤魔
化しは通用せんだろうな。

「トートロジーか。むつかしい言葉を知っているね」
「お前に教えてもらったんだ。中学の…いつだったかは忘れたけどな」
「そうだったかい?光栄だよ。僕の拙い言の葉を未だ記憶に留めて置いてくれているなん
てね」

 おそらく語彙力においては佐々木より遥かに劣るであろう俺には佐々木の言葉が拙かっ
たどうかはいまいち判別しかねるが、実際こいつから教えられた事は結構多いんだ。俺と
佐々木は会話するというよりは、俺が佐々木の言葉に聞き入っている感じだった。佐々木
の話はすんなり聞けるのに、あの終日無害スマイル野郎の話は聞くのが時折億劫になる
んだよな。

 …話が逸れてるな。さて、ハルヒは俺にとっていかなる存在か。
 ハルヒはもはや北高の関係者で知らぬ者は居ないというほどの有名人。北高ならずとも、
宇宙、未来、謎の組織にまで一目置かれている変態パワーの持ち主、であるらしい。
 では俺にとってはどうなのか。”あいつ”の存在を、俺はどう認識しているのか?
 思考がループしてやがる。これじゃあの時と同じだ。何、そんなに難しく必要はなかった
んだ。俺は素直に思ったこと言った。

「ハルヒは、お前も知っての通りよく分からん力の持ち主らしい。でもだからって捻くれた奴っ
て訳じゃないんだぜ?まぁ初めて会った時はそうだったかもしれんが、最近はだいぶ丸く
なってきててな。クラスの連中とも結構話すようになってる。SOS団なんていう集まりを作っ
ては皆でバカ騒ぎしたり、生徒会にたて突いたり、色々と行動力がある奴なんだよ。わが
ままで自分勝手で、やることなすこと全てが常軌を逸してるな。いや、別に非難してるんじゃ
なくてな。そりゃあ、いつも振り回されるのは俺なんだがな。もぅ慣れちまった。今では逆に
目を付けてないと何しでかすか分かったもんじゃねぇ。古泉も朝比奈さんも長門も、ハルヒ
に意見する事を一向に覚えねんだよ。全く、少しはこっちの身にも…どうした?」

 佐々木は、声帯をわずかに振るわせるだけ独特の笑い声を上げていた。この笑い方は
こいつの中学の頃から変わっていないものの一つだ。しかし、どこが笑うような所が?俺
は何かおかしな事を言ったか?

「くく。いやキョン。キミが涼宮さんについて話す時は実に明々としていて、瞳も輝いている
ように見えたものだからね」

 そうなのか?自分ではそんなつもりは毛頭ない。愚痴を言ってるつもりだったのだが。

「僕が言うのだから間違いはないさ。僕はこれでもキミの表情、気持ちを読み取る事に関
しては優れた観察眼を持っていると自負しているのだよ。くっくっ、キミのあんな顔は中学
三年の時、キミと最も会話したであろう僕ですら見た事がない。よぉく分かった。キミが涼
宮さんの事をいかに好きであるか、がね」

 ”好き”って。おいおい、何を言い出すんだ。


902 :ポーカーフェイス 1/4:2007/04/30(月) 00:47:53 ID:nznsb2Ct
「以前、キミに質問をした事があったろう?『愉快な高校生活をつつがなく送れているか』と
いうね。キミはその時、『面白いとさえ思っている』と言ったんだ。覚えているかい?キミが
そのように思えるのは、他ならぬ涼宮さんのおかげではないのかな」

 それは認めるが、だからって俺は別にハルヒが好きな訳じゃねぇ。

「ほぅ?では嫌いなのかな?」

 佐々木。そんな小学生みたいな意地悪な質問はやめろよ。お前らしくもない。

「好きか嫌いか、そのどちらかでないといけないのか」
「そうだよ。男と女の間柄はね」

 お前、前に恋愛感情なんてのは精神病の一種だとか言ってなかったか?

「それはあくまで、僕がそう考えていただけの事さ。他人の恋愛観にまで口出しする趣味
はないよ」

そう考えてい”た”?

