【涼宮ハルヒの憂鬱】佐々木ss保管庫

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佐々木スレ4-881 「夜の学校」(2)

2007-04-30 | その他佐々木×キョン

885 :夜の学校 4/7:2007/04/30(月) 00:23:10 ID:aKmhGK83
 体育館までは特に話はしなかった。考えてみれば、夜の学校に不法侵入なんて、在学中
にはしたことはなかったな。夜の人気のない建築物は、昼間には見せない顔を見せる。明日
の朝には、後輩たちがやって来て、ここも騒がしくなるだろうに、今の校舎は廃墟、あるいは
巨大な生物の死体を思わせた。
「やっとついたね、思わぬ大冒険だ」
 俺たちふたりはカマボコ型の体育館を見上げていた。しかし、どうして学校の体育館と
いうのはそろってこんな形をしているのかね。
「その構造上、体育館には柱が作れないからね。構造力学的にはドーム型の屋根を持つの
は理に適っているよ。そしてバスケットボールにしろバレーボールにしろ、球技の多くは長方形
のコートを使用するからね。自然体育館は長方形でドーム型の屋根を持つ建築物となる。
有り体に言えば、カマボコ型だ」
 お前の講釈を聞くのも、久方ぶりだ。聞き慣れない感じがするのは、今の俺にも講釈好き
の友人がいるからだろうか。
「例の古泉さん、かい。橘さんと同じく自称超能力者の」
 ああ、お前と話が合うような物知りだぜ。
「ふふ、あの春物のジャケットがよく似合っていた二枚目だね。ただ、話が合うかは分か
らないな。僕がこういう話をするのは、キミに対して、だけ、だから」
 ん、そうだったか? 記憶を探るが該当するものは思い至らなかった。
「女子の友人相手にこんな話をする機会もその気もないよ、それくらい想像するまでもな
いだろう。そして、男子には僕は微妙に敬遠されていたからね、まぁ嫌われてはいなかっ
たが、こういう話をする相手でもなかったということさ」
 そういうもんかね、適当な相づちを俺は打っていた。
「そういうものさ。キミは得難い聞き手だったよ、この一年で、それはよくわかった。
キミはキミ自身を平々凡々たる人類の代表のように思っているかもしれないが、僕にとって
はそうではなかった。それを理解できただけでも、この一年は意味があったのかもしれない」
 なんだか、気恥ずかしくなるな。俺はそんな風に評価されるのは苦手なんだよ。
こちとら、保証書付きの一般人なんだ。
「そのキミがカギなのだと、聞いたよ。涼宮さんの、そして世界の」
 そんなことまで話していたのか、だけど、世界ってのは大げさすぎるぜ。
「涼宮さんが世界の創造者なのかもしれない、それは本来では僕の役割であった、とそう聞かされた」
 信じるのか、そんな戯言にもなっていないような言葉を。
「さてね、判断するには材料が足らなすぎるよ。ただ、今日わかったことがある。キミだ、
キミはその話を聞いても、笑うことはなかった。それどころか、怒っていた、ねぇキョン、
それはなぜなんだろう。ああ、答える必要はない、もうわかっている。キミが信じている
のだ、涼宮さんの力はあるのだろう、ん、これは正確ではないな。現代の物理法則を
越えた出来事をキミは体験している、だから橘さんの言葉を無碍にできなかったのだ。
そして涼宮さんの軽んじる彼女の発言に怒りを覚えていたのだ」
 ぐうの音も出ないというのはこういうことだろうか。
 佐々木は相変わらず、確かな観察眼を持っていた。
 そこまで言い切られちゃな、弁解も言い訳も無駄なことなのだろう。
 だから、俺は沈黙した。
「キョン、キミの意見を聞かせてくれ。僕は僕のものだというその力をどうすべきなのだろうね」
 こうなった以上、これはお前の問題だよ、佐々木。そして、その質問には昼間に答えて
いるはずだ。
「そう、だね。うん、実のところ、僕にはそんな力はいらない。僕は目立たず、ひっそり
と生きて生活できればそれで十分だ。ただ……」
 ただ? ただ、何だって言うんだ。


