【涼宮ハルヒの憂鬱】佐々木ss保管庫

2chの佐々木スレに投稿されたssの保管庫です

佐々木スレ4-752 「宣戦布告?」(1)

2007-04-29 | 佐々木×キョン×ハルヒ

752 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/04/29(日) 09:21:51 ID:Lcq9Zwfn
では修正と推敲が終わったので投下します。
他スレで投下したものを修正したものです。
10レスほどを予定。原作158ページからの分岐です。

「宣戦布告?」

δ-1

『もしもし』
こだまのように返ってきたその声は、今朝聞いたばかりの女の声だった。
こいつの声を聞いて、なぜかはわからないが、俺にはこいつからそろそろ電話がかかって
きそうな予感がしていたし、実際かかってみると最近同じように電話で話をしたような錯
覚にとらわれた。
それはいいんだが。

「佐々木か?」
「正解だ。キョン、キミが僕という個体を第一声で認識してくれたことには痛快の念を禁
じ得ないよ。先日涼宮さんにキミの親友だと宣言した手前、僕の声をキミのシナプスが伝
達することに齟齬をきたすとなると、少々居心地が悪いのでね」
それを聞いて俺の脳内42型モニターに、先日の佐々木との邂逅の映像がビュンビュンと3
倍速で再生された。音声付きでだ。
だがなぜか、縁日で買い求めた変身ヒーローの出来損ないのお面のような、不思議とも何
とも表現しかねるハルヒの表情までもが再生され、理由もなく頭の中がチリチリした。

「ところでキミは入浴中のようだね。すまない、今さらだがかけ直した方がいいかい?」
いやかまわないと答えると、
「そうかい、では手短に話そう。キョン、キミは明日暇かい?」
俺が忙しいということは世界の危機が訪れているか、それともコペルニクス的大転回に巻
き込まれていることだろうぜ。
つまりは暇だ。

「そうだろうと思ったよ。いや、失礼。実は今、僕の手元に映画の鑑賞券がある。それと
いうのも、かつて東インド会社から発祥した市場主義経済における人類にとって重要な発
明の一つである株式の恩恵を享受できうる立場に僕の父がいるのでね」
つまりはどういうこった。
「端的に言うと、僕はある映画会社の一株主である父から映画の優待券の提供を受けたの
さ」
佐々木はそこで言葉を一度切り、一呼吸おいて再び話を続けた。

「昨日キミにはやや不愉快な思いをさせた詫びということもあるし、再びキミとの友誼を
厚くしたいという僕の願望もある。よければ明日、共に映画を見に行かないか?」
意外な提案だが、こいつと遊びに行くというのも悪くはないな。
別に躊躇することもないので即決した。
「ああ、いいぜ」
「そうか、承諾してくれてほっとしたよ。……では明日、いつもの駅前で午前9時に集合
でいいかな?」


753 :宣戦布告?:2007/04/29(日) 09:22:54 ID:Lcq9Zwfn
佐々木は修学旅行の予定表でも見ているかのようにそう提案した。
別に異論はない。
明日ならハルヒが来ることもないだろうしな。
かまわないぜと俺が返答すると、次に佐々木はまさにコペルニクス的大転回とも言うべき、
予想もしなかった提案を投げかけてきた。
「そこでキョン、キミに頼みがあるんだが……。明日、涼宮さんを誘って連れてきてくれ
ないか?」

俺には一瞬、佐々木が何を言ったのかわからなかった。
すまん、なんだって?
「キミが驚くのも無理はないが……ではもう一度言おう。明日僕とキョン、そして涼宮さ
んの3人で映画を見に行かないか?」
……なんと言おうか、次の日に台風と地震と大津波がやって来ると分かってしまっている
のにもかかわらず、しかもそれでも決行されることになっている遠足の前日のような心境
にさせる提案だ。

「一応聞いておこうか。誰が、そしてなぜ誘うんだ?」
「誰がと言う質問にまず答えよう。もちろん、誘うのはキミに頼みたい。僕はいくら涼宮
さんが有名でも彼女の電話番号を書き留めているわけではないし、またそこまでの間柄で
はないからね」
俺がどう言ったものか呻吟していると、佐々木はまるで交差点で一時停止を忘れた車のよ
うにとどまることなく話を続けた。

「次に何のため、だが、キミがツレと称した涼宮さんに興味を覚えてね。出来れば彼女の
人となりを知りたいと思ったのさ」
「確かに興味深い存在だが、ハルヒは端から見ていれば笑っていられるのであって、実際
に近くにいると、荒れ狂う台風の勢力圏にいるのと同じで、否応なく巻き込まれるんだぜ。
無闇に関わらない方がお前のためだ」
佐々木はくくっと一笑いし、
「キミの忠告には謝意を表したいが、僕はむしろますます会ってみたくなったよ。君がそ
こまで言う人にね。すまないがキョン、頼めるかな?」

