安田義定が遠江に向かった直後、義定の後を追うように院ー後白河法皇の使者が東国へと向かっていた。
その使者は真っ直ぐに鎌倉へと向かう。
鎌倉にある源頼朝は使者を歓待する。
使者中原康貞は頼朝に院の要請を打診する。
「では、院はこの頼朝に上洛せよと仰せで?」
「はい、都の治安は悪くこたび上洛した義仲らの兵の狼藉は目に余るものがあります。
ここで鎌倉殿に上洛していただいて事態の打開を図っていただきたく・・・」
使者中原康貞は頼朝に院の意志を伝える。
「院の思しべしは他にございませんか?」
上座に座す中原康貞に対して頼朝は丁重に接する。
「実を申しますと、諸国からの年貢が集まらず都では大層困っておりまする。
宮中の厩も馬に事欠く始末でして。
そこで、鎌倉殿のお力で東国の年貢を都に納めていただきたいのです。」
この康定の言葉に頼朝は困ったような顔をしてみせた。
「しかし、公の土地は国司が年貢の責めを負い、荘園は本所の命で年貢が運ばれまする。
この頼朝が公や本所に勝手に年貢をお収めしてもよろしいのでしょうか?
東国には国衙があり、荘園の下司も確かにおりまする。」
その国衙の目代は反乱軍となった頼朝や甲斐源氏、そしてその配下によって追い出されるか、締め付けられている。一方荘園の方も下司も追い出されるか頼朝の配下となって本来都の本所に収められるべ年貢を滞納しているのである。
少なくとも頼朝が了承しなければ坂東の年貢は都に上ることはないというのが現状である。
その実態を院、そして目の前にいる康貞が知っている。しかしそれを見越して頼朝はあえて言っている。
康貞はたじろぐ。
その様を見て頼朝は言う。
「しかしながら、私は院に御仕えして忠誠を示したいと願っておりまする。
頼朝にできることであれば、年貢の納入などをはじめ様々に院の為に力を尽くしたいと存知まする。
けれども、今の頼朝は院にお尽くししたくてもそれができぬ身の上にございまする。
私は現在は流人。院にお尽くしすること叶わぬ身でございますれば・・・」
平治の乱で官位を没収され、翌年流刑に処せられて以降頼朝は公的には流人のままである。
康貞は頼朝を一瞬睨みつけた。
「では、流人でなくなれば院に忠誠を尽くすことができる、と。」
「さようにございまする。と言いたいところでございますが、そのようになりましても、たかだが従五位下に過ぎなかった私の言葉など誰が聞きましょうや。
東国の者達を動かすには院のお力が必要にございまする。」
「何と!」
「院のお力添えを頂けたならば、坂東のみならず、東海、東山、北陸諸国の者は皆共にもれることなく院のご威光に従い、頼朝を通じて院に忠誠を誓うはずにございまする。」
頼朝は最も言いたかった一言を康貞に伝えた。
中原康貞は、頼朝の意を測りかねた。
頼朝は真っ直ぐな目で康貞を見つめる。
数日後康貞は頼朝からの書状を携えて都に戻った。
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その使者は真っ直ぐに鎌倉へと向かう。
鎌倉にある源頼朝は使者を歓待する。
使者中原康貞は頼朝に院の要請を打診する。
「では、院はこの頼朝に上洛せよと仰せで?」
「はい、都の治安は悪くこたび上洛した義仲らの兵の狼藉は目に余るものがあります。
ここで鎌倉殿に上洛していただいて事態の打開を図っていただきたく・・・」
使者中原康貞は頼朝に院の意志を伝える。
「院の思しべしは他にございませんか?」
上座に座す中原康貞に対して頼朝は丁重に接する。
「実を申しますと、諸国からの年貢が集まらず都では大層困っておりまする。
宮中の厩も馬に事欠く始末でして。
そこで、鎌倉殿のお力で東国の年貢を都に納めていただきたいのです。」
この康定の言葉に頼朝は困ったような顔をしてみせた。
「しかし、公の土地は国司が年貢の責めを負い、荘園は本所の命で年貢が運ばれまする。
この頼朝が公や本所に勝手に年貢をお収めしてもよろしいのでしょうか?
東国には国衙があり、荘園の下司も確かにおりまする。」
その国衙の目代は反乱軍となった頼朝や甲斐源氏、そしてその配下によって追い出されるか、締め付けられている。一方荘園の方も下司も追い出されるか頼朝の配下となって本来都の本所に収められるべ年貢を滞納しているのである。
少なくとも頼朝が了承しなければ坂東の年貢は都に上ることはないというのが現状である。
その実態を院、そして目の前にいる康貞が知っている。しかしそれを見越して頼朝はあえて言っている。
康貞はたじろぐ。
その様を見て頼朝は言う。
「しかしながら、私は院に御仕えして忠誠を示したいと願っておりまする。
頼朝にできることであれば、年貢の納入などをはじめ様々に院の為に力を尽くしたいと存知まする。
けれども、今の頼朝は院にお尽くししたくてもそれができぬ身の上にございまする。
私は現在は流人。院にお尽くしすること叶わぬ身でございますれば・・・」
平治の乱で官位を没収され、翌年流刑に処せられて以降頼朝は公的には流人のままである。
康貞は頼朝を一瞬睨みつけた。
「では、流人でなくなれば院に忠誠を尽くすことができる、と。」
「さようにございまする。と言いたいところでございますが、そのようになりましても、たかだが従五位下に過ぎなかった私の言葉など誰が聞きましょうや。
東国の者達を動かすには院のお力が必要にございまする。」
「何と!」
「院のお力添えを頂けたならば、坂東のみならず、東海、東山、北陸諸国の者は皆共にもれることなく院のご威光に従い、頼朝を通じて院に忠誠を誓うはずにございまする。」
頼朝は最も言いたかった一言を康貞に伝えた。
中原康貞は、頼朝の意を測りかねた。
頼朝は真っ直ぐな目で康貞を見つめる。
数日後康貞は頼朝からの書状を携えて都に戻った。
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