【涼宮ハルヒの憂鬱】佐々木ss保管庫

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佐々木スレ4-752 「宣戦布告?」(2)

2007-04-29 | 佐々木×キョン×ハルヒ

758 :宣戦布告?:2007/04/29(日) 09:27:31 ID:Lcq9Zwfn
それでもさっき考えていた感想を口に出してみる。
「ああ、中々よかったんじゃないか?」
だがハルヒは俺に続きを言わせず、下手人を裁く名奉行のように即座に切って捨てた。
「嘘ね。あんた、1ミリ秒も考えずに用意していた答えを出したでしょ? わかってんの
よ。キョン、あんた映画が始まって15分ぐらいからずっと寝てたでしょ」
ばれてたのか……。
しかも、佐々木が歩兵の援護を行う砲兵のようにさらに追い打ちを掛ける。
「その後クライマックス寸前で目を覚ましていたみたいだけど、ラブシーン直前で再び意
識レベルがゼロに限りなく近づいたようだね。キョン、僕はキミに仮眠室を提供したつも
りはないのだが、それほど環境の良い寝場所だったかい?」

俺の行動が逐一二人に監視されているような気がするが、まあいい。
だが幸い二人は特段怒ってはいないらしく、俺をからかっているだけのようだ。
「すまん、佐々木。なにしろ座席の座り心地はいいし、劇場内は眠気を誘う暗さだったも
んでつい、な。悪かったよ、せっかく誘ってくれたのにな」
本当の理由は言わないでおく。
俺の弁解を聞いて、佐々木は少し表情を緩めると俺を悪戯っぽい目線で捉えながら、
「薄々予感はあったよ。映画に行く前からね。僕が言うのも何だが、キミが関心を持ちそ
うな映画ではなかったからね。僕の選択ミスかな」
それなら別の映画にしてほしかったのだが。

「でも、悪くはなかったわね、あの映画。ちょっとご都合主義が過ぎるところもあるけど、
及第点はあげられそうだわ」
などと、おべっかを使えない辛口の映画評論家のようなことをのたまうハルヒ。
さらにハルヒの批評が続いた。
「なかなか的を射た批評ね」
そう言うと佐々木は、ハルヒに対して微笑みかけた。
俺は堪能したがね

往来で談笑するその二人の姿は、実にほほえましい情景で、しかも黙ってさえいれば絵に
なりそうな美少女と言えなくもない二人が並んで立っているのだ。
そのせいか、他の通行人たちがこの二人と、そしてなぜか俺に対しても好奇の視線を無遠
慮に投げかけている。
これではどうも、尾てい骨の辺りがむずむずして仕方がない。アイドルのマネージャーに
でもなった気分だ。
ハルヒはアイドルって柄じゃないが。

だが俺は、これ以上衆目にさらされてしまうと羞恥心を感じる程度にはまともな人間なん
だ。瀬戸物のような不導体のハルヒと違ってな。
俺としては、ここから逃げ出したい気分で一杯だ。
そこで耐えられなくなった俺は、ハルヒと佐々木の二人を促し、再び地下街へと足を踏み
入れることにした。



俺たちは多くの人が行き交う地下街でひとしきり飲食店を物色し、あれでもないこれでも
ないと迷ったあげく、ハルヒの鶴の一声で、卵料理を出す店に入ることになった。
こいつも意外に、普通の女性が好むものを食おうと思うんだな。
トンカツなんかをガツガツ食い散らかしそうなイメージがあるが。
俺の思いこみ、というか偏見か?