世の中には人が見向きもしないようなモノを蒐集したがる好事家がいるというし、ハルヒ
に積極的に関わろうとする阪中のような物好きだっている。
佐々木がどういう気持ちで言ったのかはわからんが、まあそういったことだろう。
それとも、昨日の橘京子や周防九曜が関わっているんじゃないだろうな?
「キョン、その心配はしなくてもいい。今回の件に関しては彼女たちは無関係だ。この提
案は純粋に僕の願望から来るものさ。だが形而下ではなく形而上ではあるがね」

小難しい言葉を羅列しないでくれ。俺の青カビが生えたような脳みそではフル回転させて
も理解するのに小一時間はかかりそうだ。あまりの混乱で、俺の灰色細胞が創作ダンスで
も踊りそうだぜ。
すると何がツボだったのか、佐々木は再びくくっと笑い。
「いや、すまない。だが、そう言った切り返しをしてくれるのはキミしかいないな。ああ、
つまらないことを言ってしまったな。では涼宮さんの件はよろしく頼むよ。それと、キミ
のかわいい妹さんにもよろしく」
そう言い残して佐々木は受話器を置いた。
どこが手短だ……? 
結局長湯になっちまった。茹だりそうだ。


754 :宣戦布告?:2007/04/29(日) 09:23:45 ID:Lcq9Zwfn
しかも佐々木のやつ、厄介な宿題を出してくれたもんだぜ。
ハルヒを誘えだって? それはなんて罰ゲームだ? 残念ながら、俺にはわざわざ虎穴に
入るような趣味はないぜ。
俺は長嘆息して首を振り、湯船から足を浮かせてそのまま風呂場を出た。

風呂場を出ると、手早く部屋着を着て自分の部屋に戻り、子機を手にってハルヒの携帯番
号をプッシュした。
回線がつながり、ワンコール目の鳴り始め、まるで西部劇の抜き打ちガンマンのようにわ
ずか0.5秒ほどの素早さで電話に出るハルヒ。
早過ぎるだろ。お前は携帯電話を監視でもしているのか?

「キョンよね。なあに? いったい何の用なの?」
出るなりそれかよ。
ふて腐れた面をしたハルヒが目に浮かぶようだぜ。
「では単刀直入に言うぞ、ハルヒ。……明日は暇か? 別に暇じゃなければそれで良いん
だが」
どっちかというと暇じゃない方が有り難いぜ。俺にとってはな。
だがハルヒは思ってもみなかったことなのか、3秒半ほどのシークタイムの後、やや怪訝
そうな声色で返答した。
「そうね。明日は特別何か用事があるってわけじゃないけど……。だったら何? また不
思議探索でもやりたいっていうの? それとも小テストに備えて、勉強を見て欲しいのか
しら?」
そのどちらでもないさ。

「話というの他でもない、明日映画を見に行かないか? 実はチケットがあるんだが、
佐々―――」
「映画を見に行こうって誘っているの? しょうがないわね。あんたじゃ他に行ってくれ
る人もなさそうだし、いいわ、一緒に行ってあげるわ。これもあたしの団員たちへの優し
さの表れよね」
まるでうんうんと頷く姿が電話の向こうに見えるようだぜ。
「ちょっと待て、だからなハルヒ、佐々―――」
「良い? 明日の9時にいつもの場所で待ち合わせだからね。遅れたら死刑だから。じゃ
あね、早く寝なさいよ」
「おい、待てハル―――」

切っちまいやがった……。
ハルヒのやつ、俺と2人で行くものだと思っているんじゃないだろうな……?
しかもそんなに嬉々として切ることもないだろうに……。
だが考えても仕方がない。なるようになれだ。とは思いつつ、まるで目的地も聞かずに
突っ走ってしまうタクシーに乗ってしまったような、言いしれぬ不安でいっぱいだった。
俺は両手を広げ古泉のように肩をすくめ、部屋の壁に向かってそこに誰かがいるかのよう
に溜息を投げつけた。
結局、明日のことに思いを至らせ、それに苦悩しつつも普段よりやや早めにベッドに入っ
た。
あまり眠れなかったがな。


755 :宣戦布告?:2007/04/29(日) 09:24:42 ID:Lcq9Zwfn
翌日、波状攻撃のごとく襲い来る睡魔に負けそうになり、妹の実力行使で名誉の戦死を遂
げてしまいそうになりながらも、普段より心持ち早めの起床と相成った俺は、身支度を調
えると一段一段踏みしめながら階段を下り、ダイニングへと向かった。
ダイニングのテーブルに着くと、妹はすでに口いっぱいにパンをほおばって間抜け面をさ
らしているところだった。
みっともない顔はやめなさい。
「キョンくん、今日はハルにゃんとデート~?」
そううそぶく妹に即座にハリセンでツッコミを入れたいところだったが、面倒なので黙殺
した。