887 :夜の学校 5/7:2007/04/30(月) 00:27:05 ID:aKmhGK83
「ただ……、そこにはキミがいなんだ、キョン。キミがいない。去年、卒業式の後、
キミとここで別れた。半年間は気がつかなかった、日々の忙しさにかまけているフリを
して、そのことから目をそらして、気がつかないフリをしてた。残りの半年間は、あきら
めようとした。仕方のないことだから、と。自分からキミに連絡を取ることはできなかった。
 何を言っていいかわからなかったから、寂しいと伝えてそれが何になるのか、わからな
かった。春先にキミの噂を聞いた、何か変人と一緒に連んでいると、それがとても可愛い
女の子だって、僕とキミはもう終わってしまったのかって、終わるも何も始まってもいな
かったんだ。だけど、そんなのはただの言い訳だ。恋愛感情なんて意味のない物だと
思っていた。中学の頃の僕は十分に満たされていた、そう、キミがいたからだ。僕らには
恋は必要なかった。僕にはキミがいて、キミには僕がいた。それで十分だった。
 そうだろう、キョン。ああ、キミは優しい人なんだな、恥ずかしがる必要はないよ。
それは美徳なのだから、まぁもっともそれを悪徳と見る哲学もあるけどね。
 ああ、すまない。話がそれたね。ついつい逃げそうになるよ、僕はいつもより饒舌だろう」
 佐々木の告白を前に俺は圧倒されていた。そして、申し訳なさが胸に染みた。すまない、
佐々木。俺は、自分の不思議ライフに一所懸命で、お前のことを思い出すことすらほとん
どなかったのだ。
「いいんだ、キョン。これは僕の感情だ。いま、僕は本来の僕のポリシーとは180度、
違うことをしている。こんなのは僕じゃあない。だけど、聞いていて」
 佐々木は寂しげで、その上でとてもそう艶やかな笑顔を見せた。こんな風にも笑うのだな。
俺はそんなことを思いながら、佐々木の告白をただ聞いていた。
「……夏休みにキミの姿をみた。涼宮さんたちと楽しげに街を歩くキミを、キミの横で
涼宮さんはとても綺麗な笑みを浮かべていた。青春を謳歌するとはこういうことなのだろう。
素直にそう思った。そして、どうして僕はキミの横にいないのか、そう思ったんだ。
 今思うと、僕が僕の感情の正体に気がついたのはその時だった。ああ、あの夏の日は
ずいぶん遠く感じるよ。何十年も何百年も前のような気すらする」
 お前が俺たちを見たのが、何回目かは知らないが、実際に何百年も前のことだったの
かもしれないな。去年の夏は特別に長かったんだ。
「秋に北高の文化祭に行こうかとも思った。だけど、キミに会って、話すことなど何も
なかった。キミの心がわからない。キミになんというか、古い友達のように扱われる
ことが怖かった。勇気がでなかったんだ」
 その前と後はともかくとして、文化祭の最中は極めて暇だったんだがな。
 まぁ、今年はどうなるかはさっぱりだが。招待状は送るとしよう。
「ありがとう。必ずよらせてもらうよ、日程が分かったら、教えてくれ。きっちり予定に入れておくから」
 そんな大層な物じゃないぜ。
「映画を撮ったと聞いたよ、ちなみに僕の趣味のひとつは映画鑑賞なのだ、特に低予算の
娯楽映画が大好きだ。もっとも自主製作映画まで守備範囲にしているわけではないが、
知っている人間がメガホンを取っているというなら話は別さ……おっと、また話がずれて
いるね。ふふ、やはりキミは聞き上手だ」
 お前が何を話したいかはわからなくもないが、やっぱり、その恥ずかしいな。
 身が持たないとはこういう気持ちをいうのかね。
「恥ずかしいのは僕も一緒だ。ただ、それ以上に一年分、キミに告げたい言葉は貯まって
いるのさ。もうすぐ終わるから、おしまいまで黙って聞きたまえ」
 はいはい、仰せのままに。佐々木に続きをうながす。