759 :宣戦布告?:2007/04/29(日) 09:28:19 ID:Lcq9Zwfn
テーブルに着いた俺たちはメニューをためつすがめつし、各々が好きなものを注文した。
しばらく談笑していると、注文の料理が運ばれてきたので俺はスプーンを手に取り、一口
それを運ぶ。
うん、なかなかいける。
ハルヒと佐々木も満足そうだ。
すると佐々木は俺に向かってある提案をした。

「キョン、よければキミのを少し交換してくれないか?」
ああいいぜ、と言って俺は佐々木の、そして佐々木は俺の皿から互いに一口掬って自分の
口に運ぶ。
これもなかなか美味いな。
「…………」
「どうしたハルヒ?」
なぜか表情が失せている沈黙のハルヒに声を掛けてみたが、あわててかぶりを振った。
「なんでもないわ!」
ハルヒはなんとも表現しがたい表情で、だがことさら感情を消しながら俺たちを見つめて
いたが、すぐに何もなかったかのように振る舞った。
わけがわからん。

その後昼飯を食べ終えた俺たちは、若い女性向けの服を扱っている店へと足を運んだ。
俺は激しく遠慮したかったんだがな。
女性向け店舗の中で男が一人で待っているという状況は、針山に座禅を組まされているよ
うな居心地の悪さを感じるものだ。
我慢大会か罰ゲームか、どっちでもいいからそろそろ勘弁して欲しい。

いいかげん耐え切れなくなりそうになったころ、試着室から佐々木が真新しい服に身をつ
つんで出てきた。
白地にグレーチェックのサマーニットで、チュニックタイプというらしい。
らしいと言うのは佐々木がそう言っていたからだ。もちろん俺が知っているわけがない。
「キョン、この服はどうだろう。キミに意見を求めたい」
俺に聞かずにハルヒにでも聞けばいいのにと思いながらも、
「ああ、よく似合っているぜ。お前のその細身の体には、そういった服が似合うのかも知
れないな」

そう答えると、佐々木はやや複雑そうな表情で、
「ほめてもらうのは光栄だが……。キョン、キミは今、僕の身体的特徴を遠回しに貶さな
かったかい? これでも多少は身体的数値は増しているんだがね」
なんのことだ? 俺にはまったく覚えがない。
「分かっていないのか。いや、それなら良いんだ。それでこそのキョンだものな」
佐々木は頷きながら俺を見上げ、そしてくくと含み笑いをした。
何やら俺がバカにされたような気がする。
だが俺は気の利いた言い回しが思い浮かばず、呆気にとられた表情のままだった。

「…………」
ここでもそうだ。
すでに買い物を終えたハルヒは、沈黙したまま俺たちのやりとりを見つめていた。
なんだろうな? 
「ハルヒ、トイレにでも行きたいのか?」
我ながら間抜けな質問だと思う。
「違うわよ、バカっ!」
案の定こういう切り返しに合うんだ。


760 :宣戦布告?:2007/04/29(日) 09:29:10 ID:Lcq9Zwfn
途端にハルヒからはやや怒気を含んだ視線が感じられて、頭の中の火災報知器がイタズラ
押しされたようにジリジリと鳴った。
妙な汗が噴き出してきた。
不穏な空気を感じとった俺は、佐々木がレジをすませたのを見計らって二人を促し速やか
に店を出た。
そこでとりあえず、茶店にでも入ってハルヒの機嫌直るのを待とうと思い、一休みしない
かと俺が提案して、適当に見繕って落ち着いた雰囲気の茶店に入った。
しかし俺と佐々木が中学の頃のことを話していると、見てもわかるほどにハルヒの表情が
変化していき、ストローをくわえたまま仏頂面で俺たちに視線を固定させている。
そして時折『ズゾゾッ』とストローで氷を吸い、穴を穿った。

しかし何に対して怒っているのか、ハルヒは自分でも分かっていないように見受けられた。
もちろん俺にもわからない。わかるはずがない。
ただ俺と佐々木が思い出話しに花を咲かせていただけじゃないか。何の問題もないはずだ。
ハルヒを不機嫌にさせる要素はないのだからな。
佐々木は気づいているのかいないのか、平然としているが、これ以上はまずいと俺の動物
的本能が告げている。いや、経験則と言っても良いのかも知れない。
まるで虐げられることが予想されている少数民族のように紛争の匂いを嗅ぎ取った俺は、
敵国に送り込まれた使者のごとく適当な理由を並べ立てて茶店を後にした。
ともあれ、俺たちは今日一日、楽しいひとときを過ごしたことを手みやげに、再び私鉄の
電車に乗り込んで、北口駅前まで戻ることになった。