「…そう。過去形なんだ。今の僕は当時の僕と違う恋愛観を持っている。世界の変容はイ
コール、価値観の変容だと前に言ったね。実を言うと、あれは僕の経験則なんだよ。ある
事に気付いてしまったが為に、世界がまるで色褪せたかのように見えてしまう事もある」

 いつの間にか佐々木は俺から目を逸らしていた。佐々木の話を聞く時にセットで付いて
くるあの輝くような瞳は、俺の目には届いていない。
 色褪せた世界。俺は古泉や橘が見せた、ハルヒと佐々木の閉鎖空間を思い出していた。
両者とも見た目は違えど、明らかに通常の空間とは異質と言える場所。佐々木には、世
界があのように素っ気なく見えているというのだろうか。

「一体、何に気付いたんだよ。世界が色褪せたかのように見えちまう程の」

 佐々木は視線を虚空へと固定したまま答えた。

「キミに話したところで、どうにかなるとは思えない」

 俺がこの台詞にかなりショックを受けた事を白状せねばなるまい。そりゃあ中学の頃、佐々木の
話に目から鱗を落としまくってたのは他ならぬ俺だ。いつも佐々木の言う事にいちいち感銘を受
けはしたものの、俺自身は気の利いた事はあんまり言えなかった。それでも佐々木は、例え俺が
馬鹿な質問をしようとあの笑みを浮かべてそつなく答えてくれたんだ。
 それが今は、まるで突き放すかのような態度だ。佐々木は俺の様子に気付いたのか、皮肉な笑
みを口元のみに湛えながら言った。

「…失敬。僕とした事が、キミに当たるような真似をしてしまった。許して欲しい。でもね、本当にキ
ミに話してもどうにもならない事なんだよ。これは僕自身の驕りと怠慢とによって生じた言わば必
然だ。キミがかなり”鈍い”なんて事は理解していたはずなのに」

 佐々木はしばし何かを考える素振りを見せた後、

「キョン。人は若い時、時間が無限にあると錯覚するものだ。でも実際はそうじゃない」

熱心な高校教師が言いそうな事を言い出した。


904 :ポーカーフェイス 3/4:2007/04/30(月) 00:49:14 ID:nznsb2Ct
「今の高校生活が楽しいと思えるのは何よりだよ。しかし、キミの所属するSOS団だって、いつま
でも存続し続けられる訳じゃない。だから、現在の楽しさ、愉快さにかまけていると本当に大切な
ものを見失い、ひいては誰かにとられてしまう可能性もあるんだよ。キミにはそんな経験をして欲
しくはない」

 佐々木の顔つきは真剣そのものだった。佐々木は真面目に話をしているのだ。ならば俺も真摯
な態度で聞かねばなるまい。
 佐々木は俺の事を心配してくれているようだ。昔も俺の成績を気に掛けてくれたもんだっけ。解
らない問題があれば、丁寧に解説してくれてさ。何だかな、今思うと随分と懐かしい気がする。
 


 俺と佐々木は暫く無言で歩き、俺が自転車を置いてる駐輪場に着いた。

「自転車で来たんだな。キョンは」
「ん?お前は歩きか?」
「いや、バスで来たのだよ」

 あの迂遠な道のりを往くバスか。俺は中学の頃の塾の帰り道、一人でバスに乗り込む佐々木を
思い出しながら言った。

「何なら、乗るか?」

 後ろの荷台を示しながら尋ねる。佐々木の目にふと輝きが戻ったように見えたのは、多分気の
せいだ。佐々木は少しばかり考える素振りを見せた後、

「遠慮しておくよ。今、そこに座るべきは、きっと他の誰かであろうからね」

くく、と最後に付け足してそう答えた。

「…なぁ佐々木。こんな事言うと笑われるだろうけどさ、中学ん時、お前に言えなかった事がある
んだ」
「ほぅ。何かな?」

 佐々木は首を傾げながら俺の目を覗き込んでくる。ホント変わらねぇな、そういう仕草とかさ。

「俺…さ。昔、お前の事、好きだったんだぜ」
「…………………ぇ……?」

 佐々木は絶句し、俺の言う事が何一つ理解できないとでも言わんかのような顔をして、大きな
瞳を見開いていた。そりゃあそんな反応もされるだろう。いきなり何を言い出すのかと思えば、愛
の告白と来た日にゃあ俺だってこんな顔になるさ。