それに、下手に答えようものなら勝手について来かねない。こいつには前科がありすぎる
からな。
タイミングよくトースターの焼き上がりのブザーが鳴ったのをこれ幸いにと、焼きたての
トーストを妹から受け取りそれをかじった。
未だ脳がよく働いていないせいか、ハルヒが見ていればおそらく罰ゲームをありがたくも
授かるであろう表情でトーストをくわえながら、今朝のニュースをぼんやりと眺めた。
そうして一度ブルブルッと頭を振ると、眠気覚ましを兼ねた苦めのコーヒーで残りのパン
を流し込み、朝恒例のイベントが終了だ。

それからしばらくソファーでくつろいだ後、時間になったので今日薄くなることが約束さ
れているマイ財布をポケットに突っ込み、ショルダーバッグを引っ掴んで玄関に向かい外
へ出た。
そこで玄関前に用意していたママチャリに跨り、目的地に向けてゆっくりと発進させた。




穏やかな春の匂い立つ風が吹く中、いつもの不思議探索とは違いゆったりとしたスピード
で駅前にたどり着いた。
そのまま自転車を駐輪場に預けると、佐々木かあるいはハルヒが待っているであろう公園
に向かう。
俺は昨日と寸分違わぬその風景を瞳から俺の脳に流し込みつつ、ゆったりとした足取りで
公園に到着した。
そこでは、予定の時間より20分も前だというのに佐々木がすでに待っていた。
律儀なやつだ。ああ、そういえばそうだな、佐々木はこういう女だった。
しかし、どうやらハルヒはまだのようだ。
俺は佐々木に近づくと、舞い散る桜の花びらのように手をひらひらとさせて合図した。

「やあキョン、約束通り来てくれたね。しかし、君が先に来るとは意外だったよ。まさに
青天の霹靂だ」
そこまで大げさに言うこともないだろうに、親しい仲とはいえなかなか失礼な発言ではあ
る。
すると佐々木は手を口にやり、くくっと一笑いするとさも楽しそうに俺を仰ぎ見た。
「これは失敬。親しき仲にも礼儀ありとはいうが、僕はキミに対すると、どうもあまり考
えることなく気安く発言してしまうようだ」


756 :宣戦布告?:2007/04/29(日) 09:25:44 ID:Lcq9Zwfn
まあ、久しぶりに会った今でもあの頃と同じように気安い会話が出来ると言うことも悪く
はないがな。
しばらくの間俺たちが談笑していると、佐々木が不意に俺の背後に向かって微笑みかけ軽
く会釈をした。
なんだ、背後霊でもいるのか? と思ったのもつかの間、突如シベリアの永久凍土に放り
込まれたかのように猛烈な寒気と怖気がゾクゾクと俺の背筋を襲い、わけもなく血の気が
引いた。

「キョン、いったいこれはどういう事?」
振り返ればハルヒがいた。
ハルヒは顔つきこそはっきりとした喜怒哀楽は示していないものの、ハルヒが周囲にまと
わりつかせている空気というか雰囲気は、明らかに異質のものだ。
……やっぱり勘違いしていやがるぜ。ハルヒのやつ。
「よ、よう、ハルヒ。今来たのか」
何をどもっているんだ俺は……?

「キョン、どうして佐々木さんがここにいるわけ?」
声が冷たい。まるで太陽系の果てのように冷え冷えとしている。
「ハルヒ、お前が何を誤解しているのかはわからんが、昨日俺は佐々木と一緒に映画を見
に行かないかとお前を誘おうとしていたんだぜ」
「はぁ? どういうことなの。あんた、あたしを映画に行かないかって誘ったじゃない」

「そもそも、それがお前の早とちりなんだ。だいたいお前は人の話を聞かなさすぎる。頼
むから最後まで俺の話を聞いてくれ」
しかし、俺とハルヒのそんな諍いをしばらくは静観していた佐々木までもが、胡乱な表情
で口をはさんだ。
「キョン、キミはいったいどう言って涼宮さんを誘ったんだい? これではどうも、僕が
君たちのデートの邪魔をしてしまったように見えるじゃないか」

「佐々木、お前は何を言っているんだ。俺はこいつを誘うとき、きっちり説明しようとし
たさ。だが……」
と言いかけたところでハルヒがそれを遮って口を出す。
少し頬に朱が差して見えるのは俺の気のせいか?
「そ、そうよ。佐々木さん。あたしは別にそういうつもりじゃなくて、キョンがどうして
も映画に一緒に行って欲しそうだったから、仕方なくつきあってんのよ。だから、デート
だなんてとんでもない誤解よ。天地がひっくり返ってもありえないことだわ!」