電車を降り立ち、北口駅の改札を出た俺たちは、最初の集合場所である駅前の公園に解散
場所として向かうことにした。
ハルヒは支線でそのまま帰ればよかったのだが、一度そこに戻りたいということらしい。
それほど余分な電車代があるのなら、たまには俺にもおごって欲しいもんだ。
まあ、気まぐれなハルヒらしいが。
俺は二人に先んじて駅の階段を下り、預けていたママチャリを引き取りに向かった。
地上に降り立つと、やや風が強めなのか公園に植わっている緑なす木々が揺れている。
そういえば少し寒くなってきたか? 俺は引き上げてきたママチャリを押しつつそう感じ
た。
だが遅れて公園にたどり着き、俺を待っているハルヒはその強風に身じろぎひとつせず、
仁王立ちで、また彼女の極小スカートも翻ることなく、まるで5キロの錘を下げているか
のようでこの風にも揺らめく程度だ。

この重力スカートを解明できればノーベル賞でももらえそうだ。
佐々木はといえば、そのサラサラとした髪の毛を抑えながら風に耐えている。
佐々木もミニスカートだが、例によって捲れ上がることはない。
別に期待しているわけではないが。念のため。
俺はその様子を目の端にとめながら、ママチャリを二人が待つ公園まで運んできた。

ハルヒは俺の到着とともに不機嫌そうな表情を続けつつ顔を見据え、やおら口を開くと、
「じゃあ、そろそろお開きにしましょう」
その一言を言いたいがためにわざわざ公園まで来ることもなかろう、と思いつつも俺と
佐々木はうなずき、それぞれ体を帰り道の方向へと向けた。
そこで俺がママチャリのサドルに跨り漕ぎ出そうとしたところ、佐々木が思い立ったよう
な表情で俺に近づき、
「キョン、よければキミの自転車に乗せていってくれないか? あのころのように」
気のせいかも知れんが、ハルヒの表情が険しくなったように感じた。
いや、見てはいない。いわゆる心眼というやつだ。


761 :宣戦布告?:2007/04/29(日) 09:30:30 ID:Lcq9Zwfn
少し躊躇したが、佐々木を乗せるくらいは訳ないだろうと考え直し、佐々木に頷きかける
とママチャリの荷台からホコリを払い落とした。
「すまないね」
といいながら佐々木は俺の後ろに座り、俺のサドルに手を添えて体を固定する。
「…………!!」
だが、またしてもハルヒの体から滲み出ている、どんよりとした雷雨でも降り注ぎそうな
空気が、俺の肌をタワシでこするようにガシガシとまとわりついてきた。

その雰囲気に俺は振り返ることも出来ず、ハルヒ向かって「じゃあな」の言葉だけ置き捨
てて、手をひらひらと振りつつ自転車を発進させた。




公園を後にした俺は、ほぼ1年ぶりに佐々木を荷台に乗せ、帰り道をゆったりとしたス
ピードで走り出した。
口には出せないが、後ろに座っている佐々木は1年前より重くなったように感じる。
成長の跡が感じられたようで、まことに喜ばしいことではあるが。
だが、漕ぎ始めてしばらくの間は佐々木は考え事をしているのか何も話しかけてはこな
かった。
何を考えているんだろうな。失礼な振る舞いをしたハルヒに憤ってでもいるのか?

佐々木はそれを気配で察知したのか、俺が緩やかな勾配をえっちらおっちらペダルを踏み
込んで上りつつあるときに口を開いた。
「キョン、別に僕は彼女の態度に対して怒りを覚えたわけではないよ。実はね、今日僕は
涼宮さんと共に行動していて、一つ感じたことがある。そのことを考えていたのさ」
こんな息の切れそうな状況で話しかけてこなくてもとは思いつつ、
「それはなんだ?」
「僕と涼宮さんには一つの共通点があることが分かったよ」

何を言いだすんだ……。お前とハルヒじゃ性格も考え方もまるで違うだろう。

それを聞いて佐々木はくくっと笑うと、
「表層的には確かにね。彼女は動的、例えるなら興味津々に対象物に好奇をぶつける猫か
な。それに対して僕は内向きの思考で籠の鳥だね。それは静そのものだ。確かにそうだ」
何を言いたいのかわからない。ハルヒの精神分析でもやろうというのか?

