【涼宮ハルヒの憂鬱】佐々木ss保管庫

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佐々木スレ8-493 「夢」(2)

2007-05-17 | その他佐々木×キョン

497 :夢 :2007/05/18(金) 22:42:16 ID:Q8u/kFth


『おやすみ』それが彼が残した最後の言葉となり、言葉通りそのまま眠るように逝ってしまった。
でも私はそれほど驚かなかった。なぜなら彼の顔は私の両親が亡くなる前とよく似た表情を……眠たそうな顔をしていたから。
葬儀は彼と私の肉親、それと親しい友人だけで簡単に行った。
キョンの妹さんとその友人であるミヨキチと呼ばれた子の泣き顔が印象に残った事を覚えている。
私は……不思議と涙は出なかった。喪主を務め、葬儀に参列してくれた人にお礼を述べる。

最後に目を覚ました時に私の事を旧姓で呼んだのは何か意図があったのだろうか?
それとも彼の事だから何も考えずに夢に影響されて呼んだだけかもしれない。

「質問がある」

葬儀も終わり、後片付けも一段落して、そんな事を考えながら休憩を取っていた。
歳のせいか最近やけに身体が疲れやすくなってきた。といつの間にか九曜さんを連れた長門さん傍にいて私に声をかけてきた。

「なにかしら?」

「彼が生命活動を停止する前から私の―――『私達』の中に解析出来ないエラーが連続して発生している。
 それは情報統合思念体にも天蓋領域にも解析出来ないエラー……未知のエラーが私達に発生している。
 そして同じ波形のエラーがあなたの中にも発生している。だからこのエラーの正体を知っているなら教えて欲しい」

あぁ……そうか。人間なら当たり前に理解出来るこの『感情』が彼女達には理解出来ないのだ。
長年一緒に過ごした為か、彼女達が宇宙人に作られた存在という事をすっかり失念していた。
そう思うと私も彼に毒されていたんだなぁ、と改めて実感して笑いが零れてしまう。
そしてそんな感情を彼女達にもたらした自分の夫に目を向け、やっぱりキョンは女誑しなのかな? という思いも出てきた。

「それはね長門さん……『悲しい』と言う感情なの」

彼の遺影に目を向けたまま、優しく―――諭すように告げる

「今まで存在していて当然と思ったモノが忽然と消えてしまう事に対する戸惑いや悲しみ、虚無感、無力感。
 そういった感情を貴女達は今学んでいるのだと思うわ」

「―――よく―――わからない―――」


498 :夢 :2007/05/18(金) 22:43:57 ID:Q8u/kFth
最初に知り合った頃に比べて九曜さんも彼と会って大分変わったからな、心の整理が付かないのか……

「うん、今はまだそれで良いと思うの。でもね、時間が経つにつれて、その感情は重く、大きくなってのし掛かってくる」

彼に抱きしめてもらう事はもう出来ない。
彼の笑い声も二度と聞けない。
彼はもう二度と私に話しかけてくれない。
そんな世界に生き続ける意味はあるのだろうか?
いっそこんな世界を捨てて彼の居る世界へ旅立ってしまおうか?
……でも私はまだ幸せな方なのかもしれない。何しろあと数年も生きれば彼の元に行けるのだろうが、彼女達は違う。
彼女達には『死』という概念が存在しない。つまりその悲しみを背負ったまま永遠と生き続ける事を意味するのだ。
自分だったらとても耐えられないだろう。

