【涼宮ハルヒの憂鬱】佐々木ss保管庫

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佐々木スレ8-493 「夢」(1)

2007-05-17 | その他佐々木×キョン

493 :夢 :2007/05/18(金) 22:34:18 ID:Q8u/kFth


―――なぁ佐々木、お前と一緒にその……ま、毎年桜が見たいんだが。

―――ほぅ、それはキョンなりのプロポーズかい?

―――あ~、まぁ……その、うん。そう思ってもらって構わないぞ。

―――喜んで受けよう。

―――って即決かよ!? 少しは悩んだり迷ったりしろよ、一生の事だぞ!?

―――おや? キョンは僕に悩んだり迷って欲しかったのかい?

―――グッ……そ、そんな事ぁ無いが……もうちょっとこう……

―――くっくっ、キミが思い描いている情景は映画や小説の中だけさ。それにね……

―――? なんだよ。

―――愛しい人から待ち望んだ言葉をかけられたんだ。悩む訳ないだろう?

――― ―――ッ! はぁ……やれやれだ。

―――くくく、それよりも……幸せにしてくれるんだろうね?

―――あぁ、俺の人生かけてお前を幸せにしてやるよ。

―――そうか、それじゃあよろしく頼むよキョン。

そうして大学3年時に満開の桜の木の下で俺達は永遠を誓い合った。
言葉ほど綺麗な会話じゃなかったけど、まぁ「俺達らしい」って言葉がお似合いなプロポーズだったと思う。



494 :夢 :2007/05/18(金) 22:36:53 ID:Q8u/kFth
蝉の騒がしい鳴き声で目が覚め、ひどい眠気に襲われながらゆっくりと目を開くと、見慣れた天井が目に入ってくる。

「おや? 起きたのかいキョン」

どこから風が? そんな事を思って身を起こそうとした時に、ふいにベッドの横から声がかかった。

「あぁ、佐々木か……おはよう」

声のする方向に首を向けると佐々木がベッドの横に腰掛けていて、その目は崩した線のように笑っていた彼女は
一瞬だけ目をパチクリとさせると、とても懐かしい―――大切なモノを見る様な目で微笑んだ。
はて? 何か変な事を言っただろうか。

「あぁ、おはようキョン。随分と眠そうだが身体の調子はどうだい?」

あぁ、なんか知らんが猛烈に眠いな。
このまま二度寝しちまいそうなくらい眠いぜ。
夜更かしをした覚えは無いんだがなぁ。

「そうか。いやなに、眠いという事はそれだけ心身ともに疲弊しているという事さ。
 睡眠の目的は、心身の休息、記憶の再構成など高次脳機能にも深く関わっているとされ、
 下垂体前葉は、2時間から3時間の間隔で成長ホルモンを分泌する。放出間隔は睡眠によって変化しないが、放出量は多くなる。
 したがって、子供の成長や創傷治癒、肌の新陳代謝は睡眠時に特に促進され、もっとも必要な物とされている。
 ことわざにある『寝る子は育つ』というのもこの辺から来ているのだろうね。
 その他、免疫力やストレス物質の除去などがあるが、完全に解明されていない部分も多いんだが……まぁ僕らには関係無いさ」

そんなに動き回った覚えは無いんだがね。昔の不思議探検の方がよっぽどハードな気がするぜ。
それにしても相変わらず無駄に博識だなぁ、お前は。
それにリアリスト過ぎて夢が無い。っとそうだ、夢といえば懐かしい夢を見たな。

「ふぅん、夢か。ちなみにどんな夢だったのか教えてくれないか?」

あ~、……ぶっちゃけお前にプロポーズした時の夢だった。

「おやおや、それはまた随分懐かしい夢だね。ふむ、夢というのは様々な説があるが一般的には見る者の願望が現れるというよ。
 それはつまりキョンがもう一度誰かにプロポーズしたいという願望の現われかな?」

よしてくれ、緊張でガチガチになるのも、あんなに恥ずかしい思いをするのもお前に対してだけで十分だし、
お前以外にそんな事をするつもりも無い。

「くっくっ、そうだね、キョンの言う通りだ。僕もキミ以外にプロポーズをされるつもりも受けるつもりも無い。
 ふむ、これは俗に言う以心伝心というヤツじゃないか?」

長年お前と過ごしてきたからな。その位の芸当は出来てもなんら疑問に思わんね。 

「ああ、違いない。それより長門さんと九曜さんにも目覚めの挨拶が必要なんじゃないかい?」

なに? と佐々木の視線のを追うといつから居たのか長門と九曜が佐々木と反対側の椅子に腰掛けていた。
あ~……すまん、別に無視してたわけじゃないんだが、その……気が付かなかった。

「いい」

「―――別に……気にしない―――」

そうか、助かる。
二人の返事を聞いて安堵する。全然気が付かなかった……
眠気のせいだろうか、どんなに存在が希薄でも慣れ親しんだ二人の気配をこの距離で感じない訳が無いのだが……


495 :夢 :2007/05/18(金) 22:38:19 ID:Q8u/kFth

「しかしお前等はいつまで経っても容姿が変わらんなぁ」

流石に制服は着ていないが身体的な外見はほとんどあの時と変わっていないと思う。
自分に近かった長門の髪に触れ、優しく―――感謝の気持ちを込めて撫で続ける。
長門の少しシャギーかかった髪は見た目とは裏腹に柔らかく、フワフワしていて気持ちが良かった。