「だがね、彼女と僕とは共通する点が一つある。今日、彼女を見ていてよくわかったし、
身につまされもしたよ」
聞こうじゃないか。その共通点とやらを。
後ろで頷くような気配がして、佐々木が話し始めた。
「涼宮さんの心の中には、こんなものはまやかしだとは思いつつもそれが積もり積もって
どうにもならない感情が、まるで崩れる寸前の土砂のように堆積しているのさ。だがそれ
を肯定するには彼女の主義が許さないし、かといって否定ももはやできない。今も彼女は
知らぬふりをしながら、いや、頑として認めずに土砂崩れしそうな山道を通り過ぎている
のさ。本当は崩れそうなことを知っているのにね。……本当に、一年前の僕と同じさ」

口を挟むべきか否か、そもそも俺には理解しかねる話だ。
「すまないね。だが、キミはわからなくてもいい。それでも聞いていてくれないか?」
俺は佐々木の確固たる意志のようなものを感じ取り、黙って頷いた。
「最後にもう一つ、僕の中にもあの頃の揺らめきが蘇ってしまったよ。一年前に胸の奥に
しまって置いたはずなのにな。改めて再認識してしまったよ。ふふっ、キミたちと一緒に
いたせいかな。本当はこれも予想できたことなのだがね」


762 :キョンと変な女 その4:2007/04/29(日) 09:32:11 ID:Lcq9Zwfn
佐々木は自嘲気味にそうつぶやいた。
だが俺は言うべき言葉も見つからず、ひたすらペダルに回転運動を与えていた。
佐々木は少しの間沈黙し、そして意を決したように再び口を開いた。
「キョン、明日涼宮さんに会ったら伝えてくれないか?」
ああ……いいぜ。なんて言うんだ?
「『あなたから取り戻す』と、そう伝えて欲しい。ああ、キミは理解できなくてもいいよ。
理解できればなおさらよかったのだがね」
俺は相変わらず佐々木の言う内容の10%も理解できず、それでも伝言を伝えることを承
諾した。

その後は会話をすることもなく、俺は太陽が沈みゆく赤らんだ空を背にして佐々木を自宅
まで送り届けた。
途中からサドルを掴んでいた佐々木の手が、俺の腰に回されていたことに気づかないふり
をしながら……。



その日の夜から翌日まで、いろいろとやっかいな事が我が身に降りかかってきた。
まずはその日の夜、ハルヒから怒りの電話だ。

「キョン、彼女のどこが親友なのよ!? あれじゃあ、まるで……」
まるで、なんだ?
「うっさい。バカキョン!」
そう喚いて切りそうになったところあわてて呼び止め、佐々木から言付かっていた伝言を
伝えた。
ハルヒは10秒ほど沈黙し、
「……これは……ううん、何のことかよくわからないわね。でも、無性に腹が立つわね。
……それじゃ、もう切るわよ。それからあんた、明日打ち首だから」
打ち首かよ。やけに具体的だな。


そして翌日の学校―――

「あなたは僕に死ねとおっしゃるのですか?」
神人退治(通常の倍ほどを相手にしたそうだが)で一睡もしていない古泉に問い詰められ、
「…………」
全てを見透かしているんだろう、氷室から出たばかりのように凍り付きそうな視線でまん
じりともせず俺を見つめ続ける長門。
朝比奈さんはと言えば、俺がなぜ責められているかまるでわからず、キョトンとした表情
で俺たちの諍いを見守っていた。

これではハルヒが来ても誰も擁護してくれそうにないな。

打ち首決定だ。



俺は朝比奈さんから給仕されたお茶をすすりながら、嵐の前の静けさというやつを満喫し
た。
あの日の夜、佐々木から再び誘いを受けたことは、決してハルヒには漏らさないようにと
誓いながら……。

終わり

**


以上で終わりです。
長くなって申し訳ない。では。


763 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/04/29(日) 09:35:39 ID:Lcq9Zwfn
>>762
タイトル間違えてしまった。