889 :夜の学校 6/7:2007/04/30(月) 00:32:36 ID:aKmhGK83
「……正月に年賀状をくれたね、ありがとう。ちなみに切手シートが当たったので、
キミへの手紙にはそれを使わせてもらうよ。僕は忘れられたわけじゃない、そのことが
とても嬉しかった。こう言っては何だが、僕は平静を装うのが、その得意でね。僕には
深い絶望はいらない、だから高い歓喜もいらない。そう思っていたのだが、人生ままなら
ないものだ。特定個人からの私信がこれほど嬉しく感じられる物なのかと、とても驚いた。
 二月のね、バレンタインの時も、さんざん迷ったんだ。僕は意気地なしだ。結局、渡す
こともできず、自分で食べた。あんなにしょっぱいチョコレートは味わったことがなかったな。
そう思えば、キミに渡さなかったのは正解なのかもしれない。しかしだね、キミも悪いのだぜ、
バレンタインの近辺はほとんど家にいなかったじゃないか」
 ああ、あの一週間も記録的に忙しかったな、そんなことを思い出していた。
「きっと、涼宮さんは素敵なチョコを渡してくれたのだろうね、ああ、いい。そんな
のろけ話を聞かせないでくれたまえ。そんな言葉を聞いたら、どうにかなってし
まいそうだ。そうそう、橘さんたちと出会ったのはそんな頃だった」
 そうか、あの一週間、そして誘拐未遂事件は、さまざまな意味で転機だったのだな。
俺の知らない所でさまざまな事象が動いているのだ。
「最初は、なんというか、戸惑った。だけど、キミのことを聞いた。キミが唯一、涼宮ハルヒ
に選ばれた人間なのだ、と。一般人、どこにでもいるようなキミという個人が涼宮ハルヒ
に選ばれたのがわからない、と聞いた」
 そう、その謎は今だってわからない。この世で何が分からないって、その事が、
俺がなぜ選ばれたのか、それが一番の謎なのだ。
「僕にはわかる、キミがなぜ涼宮ハルヒに選ばれたのか。涼宮さんも同じなんだ、僕と。
共に同じ目線で、世界を見てくれる人がいるなら、世界は輝かしい物になる、丁度一年前の
僕にとって、世界がそうであったように。そして、現在の僕の世界が色あせているのが
その証拠だ。世界の変容とは価値観の、物の見方によるものだ、そうキミに告げたね。
三月の終わり頃に」
 あの日の佐々木から、そんな言葉を聞いていたような気もするが、正直、確かにといえ
るほど覚えてはいなかった。
「自分だけじゃダメなんだ。ひとりの世界では、人間は生きては行けないんだ。キョン、
聞いてくれ。僕にとって、キミはそういう存在だ。こんな気持ちになるなんて、こんな感情
があるなんて、僕は知らなかった、知りたくもなかった。でも、知ってしまった。僕の世界
は変わってしまった。そう、キミがいないからだ。キミは僕の世界にとって欠かざる一片、
マスターピースだった」
 泣き叫ぶように、雨のように、佐々木はそう俺に、言葉を投げかけた。俺は石になって
しまったかのように、固まっていた。なんて、言ったらいい、こんな姿の佐々木なんて知
りたくなかった。こんな言葉は聞きたくなかった。だけど、すがりつくような佐々木の瞳は、
中坊の頃によく見た輝きに満ちていた。そうだ、佐々木はいつだって、瞳を輝かせていた。
受験勉強だって、日々の生活だって、楽しそうだった。
 それは俺といたからなのか、お前の世界に、俺は必要な物だったのか。
「キョン、聞いてくれ。僕はキミと共にいたい。この気持ちが恋だと言うなら、僕はキミに
恋している、この気持ちが愛だというのなら、僕はキミを愛しているのだ。僕はキミと共
にいたい、キミと同じ目線で、同じ物を見て、同じ言葉を聞きたい。だから、僕は……
キミと僕の間にある障害はすべてクリアする。そのために力が必要なら、手に入れてみせる」
 一体、お前は俺に何を望んでいるんだ。俺はお前に何をしてやれるのだろう。
「別にして欲しいことなどない。だって、僕の望みは、キミと共に在ることなのだから。
敢えて言うなら、そうだね、差し当たって、僕の気持ちがキミにとって、嫌悪の対象では
ないのなら、僕を抱きしめて欲しい、安心させて欲しいんだ、僕がひとりではないことを……」
 その言葉が終わる前に俺は思わず、佐々木を抱きしめていた。腕の中にある佐々木の
両肩は、小鳥のように震えていた。そうか、怖かったんだな。
 佐々木の心臓の音を感じる。なぜだか、そうしているのがとても自然だった。
「人間というのは強欲なものなのだなぁ。まったく救いがたいというものだ」
 いきなり、なんだよ。