「最近は天蓋……いや、周防とも仲良くしてるか?」

「天蓋領域と―――周防九曜という固体と面識を持ってから仲違いをした記録は存在しない。
 情報統合思念体と天蓋領域も友好的な関係を築いている。問題無い」

「そうか」

「そう」

なら良いさ。
仲が悪いより良い方が良いに決まってる。
いつぞやの雪山の時の様に長門が苦しむ姿なんぞ見たくもないからな。

「……そう」

この対有機性コンタクト用ヒューマノイドインターフェイスである長門と知り合ってからかなり経つが長門も長門なりに
感情を外に出すようになって来た―――それでも俺から見れば、だが―――そのせいか
今の長門がどんな感情を抱えているのかも判断が付くが、なんというか『寂しい』って感情なのかね?
何故そんな感情を抱くのか考えようとしても眠気のせいで頭が回転せずハッキリしない。
そしてもう一人の宇宙人である周防九曜に視線を向ける。
初めて会った時は言い様の無い寒気が襲い、恐怖が俺を支配したが、今では長門と同じように多少なりとも
コイツが何を考えているのかその無表情の向こうにある感情を読み取る事が出来る様になった。
今周防が立っている場所だと手が届かないのでどうしようかと思案していると
その考えを察してくれたのか、向こうから音も無く近付いて来た。

「すまんな周防」

そう言って長門と同じ様に頭を撫でてついでに手櫛で梳いてやる。
彼女の艶やかな黒髪はサラサラとしていて極上のシルクのような肌触りをしており、手櫛は少しも引っかかる事無く梳けた。

「あなたの―――手は―――とても……暖かい―――」

そうか?
自分ではそんな事解らないし、至って普通だと思うんだがな。

「わかってると思うが長門と喧嘩なんかすんなよ?」

お前等が本気で喧嘩したら、それこそ日本どころか世界が破滅しそうだ。
それは勘弁して欲しい。

「―――あなたが―――それを―――望むなら―――」

「そうか」

如何にもコイツらしい物言いに苦笑する。
長門と同じ様にその無表情な顔から何を考えているのか読み取ろうとするが
周防からも「寂しい」という感情が見え隠れしていた。
長門といい周防といい、なんかあったんだろうか?


496 :夢 :2007/05/18(金) 22:39:44 ID:Q8u/kFth

「でも自分でやってみたい事、して欲しい事があったら周りに遠慮しないでドンドン言えよ?
 お前は長門以上に感情のコントロールが巧くないみたいだし下手したら長門の時の二の舞いだ。
 自分の気持ちを溜め込んでも言い事なんざ一つもないんだからな」

1ミリ程度の首肯を持ってそれに応じるコイツを見て「やっぱり長門とコイツは似てる」と思い、顔がほころぶ。

「―――あなたの―――笑った……顔は―――とても―――綺麗ね―――」

おいおいやめてくれ、男が綺麗とか言われてもあんまり嬉しくないぞ。

「おいおいキョン。僕の事は放ったらかしかい?
 キミの女たらしは今に始まった事じゃないが目の前でそうイチャイチャされては僕も堪らないのだが」

底冷えする様な声に慌てて佐々木の方を向くと、拗ねたような顔をする佐々木の顔で俺を睨んでいる。

「女たらしにイチャイチャって……お前なぁ」

「くくく、冗談さ。僕だってキョンとはそれなりに付き合いは長いからね。
 キミが意識してそういう事をする訳無いと知ってるし、信じているさ。問題は無意識でそれをする事だ。
 そのくせ他人から寄せられる好意には殺人的に鈍いと来てる。これは一種の才能かもしれないね。
 よく今まで生きていたモノだ、普通なら誰かに刺されていてもおかしくないよ」

「勘弁してくれ……刺されるって単語は俺の中の思い出したくない記憶ワースト上位を2つも占めてるんだ」

「……いや、冗談だったのだが、まさか本当に刺された事があるのかい?」

あー、一回目は未遂で、二回目は脇腹にブッスリだった。
止めよう、思い出しただけで刺された箇所がチクチクするんだ。

「そうだったのか……いや、悪い事を聞いてしまったな」

俺の名誉為に言っておくが、決して女性関係でそうなったんじゃないぜ?全部ハルヒ関連だからな。
……いや、一回目はともかく、二回目は女性関係なのか?
寝惚けた頭でそんな事を考えていると猛烈な眠気が襲ってくる。

「キョン? 眠いのかい?」

あぁ、なんか知らんが睡眠不足みたいだ。
すまんが……ちょっと……眠る。

「そうか……そうするといい。勿論夢の中で僕の事を想ってくれるんだろう?」

はは、そうだな。
自分で好きな夢が見れるのなら俺もお前の夢を見たいよ。
例えしわがれた婆さんになってもお前は綺麗だからな。

「うん……その言葉を聞いて安心したよ。ゆっくりと眠るといい」

「あぁ、そうさせてもらうか―――おやすみ佐々木」

「あぁ、おやすみ……キョン。良い夢を」


                              「夢」(2)に続く