「「ごめん……なさい」」

えっ? と思った。だって彼女達に謝ってもらう理由が思い付かない。

「何故……貴女達が謝るの?」

むしろこれからの事を思えば彼女達の方が辛い筈だ。

「―――わから―――ない……でも―――」

「あの人なら、きっとそう言うと思ったから」

そう言う彼女達の言葉を聞いて

「あぁ、それはとても……とても彼らしいな。」

そう素直に思える自分がいた。


499 :夢 :2007/05/18(金) 22:45:16 ID:Q8u/kFth
寝ても覚めても彼の事ばかり思い出してしまうのはこの家には彼との思い出が多すぎたせいもあるだろう。
彼がいなくなって初めての春が来る頃には私は次第に衰弱していった。身体ではなく、『心』が。
そしてそれに呼応するように身体も弱っていった。
まさに「病は気から」とはこの事だろう。昔の人はよく言ったものだ。
彼との間に生まれた娘も「一緒に暮らそう」と言ってくれたが、私は今の家を離れるつもりは無かった。
この家にはキョンとの思い出が沢山残っていたし、彼の約束が残ってる私にそこを離れるなんて事は出来なかった。
だから私は一日中睡眠ばかり取っていた。
寝ている間は彼の居ない世界を見なくて済む。それどころか夢の中で彼に会えるのだ。
ただ春に近付くにつれて眠る頻度は減って行き、縁側に腰掛けて庭にある桜の木を見上げる時間が増えた。
ここに元からあった木ではなく「あたしからの結婚祝いっさ~! 喜んでもらえればうれしいにょろよ!」と言って
鶴屋さんが家にある桜の木を一本、勝手に植え替えてしまったのだ。
当然最初は「そんな物をもらう訳にはいかない」と遠慮していたのだが、あれよあれよと言う間に準備は進んで
気が付けば元々そこに生えていたかのようになってしまった。
植物というのは環境や土が変わると枯れてしまったり、駄目になってしまうものも多いのだが
幸いにしてこの桜はそんな事にはならず毎年こうして見事な桜を咲かせてくれている。

「ねぇキョン、毎年と僕と桜を見るって約束だったじゃないか。
 僕は桜を見てるのに今キミは傍に居ない、これは一種の契約違反じゃないだろうか」

思わずそんな呟きがもれてしまう。
あぁ、今まで意識しなかっただけで自分はこんなにも彼を想い、惹かれ、愛していたのだと理解する。
なのにそれでも―――それでも涙は出なかった。
元々自分が涙を見せるような人間でないのは判っていたが、彼が亡くなっても涙は出なかった。
何故だろう? 彼がもうこの世界にいないのは理解しているのに……
もしかして私は彼の事を本当は愛してなどいなかったのだろうか? そんなありえない考えまで浮かんで来てしまう。

「佐々木さん」

いきなり自分の旧姓を呼ばれてドキッとした。
今日は誰かが訪ねてくる予定は無いし、備え付けのチャイムが来客を告げる音を聞いた覚えも無い。
仮に訪ねてきたとしても今の私は結婚して彼の姓を名乗っている。間違っても旧姓では呼ばれないはずだ。
一体誰が、何処から? そう思って視線を巡らせると桜の木の下に一人の女性が不安気な様子で立っていた。

「あなたは……朝比奈さん?」

そう、彼女は朝比奈みくるに良く似ていた。
私は高校を卒業するまでの彼女しか知らないが、彼女が成長したらきっとこんな美人になったに違いない。

「あっ嬉しい! 覚えててくれたんですね!」

そう言う彼女には先ほどまでの表情は既に消え、とても嬉しそうだった。

「あの人がよく話してくれたわ。美味しいお茶を入れてくれる未来人の先輩がいる、と」

そうですか。と言って懐かしそうに微笑む彼女は見る者全てを魅了するような可憐な笑顔を浮かべていた。
同性の私から見ても可憐な女性だと素直に思える。

「未来からわざわざお茶の話しをしに来た訳でもないのでしょう?」

「えぇ……佐々木さんは最近寝て過ごしてばかりいるんですか?」

「あら? 未来ではそんな事も判ってしまうの?
 そうね、寝ている最中は―――夢の中ではあの人と一緒に過ごせるから……」

「そうですか……私は今仰ったように未来から―――ある物をあなたに届ける為にやってきました」


502 :夢 :2007/05/18(金) 22:46:41 ID:Q8u/kFth
「わたしに?」

さて、わたしにも未来人の知り合いは二人の男女がいたが、男性の方はそんなに協力的とは言えなかったし
勿論彼と朝比奈さん以外に未来人の知り合いはいない。では一体誰が、何の為に?