890 :夜の学校 7/7:2007/04/30(月) 00:35:23 ID:aKmhGK83
「欲求と幸福には限界がないということさ。そうだね、第一段階をクリアしたら、即座に
さまざまな欲望と希望と願望がポップアップしてきた、だからね、キョン、メアドを交換
しよう。キミに対する言葉を僕に溜め込んでしまう前に解消するのに、それはとても便利
な機械となるはずなのだ」
 俺の腕の中で、佐々木はそういって微笑んだ。見えてなかったが、その位はよくわかる
のさ、俺のような鈍感な人間にもな。


 その後のことは、特に記すことでもない。俺が寝不足になったのと、携帯電話の会社に
プラン変更を依頼したくらいだ。
 ほら、月曜、それからその後も、いろいろあったからさ。こういうことを伝えるような
状況じゃなかったろ。
「まぁ、言い訳はその程度でいいでしょう。僕はこのことについて、あなたに対して、
怒りをぶつけても構わない立場である。そう認識していますが、その辺りをあなたは
どうお考えですか?」
 涼しい顔をして、意味不明な抗議をする二枚目フェイスに俺は言ってやった。
 なんで、お前に俺の恋愛関係に文句を言われなきゃならんのだ。お前は馬に蹴られたい
のか、ってね。
 そんな訳で、その日、高校に入って俺は初めてマジな殴り合いのケンカをした。
 結果は俺判定で俺の判定勝ちという所だ。
 ただ、ご丁寧にナース服を着て、おろおろと、傷の手当てをする朝比奈さんに対しては、
申し訳ない気持ちで一杯になった。ケンカ両成敗だし、お互いにその理由については何も
言わなかったからな。
 長門は、俺の顔を一瞥した後、読んでいた文庫本にそのまま視線を落とした。
 長門にしては珍しくそれはティーン向けの小説、いわゆるライトノベルだった。
 ちなみに、ハルヒは「バッカじゃない」と一言で俺たちを切って捨て、窓の外を見ていた。
その日は、結局俺と目を合わそうとはしなかったな。
 やれやれ、いいさ。
 俺は俺の世界を盛り上げるために戦い続けるだけの話だ。まぁ、どんな時にも、一緒に
いてくれるヤツがいるってのは心強いもんだね。
 あ、メールが来てるな。


891 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/04/30(月) 00:36:19 ID:aKmhGK83
 以上、おしまい。支援ありがとう。
分岐がたのSSって難しいね。


915 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/04/30(月) 01:51:37 ID:I4H2wX4l
>>891
古泉と殴り合いをしてる、ってのも斬新でいいな。
しかし、個人的にはハルヒの方が好きなんだが、これで佐々木教に転んでしまった。どうしてくれる。
謝罪と賠償を(ry


916 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/04/30(月) 02:01:55 ID:zmt3rJqi
>>915
お前も入信してしまったのか……


917 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/04/30(月) 02:07:29 ID:aKmhGK83
>>915
 だが、私は謝らない。

「僕を神として崇めるというのはどうかと思うが、それがキミがキョンのパートナー
としての僕が、涼宮さんよりも相応しいという意味での発言であるのなら、とても
嬉しく思うよ。ただ、如何せんね、ドラマツルギーで言えば、僕は横恋慕をしてい
るようなモノだしね。僕の敗北は戦わずして、決定的さ。だけど、そのことなら、
いみじくもこのスレの住人なら百も承知というものだろう。ああ、いいんだ。僕は
僕自身に関する欲望も希薄なタチでね。ただ、キョンとの間の友情だけはキチン
と復活させておきたいのさ。そういう意味では、僕はキョンに対して、とても複雑で
そして特別な立場を要求している。その一助にキミがなってくれるというのは、
とても、そうとても心強いよ」
 そう言って佐々木はくつくつと、咽の奥から不可思議な笑みを漏らした。

 って、俺の中の佐々木シミュレータがなんか言ってた。