合唱で語る音楽を目指して… 第一混声合唱団

第一混声合唱団、通称“いちこん”の記録
指揮者・作曲家の岡田和夫死去により2018年3月、47年の歴史に幕を閉じました

「いちこん」を指揮するときに考えたこと 

2016年08月27日 | ◆コンサート2016パンフレット

第二弾、印牧先生です。

ごあいさつ

 ~「いちこん」を指揮するときに考えたこと

       印牧(かねまき)真一郎

 みなさま、お暑うございます。今回指揮者として呼んでいただいた印牧真一郎と申します。

 本日、演奏会のメインスローガンというか呼びかけに“青葉したたれ”をかかげました。岡田和夫さんが永年取りくんできたヒロシマへの想いの詰まったことばで今回の演奏会の性格を端的にあらわしています。
 “青葉したたれ”を聞いたとき、私は、きれいで美しく、力強いことばだと思いました。
 その一方、「“民独”かかえて85歳」というのはどうかな?と、チラリと思い浮かべたりもしました。『民独=民族独立行動隊の歌』は、岡田さんの原点だと思うからです。

 「工員」としてはじめてメーデーに参加し「労働者」と呼ばれることに誇りを感じた青年 岡田和夫は、映画『シベリア物語』やショスタコーヴィチの『第五交響曲』などに深く触発されながら、ピアノや作曲などの音楽の勉強を独学で進め、この時代の課題や矛盾を真正面から受け止める音楽家として、たゆむことなく活動してきました。
 そして今回、宮沢賢治とヒロシマです。これはとてもすごいことで、脱帽!です。

 「いちこん」のレパートリーは『外郎売の科白(ういろううりの せりふ):二代目市川団十郎』『手なし地蔵ものがたり:熊井宏之』『グスコーブドリの伝記:宮沢賢治』など多岐にわたっていますが、その中心のテーマは日本語を歌うこと、日本語を物語ること、そして日本民衆の姿を描きだすことを目指す合唱団であると、外野から、心強く見ていました。この目標にもちろん大賛成、私自身のテーマでもありますから、指揮をしないかとお誘いを受けたとき、一も二もなくお引き受けしてしまいました。

 でも、目標が同じだからといって同じことをやっても、仕方ありません。そこで、私は永年歌いつづけてきたけれど、「いちこん」はあまり歌ってこなかったであろう林 光「ソング」を選びました。「ソング」は日付を持っています。今日歌う『欠陥』の詩人ブレヒトは、ブレヒトやアイスラーをドイツからアメリカに追いやったヒットラーなど、ファシストたちを念頭に詩を書いたに違いありません。亡くなった林光さんがこの歌を歌う時はいつも、その時々の権力者を示唆するおしゃべりをしていました。今日これを歌うみんなは、きっとそれぞれに、誰かをおもい浮かべて歌うはずです。

 もちろん日付のない歌もありますが、日付のある歌は歌い手に明確な主体を求めてくる厳しく恐ろしい存在です。主体が明確になるにつれ、言葉と音色がはっきりしてきます(逆はありません)。歌い手の気持ちが感じとれ、それにつれて音楽も輪郭が鮮やかになり心地よい歌になってきます。指揮者としての私の課題は、まさにここにあります。

 演奏前にこんなことを言ってしまうなんて、お客様みなさまの批評がコワイヨー!です。ですが、私を含め演奏者がそれをしっかり受け止めれば、そこから聴き手と歌い手とのより密なる関係が生まれ、次の力が湧いてきます。今年の「敗戦の日」8月15日がそんなきっかけの一日にもなりますよう、心から願っております。