「全てはコレに入っている映像が答えをくれる筈です」

そう言って彼女はポケットから一個の小さな箱のような物を手渡してきた。
ただその箱は鈍い銀色をしていてどこにも溶接したような後がなく、また蓋も無かった。

「これは一体どうすれば?」

「そのまま持っていてくれればすぐに判ります……それでは三十分ほどしたらまた伺いますね」

えっ? と思い顔を上げるとそこにはもう朝比奈さんの姿は影も形も無かった。
姿を見えないようにしたのか、それとももうこの時間世界から消えてしまったのか知らないが……なるほど
未来の科学技術は大した水準に達している様子だ。

「さて、問題はこのシルバーボックスかな?」

中身は何なのか? 
どういう使用法なのか? 
どうやって開けるのか? 
そもそも中身が入っているのか? 
解らない事だらけだ。
そうしてなにか手がかりは無いかと手探りで弄っているとカチッとスイッチが入るような音が聞こえたかと思うと
突然目を開けていられないほどの光が辺りを覆った。
光が収まった時に目の前にいる人物を視界に納めた時、私は自分の目が今の光でおかしくなってしまったのではないかと思った。

―――だってそれは

「な、なん……で」

―――私が一番会いたくて

「きょ―――ん?」

―――もう二度と会えない人だったから

そう。目に前には昔の―――結婚してから5年目くらいの―――彼が立っていた。真っ直ぐに此方を見つめている。

「本当に……キョン、なのか?」

そっと手を伸ばすがその手は何も掴む事無く空を切り、彼の身体も通過してしまった……つまりコレは幻の一種なのだろう。

「は、はは……そうだね。キミはもう……この世界には居ないんだもの」

自虐的な笑いが浮かんで、そんな顔を彼に見られたくない。そんな事を思って思わず俯いてしまう。
でも―――それでも、こうしてキミを見る事が出来て嬉しい。そう思える自分も確かに居たのだ。

『えっ!? これもう始まってるんですか!?』

いきなり彼が驚いたような声を上げたので、顔を上げてそちらを見てしまう。
そこには少し困ったような顔をした彼がいた。


509 :夢 :2007/05/18(金) 22:59:38 ID:jt9vZE85

『あー、えっとだな……佐々木、見えてるか?』

―――あぁ……見えてるよ、キョン。

『あまり想像したくないが、これをお前が見てるって事はおそらく俺はお前より先に死んじまったって事だと思う。
 お前を幸せにするって約束だったのに、お前より先に逝っちまったって時点でお前はもう不幸だと思ってるかもしれない』

―――全くだ、ひどい男だよキミは。

『これは予想でしか無いんだが、お前は俺が死んでも泣かないと……いや、少し違うか。お前は『泣けない』と思う。
 自惚れさせてもらえるなら俺達は互いが互いを大事にしていた。
 だからお前は俺の死って事実を『理解』はしても『納得』はしないだろうと思う。
 そして今の家から離れずに俺との思い出ばかり追ってるんじゃないか?』

―――そう……だね。キョンの言う通りだ。僕はキミの幻影を追ってばかりいるよ……

『それ自体は俺も嬉しいと思う。お前にそれだけ想われてるって事だからな』

―――当たり前さ。キミは僕が愛したただ一人の男性なんだぞ?

『だから俺を忘れろ、とは言わん。『俺への想い』に縛られないでくれ』

―――…………。

『俺はもうお前の傍にはいられない、死んじまったんだ』

――― ―――ッ!

『でも陳腐だと思われるかもしれんが、俺はお前を見守り続けて行きたいと思ってるからな。
 いつまでも俺に拘ってるお前は見たくないんだよ』

―――あぁ、そうかも知れないね。

『だからな佐々木、思いっきり泣け。泣けば多少はスッキリする。人目なんざ気にするな。
 俺はお前を抱きしめてやる事はもう出来ないが、お前はお前の納得出来る人生だった、と。
 俺と結婚して幸せだったと胸を張って言えるような人生を送ってくれ』

―――もうキミの姿が滲んで見えないよ……キョン

『あー、色々御託を並べてみたがお前と桜が見たくてこの映像を撮ってる。
 しばらくは何にも喋らないからお前の横でお前と桜を見させてくれ。
 最後に……佐々木、俺はお前と結婚して幸せだ。今もそして死ぬ瞬間も、死んでからもその思いは変わらないと確信を持って言えるよ』
 