「…く…くっくっくく…くくぁっはっははははは!あっはははは!!」

 佐々木は腹を抱えて笑い出した。見事な笑いっぷりだ。「腹を抱えて笑う」というのをここまで見
事にやってのける輩もそうはいまい。しかし佐々木が―あの佐々木が―ここまで声を大にして大
笑いするとは予測できなんだ。てっきり失笑されるものだとばかり思っていたからな。

「くふっ…くっくっ…キョン。前言を撤回させて欲しい…くくっ…キミの気持ちを読み取る事には自
信があるとか何とか言ったが、それは僕の思い上がりだったようだ。はは、キミはとんだポーカー
フェイスだ。くくく」

 佐々木は笑いをこらえながら言ったが、我慢出来なくなったのかまた笑い出した。


905 :ポーカーフェイス 4/4:2007/04/30(月) 00:50:42 ID:nznsb2Ct
 『お前、佐々木とはそんなんじゃないとか言ったろ?』『あれは嘘かい!』とかいう非難の声が聞
こえた気がするので言い訳をさせてもらう。佐々木は見ての通り整った容姿をしており、加えて俺
なんかより遥かに頭も良い。男子相手には男のような口調で話すこいつの特徴も、俺にはむしろ
気兼ねなく話せる要因となり、同じ学習塾に通ってて自転車の後ろにこいつを乗せては色々と話
すのは、正直楽しかった。他の女子とは話さなかった訳じゃあないが、そんな風に楽しいと思える
のは佐々木と話してる時だけだった。こんな気持ちを世間一般では恋とか言うんじゃないのか?
 
 『言い訳になってねぇ!』まぁ待てよ。話は最後まで聞け。確かに、俺は佐々木が好きだった。で
もそんな感情は俺だけが持ってても仕方がないだろ?俺が一方的にそういう類の好意を抱いて
ても、当の佐々木にその気がなきゃ意味がないさ。クラスの男子どもから聞いた話では、佐々木
は告白されても毎度、『申し訳ないけど、鄭重にお断りさせてもらうよ』と、いつもの調子でさっぱり
と断っていたという。恋愛なんて精神病とまで言うのを耳にした俺が、告白するなんて決意出来る
わけもなく、ただただ時間だけが過ぎていったのさ。

 『恋愛体験あるじゃんか…それならその話を文芸部の会誌に載せろよ』いや、それはさ、神の見
えざる力が働いたんよ。それに照れくさいだろ?自分の実らなかった恋話なんざ。…逆に聞かせ
てもらうが、俺の―”俺の”だぞ?―片思いの切ない気持ちを綴った文章なんて読みたいか?

 
 …って佐々木。お前はまだ笑ってるんかい。いくらなんでも笑いすぎだろ。笑いすぎで涙出てる
じゃねえか。

「っはははは、え? ああ、すまない…くくく…おかしいな。笑いが止まらないよ……涙も…くくくふっ
ふっふ…」

 数秒後、佐々木はようやく落ち着き、ハンカチで涙を拭きながら笑いすぎた事に対する侘びの
言葉を述べた。まぁ、別にいいけどな。

「キョン、こんなに笑ったのは久しぶり…いや、ひょっとしたら生まれて初めてかもしれない」
「お前、あんな風にも笑えたんだな」
「僕自身驚いている。礼を言うよ。おかげで色々と吹っ切れた」

 佐々木の瞳は、今までとは違う輝きを帯びていた。あんな話で元気が出たなら何よりだ。

「…キョン。確認させてもらうが、『昔は好きだった』のであって、今はそうじゃないんだな?」

 今、はな。いや、でも友達、親友としては好きだぜ?

「くく。そうかい。今はそうじゃないからこそ言えた訳か…」

 そうだな。今も好きだったら流石に言えねぇよ。情けない事に。

「意外と根性なしなんだな」
「ほっとけ」
「くっくっくっ」



   終

いいオチなんて思い浮かばないのさ