そこまで言うこともないだろう。さすがに凹みたくなるぞ。たとえハルヒが相手でもな。
しかし勝手なことを言う女だ。そもそもハルヒが俺の話もろくすっぽ聞かずに勝手に早合
点して電話を切っちまったんじゃないか。
俺のつぶやきを耳にした佐々木はくくっと笑い、俺の耳に口を近づけ囁いた
「そうかい。それを涼宮さんはキミと二人きりで出かけるのものだと思ったわけだね」
まあ、そういうことだ。

佐々木はそれを聞いて頷くと、今度はハルヒに向き直り、その透き通った瞳でハルヒを見
つめた。
そして佐々木はハルヒに簡単に事情を説明すると、すかさず、
「ごめんなさいね、涼宮さん。キョンがきっちり説明しなかったせいで勘違いさせてし
まって」
佐々木の女言葉での謝罪にハルヒは一瞬戸惑い、なぜか俺を一度ねめつけた後すぐに佐々
木に向き直り、そしてかぶりを振った。
「ううん、佐々木さん。あなたが謝ることはないわ。悪いのはこのバカキョンだから」
待て。俺か? 俺が悪いのか? いや、どう考えても悪いのは勝手に勘違いしたハルヒだ
ろ。


757 :宣戦布告?:2007/04/29(日) 09:26:39 ID:Lcq9Zwfn
まるで犯人はヤスとでも宣告された気分だぜ。だがそんな俺の心の叫びにはまるで斟酌す
ることなく、ハルヒと佐々木は笑顔を向けあった。
今度は佐々木が再び口を開く、
「涼宮さん、よければ私たち3人で映画を見に行かないかしら? それともキョンと2人
きりがいいのなら、私はここで失礼してもいいけど」
「そ、そんなわけないでしょ。別にキョンと2人が良いってわけじゃないんだから……い
いわ、佐々木さん。みんなで一緒に行きましょう」
佐々木はすかさず首肯。

ともかく、これで丸く収まったな。
ハルヒが単に佐々木にうまく乗せられたようにも思えるが、気にしないことにした。
ともあれ、俺たちは連れだって駅の改札へと向かうことにした。



俺たちは私鉄を利用してここらで一番の大都市に向かった。
電車の終点でもあるそのターミナル駅を後にすると、お目当ての映画館へと足を進める。
その間地下に潜り階段を上るなど、複雑な道のりを経て歩くこと10分少々、さすがに地
下街のジャングルにも飽きが来たところ、俺たちはまるで姫がとらわれている塔を探し求
める勇者一行のように、やっとのことで目的地に到着した。
本日の目的地であるその映画館では、常時3本ほどの映画が上映されており、今回俺たち
が入館するのはそのうちのひとつの劇場で、そこではどうやら恋愛ものの映画をやってい
るようだ。
それにしても、恋愛否定組の2人にしちゃ似合わない選択だが、これしかなかったのか?

「たまにはこういったジャンルも良いだろう? キョン。自分の主義主張とは全く真逆の
ものにも関心を持つということは、個々の感性の幅に厚みをもたせるものさ」
そう言いつつ、佐々木とハルヒがずんずんと入り口へと進んでいく。
そこで佐々木が例の優待券をバッグから取り出し、受付のもぎりのバイトに引き渡して中
へと進んだ。




館内が暗闇に包まれて約2時間、上映はつつがなく終了し、俺たちは劇場を出た。
ああ、映画の内容だが、俺は途中で新大陸を探し求めるコロンブスのごとく船を漕いでし
まっていたので、ほとんど覚えていない。
なにしろ内容と言えば、古泉のごとく人類の敵のようにツラのいいやつと、朝比奈さんに
も似た可憐な一輪のヒナギクのような女性との恋愛模様だ。
気分のよいであろうはずがない。
やれやれ、古泉が朝比奈さんを口説いているところを想像してしまったぜ。
まったく、むかっ腹が来る。明日古泉に一発お見舞いしてやろうか。
チケットを提供してくれた佐々木には悪いが、見ていられなかったな。

もしハルヒか佐々木に感想を聞かれれば、適当に「よかった」とでも答えておくか。
それでごまかせるとも思えんが。
俺は護送中の容疑者のように二人に両側を固められ、映画館を後にした。
普通の男なら両手に花だと喜ぶんだろうが、相手が相手だからな。
俺たちは映画館の外へ出たあと、これから昼飯でも食いに行こうかと足を地下街へと再び
進めていると、ハルヒが道路沿いの植え込みの近くで立ち止まり、おもむろに口を開いた。
「キョン、映画どうだった? 感想を100字以内で述べなさい」
さっそく来たぜ。つうか、記述式の問題かよ。


                                  「宣戦布告?」(2)に続く