―――えぇ、私もよ。

『じゃあな、愛してるよ―――』


511 :夢 :2007/05/18(金) 23:01:10 ID:jt9vZE85


そうして私のいつもの「佐々木」ではなく、下の名前を彼に呼ばれた瞬間が限界だった。
私は泣いた。人目をはばからず、彼が死んでから今まで、溜め込んでいた悲しみを吐き出すような慟哭だった。
目の前に彼がいてくれる。例えそれが実態の無い映像だとしても彼が傍にいてくれるだけで私は幸せだった。
私は彼の死を理解はしていたかもしれない。でも、心の中ではそれを納得していなかった。認めていなかった。
だから泣けなかったのだと思う。
そして桜の木が静かに枝葉を揺らし、私の姿を隠すように桜吹雪を舞わせていた。

「ふふ、男の子に泣かされたのなんて何年振りだろう、なんだか泣き疲れちゃったよ」
涙を拭ってウトウトして独り言を呟いたつもりだった。

「俺の肩でよけりゃ貸してやるぞ?」

だからその言葉が聞こえた瞬間は幻が喋ったと思った。

「失礼なヤツだな。幻でも夢でもこうしてお前を想ってやって来たんだぜ?」

えぇ、そうね。それでこれはあなたの夢? それとも私の夢かしら?

「別にどっちでもいいだろ? 大事なのは俺がいてお前がいるって事だけさ」

ふふ、そうね。さて、それじゃあ改めて桜を見に行きましょう。

「家の桜じゃ駄目なのか?」

せっかくだもの。あなたにプロポーズされた桜を見に行きたいわ。

「あそこまでか? かなり距離があるんだが……」

いいじゃない。どうせ夢なんでしょう?
夢の中でくらいあなたとデートを楽しみたいわ。

「やれやれ」

さ、行きましょう。
そう行って彼の腕に抱きつき、体重を預ける。
あぁ、彼の体温だ。彼の匂いだ。コレが夢ならば、永遠に覚めないで欲しい。

「ま、これは夢だからな。お前が望めばそれも出来るんじゃないか?」

それは良い事を聞いたわね。じゃあずっとここに居ようかしら?

「お前がそれを望むならな」

そうして私は愛する人と歩き出す。
一歩一歩を踏みしめる様に、歩き出す。


512 :夢 :2007/05/18(金) 23:02:37 ID:jt9vZE85

そうして彼女が再びやって来るとそこには風に揺られてざわめく一本の桜の木と縁側に腰掛けて静かに眠る彼女の姿があった。

「佐々木さん、起きてください風邪を―――」

風邪をひいてしまうと思い声をかけ様として、彼女はそれを止めた。
彼女はとても安らかな、幸せそうな顔をして眠っていた。
その眠りは二度と覚める事は無い。けれど愛する人と本当の意味で永遠になれたのだから、彼女はきっと幸せなのだろう。
夢の中できっと二人は幸せに暮らすのだろうから。

「おやすみなさい佐々木さん―――どうか……良い夢を」

桜の木がその言葉に答えるように微かに揺れた。


~Fin~


513 :あとがきという名の懺悔 :2007/05/18(金) 23:03:51 ID:jt9vZE85

はいお終いDEATH

コンセプトは

・桜の木の下で告白。
・キョンが先に逝ってしまう。
・悲しみに暮れる佐々木にキョンからのメッセージが届く

大本のネタは、いきものがかりの「SAKURA」をBGMに書いてたら思いついた。
「寝ても覚めても~」の辺りから以下の曲をBGMで流しながら読んでみてくれ
ttp://www.youtube.com/watch?v=mlpSeZpCs0c&mode=related&search=

これらを目標にしてやった筈なんだが……佐々木とキョンが結婚した場合の佐々木の言葉使いがどうなるか全く判らないのと
佐々木視点の言葉使いの難しさから途中で書いてる本人も何がどうなってるのかサッパリな状況になってきた。
前後の会話が成り立ってねぇ!!
佐々木が見ていた夢でどっちの意味に取れるようにしようかと言う脳内会議があったがあえてこのままで。
う~ん即興SSは難しいボスケテ

この即興SSで学んだ教訓
・お酒に酔って変なテンションで話を書くと碌な目に合いません。